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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
レーグナの章
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第22話 34歳の乙女


 大きな扉がゆっくり開き、それに合わせてヘイルズ伯が深く頭を下げた。僕も同じ様に頭を下げたそしてそのまま前に進んで伯爵に合わせて頭を上げた時、僕の目にヤツの顔が映し出されたんだ。


「無礼者!」


 そんな女性の叱責の声で我に返ったけど、自分が今何をしているか気付いて愕然としたよ。僕の腰には精剣が現れ、僕の手はしっかりとそれを握っている。その上、玉座に座る魔王陛下の後方に立っているヤツに向かって明確な敵意を向けていたんだ。見ようによっては、僕が魔王を殺そうとしているように見えるだろうね。


「魔王陛下、この者は若く、緊張のあまり咄嗟にこの様な事をしてしまったのです。どうか、お許しを!」


「ヘイルズ伯、その様な戯言が通用する筈もない事はお分かりですわね?」


「くっ!」


「貴方の護衛の不始末償えとは言いませんわ」


「ダリヤ殿下?」


「貴方の護衛の身柄こちらで預からせていただきます、宜しいですわね?」


 ヘイルズ伯がうな垂れる様にしているのが分かるよ、この事態は十分予想出来たし、ジルも警告してくれたのに……。ヤツを仮想敵にして修行に励んだのが裏目に出た、ほぼ自動的に構えを取っていたし……。


「伯爵、これは僕の失態です。アクシリス王国の為に僕を見捨てて下さい」


「ヒロキ殿?」


「大丈夫です、僕には奥の手があります」


 ヤツに封じられなければだけどね? ヘイルズ伯は何か言いたそうだったけど結局何も言えずに謁見の間から追い出されてしまった。これで僕は孤立無援と言う訳だ。(まるで、アクシリス王国に侵攻してきた無謀な王子様みたいだ)


「その無粋な兜を外しなさい、勇者ヒロキ」


「やはりばれていましたね。竜王子殿が居るのだから当然と言えば当然かな」


 僕は開き直って、重い鎧を全て外してしまったよ、下には、例の勇者の衣装ver.2を着ているから問題無い。


 竜王子キョウガは僕の事を見破った、逆に僕はキョウガの存在を感じる事も出来なかったんだ。バックス殿下の言う通り、まだ僕じゃ竜王子の敵にもならないらしい。ただ、ヤツが僕を見る目が訝しむ感じだったのが救いだね。多分ジルの事を感じ取ったんだろうけどさ!


「こんな弱そうな男に兄様は負けたと言うの?」


「弱そうって女性に言われたのははじめてですよ、ダリヤ殿下」


 男からは何度か言われた事があるよ! 自慢にならないけど、強そうと言われた事もないし、これからも言われる気がしないけどさ!


 ダリヤ殿下は先程の交渉の場と違って、戦にもで向かうような格好をしていたよ。奇妙な色のレザーメイルと腰に佩いた曲刀と来たよ。何故かさっきのドレスよりも似合っているけどね。


「本当に無礼な男!」


「さっきのは僕が悪かった。それは認めるけど、ほぼ初対面の相手にいきなり弱そうという人間に無礼なんて言われたくないね!」


 ああ、こんな状況じゃなければ、こんなに好戦的にはならないんだけどね。どうも怒りっぽい女性って苦手だよ。


「なんですって!」


「それにさ、その喋り方、全然偉そうに聞こえないよ。そうだね、小母さんっぽいかな?」


「おば、この34歳の乙女に向かって!」


「ぷっ!」


 日本じゃ30歳の女子っているんだけど、逆に壷に嵌って笑いを堪えられないよ。若く見えるのに意外と年なんだね!


「剣を取りなさい、2度とその口を開けない様にして差し上げますわ!」


「ちょっと、こんな所で?」


 魔王の謁見の間で、次期魔王を傷付ける訳には行かないよね? 年増でも女性と本気で戦うなんて論外だし、え、師範代? あの女性は刀を握ると”刀鬼”になるよ、女性どころか人間扱い出来ないよ! あっ!


「構えないのなら、切りますわよ? それで魔王の子供の不名誉を雪ぎますわ!」


「良いでしょう、お相手しますよ。殿下?」


 精剣は僕の腰に顕現したままだけど、本来の装備の剣は鎧と一緒に外したままだから丁度良い。僕はそのまま軽く腰を下ろして、腰にある精剣に軽く手を添えた。


「どうしたのです、剣を抜きなさいな!」


「これが構えです、何処からでもどうぞ……」


「ば、馬鹿にして!」


「……」


 僕がやろうとしているのは、簡単な事じゃない集中だ……。何だか知らないけど、”死になさい”とか聞こえたけど、集中だ!


”キンッ”


 僕が一閃した精剣を納刀した音と、ダリヤ殿下の切られた曲刀の剣先が石床に落ちる音が殆ど同時に、謁見の間に響いたよ。振り下ろされる曲刀を切ったのは勿論僕だよ? 師範代の居合いをイメージしたんだけど、自分でもここまで上手く行くとは思わなかったよ、馬鹿正直に真っ直ぐ躊躇いもせずに曲刀を振り下ろしてくれたダリヤ殿下に感謝……出来るか!


「「ドラゴン・クローが……!」」


 それまで、声どころか身動き1つしなかった壁際に並んだ警備の魔人やら、文武官らしき魔人から、はじめて声が漏れたよ。ダリヤ殿下が振るっていた曲刀は”ドラゴン・クロー”という銘らしいね。分かり易い名前の”竜器”だね、何故か剣先は床に落ちた後、空気に融けるように消えてしまったし、ダリヤ殿下の手に残った部分も同様だったよ。


「こんな、こんなのって!」


「お嬢、止めとけ」


 いきなり素手で殴りかかって来ようとしたダリヤ殿下をキョウガが力ずくで止めてくれた。一応感謝はしておこうかな?


「今のお嬢じゃ勝てないよ」


「キョウガ様、離して!」


「落ち着けって、勝っても負けても良かった筈だろう?」


 意味不明の会話をしているね? 勝っても負けても良いなら、本気で殺そうとしないで欲しいよ!


「見苦しいぞ、ダリヤ。そんな様では誰も付いて来ぬ!」


 玉座から一歩も動かず、鋭い訳でもなく、大きくも無いけど、不思議に耳に残る声を出したのは魔王だった。そして、魔王の言葉を聞いただけで、ダリヤ殿下の|癇癪≪かんしゃく≫は治まってしまった。こちらの王様はある意味凄いね?(人間の国王は頼り無くって、精霊の王様は軽かったからね!)


「ヒロキ殿と言ったかな?」


「はい、天原弘樹と申します、魔王陛下」


「先程、娘が何か言っておったが、そなたが私に無礼な事をしたかな?」


「いいえ、決してそんな事はありません」


 それは絶対に有り得ないよ、僕はこの世界の魔王という存在に悪意は一切持っていない。トーマさんの影響なのか僅かだけど敬意を持っていたと思う。

 実際に話をすると、トーマさんが話してくれた通りしっかりとした人物だって分かる。殆ど付き合いの無い他の大陸の国に即位の挨拶の使者を送るというのは、普通はしないらしい。(それが他国の状況を探るという別の目的を持っていてもね)


「そうだろうな、私もそう思う」


「僕の方も腕試しをさせられることは予想していました。ちょっと演出に力が入りすぎた様ですが、ダリヤ殿下の行動に関しては、こちらも不用意な言葉を発しました」


「女性に失礼な事を申しました、お許しいただけないでしょうか、ダリヤ殿下?」


 僕はそこで一度言葉を切って、話しかける対象をダリヤ殿下の方に変えて、謝罪の言葉を口にしたんだ。


「あたくしにあんな事を言っておいて、それだけで許されるとお思いですの!」


「ダリヤ、止しなさい。上に立つものが容易に感情を乱す物では無い」


「お父、いえ、陛下……」


 ダリヤ殿下はそれでも不満そうだった。やっぱり小母さんなんて言っちゃいけなかったかな、三十路(だっけ)にもなるとこの辺りは微妙なんだろうか?


「ヒロキ殿、心の篭らぬ謝罪の言葉は、意味をなさぬよ」


「魔王陛下?」


 心が篭っていないか、そうかも知れないね。母方の叔母さんは今年で35歳だけど、叔母さんと呼ばれて嫌な顔はしないんだよ?


「魔人と言うのはな、普通の人間と比べて少し長寿なのだよ。概ね倍と言った所だな?」


「はぁ、倍ですか?」


 倍か、実に微妙な数字だよね? あれ、そうすると魔人の年齢を普通の人間に換算する時は半分位ってことだ、魔人年齢34歳と言えば人間では17歳……? 花も恥らうれっきとした乙女と称しても全然おかしくないじゃないか!


 クラスメートの女の子に”おばさん”なんて言ったら委員長辺りからどんな仕打ちをされるか……。(少なくとも留年が決定しそうだよ!)


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