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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
レーグナの章
22/43

第21話 魔姫ダリヤ


 結局、念の為にシーサーはねぐらに戻って様子を見る事になった。何らかの病原菌が暴走の原因ならばこのままレーグナ大陸に留まるべきなんだろうけど、その辺りの見極めが出来なかったからね。

 原因が不明では対策の打ち様が無いし、下手な対策を打てば事態が悪化する可能性もあるから、結局シーサーの意志が尊重される形になったよ。


 しかし、どうやってジャレプに帰ろうかな? 船旅なら運が良ければ1月だけど、それ以上の可能性も有り得る、空を飛ぶ魔獣を借りられれば良いけど、そう上手くも行かない気がする。まあ、いざとなれば直接日本へ帰れば良いんだよね。


「ねえ、ジル?」


「何なの?」


「僕を元の世界に戻す事は出来るよね?」


「出来るなの?」


 それなら一安心だけど、|精剣≪ジル≫はどうなるのかな? 精剣自体は、”主”か”姫”以外は持ち運べない(実際マークとかは触れなかった)物だったよね?


「ジルはあっちに一緒に跳べるね?」


「ヒロ兄の居た世界なの? ヒロ兄が一緒なら行けるなの、でもあっちにヒロ兄が居ないと行けないかもなの!」


 うーん、良く分からないけど、僕がシングリーフにジルと一緒に居る状態であれば、僕の望む場所に転移出来るらしいよ。ジルがこちらに居て僕があちらに居る状態だと僕の居場所を目印にしないと跳べないんだってさ。異世界というのはそれ程沢山あって、夫々の世界も広いからなんだろうね?


「ヒロキ殿、どうした?」


「あ、エアハルトさん、何でもありません」


「そうか、話し相手が必要ならば相手になる」


 エアハルトさんが僕の乗るペリュトンという魔獣に、自分の魔獣を寄せて来た。現在魔王城に向けて飛行中なので、結構大声で話さないと会話が成り立たないんだよね。

 ジルは精剣の中だし、僕が魔獣に話しかけているか、独り言でも言っていると思ったのだろうね。エアハルトさんはバックス殿下の部下で、まあ、僕がマールス城で最初に相手をした魔人なんだ。僕としてはちょっとやりにくいんだけど、エアハルトさんはもう昔の事と割り切っているみたいだ。


「そうだ、バックス殿下の妹さんってどんな方ですか?」


「ヒロキ殿は、ダリヤ様に興味があるのか?」


「いいえ、殿下が話してくださらなかったものですから……」


 ダリヤ王女という人物について、バックス王子は殆ど何も話してくれなかったんだよね。ただ、”迷惑をかける事になるが悪気はないんだ”とは言われたよ。妙に気になる言い方だったけど、雰囲気的に聞けなかったんだ。


「それはそうだろうな。殿下にとって、妹のダリヤ様は劣等感を刺激する存在だ」


「バックス殿下が劣等感を? でも!」


「ああ、今の殿下はそれを受け入れている。だが、客観的にダリヤ様の事を話せるかは別だろう? あのお2人は幼い頃から比較されて育ってきたからな」


「そんなに優秀な女性なんですか、ダリヤ様は?」


「優秀? どうだろうな?」


「えっ?」


 今のバックス殿下が、妹の下でこの大陸の平穏を守ると決意したんだよ。優秀な女性だと思ったんだけど違うのかな?


「美しい方なのは誰もが認めるだろう、気闘術ではダリヤ様は歴代の魔王陛下の中でも最高の使い手になると言われている」


「ふーん、人を惹き付ける魅力を持っているんですか?」


 美人なら、それだけでカリスマに成り得るんだろうね。


「さあ、俺には分からん。上に立つ者として見れば殿下の方が数倍も上だろうよ。おっとこれは俺の主観だがな?」


「だからエアハルトさんは、バックス殿下の部下で居るんですね?」


「ああ、そうだ。殿下にもう少し気闘術の才能があれば、事態は変わっていたんだ」


「まるで、気闘術に優れた魔人が魔王になるって聞こえますね?」


「その通りだ、魔王に求められる最も需要な才能は、気闘術なのさ」


 この辺り、別の大陸の人間どころか別の世界の人間には理解出来ないよ。単なる竜器を使った戦闘力が”王”に必要な素養とは思えないからね。


「気闘術って、バックス殿下が使っていた、魔法を打ち消す力ですよね。あ、高い所から飛び降りたのもそうなんでしょうか?」


「ある一面では合っている。ただ、それだけではないと言う事だ、これ以上は話せないぞ、魔人の秘密だ」


 エアハルトさんはそれっきり黙ってしまったよ。エアハルトさん自身は、ダリヤ王女を好きではないみたいだね。綺麗だけど性格が悪いタイプなのかな? 魔人の秘密と言われると聞きたくなるけど、簡単には教えてくれそうもない。今度バックス殿下に会う機会があったら聞いてみよう。(劣等感を刺激しそうだから注意してね!)



+ * + * + * +



 10頭(10匹?)のペリュトンの集団は順調に飛行を続けて1日半程で魔王城へと辿り着いた。何度か僕を標的とした魔獣の襲撃があったけど、人の乗っていないペリュトンが撃退したり、普通に振り切ったりして僕自身出番は無かったよ。僕がペリュトンを操っている訳じゃないから、空中戦をやれとか言われても困るけどね?


 魔王城なんて言うと、おどろおどろしい黒いオーラが見える城を想像するけど、この世界の魔王城は小さいお城だったよ。城壁の内部を全て城と呼ぶならアクシリス王国の王都より大きいけど、魔王城と呼ばれる建物自体はマールス城より少し大きい程度だったんだ。

 基本的に全ての魔人が住んでいるという話だから意外と小さい都になるのかな? 実際城壁の中には畑とかもあるから本当に魔人って人数が少ないんだろうね。(あれ、魔人って食事するんだっけ?)


 僕は休む間もなくアクシリス王国の外交使節と合流して、魔王との交渉の場に臨んだんだ。といっても、僕自身は勇者としてではなくとりあえず場の雰囲気に慣れるという意味で護衛の1人として完全防備(顔まで隠れるフルアーマー着用)での参加だった。


「如何でしたかな勇者殿?」


「ヘイルズ伯様、勇者は拙いですよ?」


「おっと失礼、ヒロキ、魔姫殿下はどうだった?」


「はい、噂通り美しい方でした……」


 それ以外はちょっとね、青白い肌の人間を美しいと言えるとは思わなかったよ。滑らかな青白い肌と黒髪は意外とマッチして違和感を感じさせなかったし、意志の強そうな瞳は紅でまるで赤光を放っている様だった。紅を乗せた唇は少し小さめだけど惹き付けられる気がしたのも事実だね。


「それだけかな?」


「ええ、これ以上は言う事はありません」


 実際口を開かないで黙って座っていてくれれば、良かったと思うよ。今日の会議内容がそれ程重要じゃなかったから、別件で魔王陛下自身が臨席せずに魔姫ダリヤが中心になったのが最悪だった。怒りっぽい女性と感じたけど、それだけでも無い気がしたんだ。


 何と表現して良いのか分からないけど、今まで積み重ねてきた交渉を全て振り出しに戻す様な発言が多かった気がするよ。中学校のクラスメイトにもそんなのが居たね。自分の望み通りにならないと気がすまないタイプなんだろう。


「まあ、魔姫殿下も気負い過ぎなのだろうね」


「そうなのでしょうか?」


「ヒロキも若いな、それでは対立を生むだけだ」


 1国の外交を任されるだけの老練な人らしい言葉だったよ。トーマさんもヘイルズ伯自身は信頼している感じだったから、本当に優秀な貴族なんだろうね。


 そういえば、魔姫ダリヤという女性は意外と若い女性だったんだよね。僕と同じ位か、少し上と言った見た目なんだ。魔王子バックスが20代後半から30代前半に見えたからもう少し年上を想像していたんだよね?


 少しヘイルズ伯と雑談をしながら、使節団の打ち合わせに使われる部屋に向かって歩いていると、肝心の扉の前で誰かが待ち受けているのが見えたよ。どうも、魔王城の役人らしい格好かな。


「ヘイルズ伯様、ダリヤ殿下より先程の無礼を謝罪したいとお伝えする様に命ぜられました」


「それは申し訳ありません、交渉事とは互いの利益が衝突する物ゆえ、お気に召されるなとお伝え下され」


「出来ればその言葉、殿下に直接仰っていただけないでしょうか?」


「いや、それは僭越過ぎでは?」


「……」


「分かりました、今からで宜しいかな?」


「はい、感謝いたします、ヘイルズ伯」


 こうして、僕はそのままヘイルズ伯に付き合い形で、再度魔姫ダリヤと再度会う事になったんだ。ただ、先の短いやり取りが、僕やヘイルズ伯の思った通りの展開じゃなかったんだよね?


 + * + 


「ヘイルズ伯様、何故態々?」


「ふむ、年若い次代の支配者と言うのは時々周りの声が聞こえなくなるのだよ」


「はぁ?」


 僕的には、謝るなら本人が来いと思ったんだけどね? そういう問題でも無いらしいね。


「現魔王陛下が直接叱るのは宜しくない、それならば関わり無い他国の人間が諫言した方が良いだろう?」


「それって、ヘイルズ伯の立場が悪くなりませんか?」


「私の立場などより、アクシリス王国の利の方が重要なのでな……」


 この人も、トーマさんの同属だよね? あれ、何か様子がおかしいぞ?


「伯爵様?」


「ヒロキ、嵌められたかも知れない。言動には気を付けなさい」


「なっ、伯爵?」


「この通路は、魔王陛下の謁見の間へしか通じていない」


 魔姫と面会する予定なのに、魔王の謁見室? なんだ? 先導する形で前を歩いている役人にこちらの言葉は届いている筈なのに、僕達の会話になんの反応も示さないよ? これは何か良くない事態が進行している!


「ヘイルズ伯、非常手段に訴えますか?」


「いや、そういう事ならば、態々謁見の間を目指さない。とりあえず出方を見る、ヒロキは出来るだけ自重してくれ」


「はい……」


 今更だけど、嫌な予感がするよ。魔法で逃げるか、最悪一度あちらに戻る事も考えておかないといけないね。


「ヘイルズ伯、こちらへお入り下さい。”護衛の方”もどうぞ」


「ご案内感謝いたしますよ」


「……」


 やっぱりヘイルズ伯って肝が据わってるよね? でも、”護衛の方も”って言った時の口調と表情が気になる、嵌められたのはヘイルズ伯ではなく僕?


「ジル、僕の世界に跳ぶ準備だけはしてくれ」


「ヒロキ、あれが、嫌なのがいるなの!」


 囁く程度の声でジルに話し掛けたけど、返って来た言葉は意味不明だったよ。ヒロ兄と呼ばれないのはそれだけ真剣なんだろうね。

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