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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
レーグナの章
21/43

第20話 レーグナ大陸へ

 3度目の召喚の初日から結構ヘビーな話が多かったけど、僕自身はレーグナ大陸に向かう事になった。ダークなトーマさんに何かさせられるかと思ったけど、全然そんな事はなかったよ。


ダーク・トーマは、


「勇者様は目立ち過ぎますからな」


とか言っていたよ。


 僕の個人の”武力”は確かに”使える”けど、”性格的”には全く”使えない”のはトーマさんなら良く分かっているだろうからね。精剣との再契約で最盛時の能力が戻った事で、剣術的にも魔術的にもかなりの所まで行くと思うよ。


 試す気は無いけど、近衛隊最強戦士と、アカデミー最高の魔術師を2人同時に相手しても負けない自信があるよ。意図した訳じゃないけど、魔法戦士的な修行ばかりしていた気もするから勝てる自信がある訳じゃないけど引き分けに持ち込めると思うよ? 千人近い近衛隊を1人で倒すとかアカデミーの魔術師全員を魔力で圧倒するとかはまあ当然無理だけどさ。


「お、お前本当にヒロキか?」


「そうですよ、ホレスさん。ゴールデンバッツから人が来るって聞いていたから、ディーンさんが来ると思ってましたよ?」


「何でお前は年を取ってないんだよ?」


「体質です、嘘ですよ。ディーンさんから僕の素性は聞いたんでしょう?」


 軽い冗談なのに、何故殴ろうとするんだろうか? あ、ホレスさんも30歳越えたんだね、若さに嫉妬と言うのは今の僕には分からないよ?


「お前が勇者っていうのは聞いたけどな、勇者ってのは年を取らないのか?」


「勇者っていうのはですね」


「お待たせ」


 僕が勇者と言うより精剣の主のシステムを説明しようとした時に、ホレスさんの後ろから女性の声がかけられた。何故か中型犬っぽいモノを連れているけど、まさかね?


「あ、シェリルさんご無沙汰です」


「ヒロキ君は変わらないわね?」


「ええ、シェリルさんも相変わらずお綺麗ですね?」


 シェリルさんは精剣の主のシステムを理解しているみたいだね。アカデミーのエリートならその辺りの情報に精通していてもおかしくはないかな? 戦略的に勇者召喚の制度は極秘なんだろうけど、帝国には無意味だろうね。


「ありがとう、お世辞でも嬉しいわね」


「別にお世辞じゃありませんよ、それが、そうなんですか?」


「そうだ、久しいな、ヒロキ。気配が変わっていたから別人だと思ったぞ?」


「シーサーこそ、変わりましたね、姿だけですけど?」


 ちょっと変わってるけど、普通の犬に見えるのが”狂者の釜”の深部に居を構える霊獣シーサーらしい。気配だけに集中すれば、確かにそうなんだけど大きく成り過ぎたキャバリアの様な犬が小型の象位の大きさの生き物だとは思えないよ。


「こっちが本来の姿なのだよ、今はちょっと窮屈に感じるがな」


 だそうだよ、窮屈とか言うレベルじゃないけど、さすが霊獣だね。


「今回はご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


「構わんよ、偶には外に出るのも良いだろう?」


 意味が分からないかな? シーサーに魔大陸レーグナまで運んで貰うんだ、今の姿だと跨る事さえ出来ない気がするけどね!


「しかし、ゴールデンバッツも変わったものだな?」


「そうなんですか? ホレスさん」


「ああ、ディーンさん達は一昨年引退したからな、今は俺がリーダーなんだぜ?」


「頼り無いけどね?」


「そんな事はないぞ!」


 話を聞くと、ディーンさんとマリカさんは揃って冒険者を引退したらしい。一応、2人程新人の冒険者が加入したけど、未だ見習いらしい。今回は別のパーティーに同行を依頼して、シーサーの所まで行ったらしい。新人さん達は、そのまま冒険を続けているんだってさ。


 シェリルさんが待ち合わせの広場に遅れて来たのは、アカデミー側の調整に手間取ったのが原因らしい。勘が鋭い冒険者ならシーサーの気配に気付くかも知れないから、先に話を通して来たそうだよ。町の外で落ち合う方が無難だけど、目立たないからね?


「ところで、ホレスさんとシェリルさんは結婚したんですか? じゃなくって、レーグナに行ったんですよね?」


「「!!……」」


 うん、簡単に黙ったよ、まだらしいけどね?


「ヒロキお前、態とだろう?」


「何の事か分かりませんね、で?」


「トーマって役人の依頼で何度かな、ディーンさんが居た頃だぞ?」


「でしょうね、どんな所ですか、魔大陸は?」


「まあ、人間の生きていけるところじゃないな、魔獣が闊歩するトコなんだぞ?」


「それはそうですね」


 聞くまでも無い事だったかな? ”ダンジョン内に入れば危険が一杯”と”安全な場所から一歩出ると危険が一杯”とでは比べるのも馬鹿らしいよね。


「レーグナでは生態系が破綻しているのよね、気候的に植物とか育て難いでしょうね。でも、うーん、別の生態系が成立してるとも言えるけど」


「マナを基本としたですか、シェリルさん?」


「ええ、マナの濃い場所には強力な魔獣が居るの」


「霊獣もいるぞ」


「そうね、シーサー。レーグナではマナが薄いからマナが濃い場所を避けるだけで、強敵を避けられるわよ」


「マナを基本とした生態系なのに、マナが薄いんですか?」


「精霊が殆ど居ないのよ。一説によると、ライデトからこのジャレプを経由してレーグナにマナの流れがあるんだって」


「それは事実だ、この大陸から海を渡ってレーグナにマナが流れ込んでいる、但し、かなり高い所をだがな。それに精霊などあの大陸では争いの元でしかないさ」


 分かるような分からないような話だよね? レーグナが精霊向きではない事は確かだね、殺伐とした場所を精霊は好まないだろうからさ。


「話はそれ位にして、そろそろ行こうぜ?」


「そうね、時間が無いんでしょ?」


 話に付いて行けないホレスさんと、それを巧妙にフォローするシェリルさん、結構上手く行ってそうだね?


「では行くか? 乗るが良い」


と中型犬が言いましたよ? だけど、次にはムクムクと大きくなって、象程の大きさになった! 地下だと意外に小さく見えたのか、それともこのサイズが外では丁度良いのかな?


 こうして、僕ははじめてレーグナに渡った訳なんだけど、うん、飛んだよ? え、シーサーが飛んだんだ、乗り心地は最初は凄く悪かったけど、一度マナの流れに乗れば後は快適で速かったよ。


 具体的に表現し辛いんだけど、高度を上げるのは、マナの濃い部分を足掛かりにしてだったから前後左右にトントントンと駆け上がっていく感じかな。マナの流れに乗ってからはオートウォーク(動く歩道)の上を駆け抜ける感じと表現したくなったね。


 レーグナへの移動は実質1日ちょっとだったよ。船旅と比べて早いのは、大陸間の最短距離を飛行したからと、マナの流れに乗れたからみたいだ。シーサーが言うには逆の時は3日以上かかるし、船旅は中央諸島経由でレーグナ大陸の東側にある港へ向かうからかなりの遠回りらしい。


 降下の時はゆっくりなエレベータ並みだったけど、最初が悪かったからキャンプを張って一泊してから再度移動を開始する事になった。乗馬とかで結構激しい動きに慣れているホレスさんも真っ青だったし、シェリルさんは今も調子が悪そうだ。僕が一番元気なのは、遊園地の絶叫系アトラクションで鍛えたかもね。(安全性無視で、体毛を手に巻き付けただけというある意味命懸けの飛行だったけどね?)


 翌日の飛行は一応快適だったよ、シーサーが上昇に気を使ってくれたからね。でもその快適さも長続きしなかったんだよね。



+ * + * + * +



「おい、つけられてるぜ、どうする?」


「えっ、僕が決めるんですか?」


 右後方に鋭い視線を送りながら、ホレスさんが僕に方針を聞いてきたよ。ホレスさん達は、一応、僕を無事に魔王の城へ案内する事が目的の依頼を受けている形なんだけどね。


「シーサーさん、振り切れますか?」


「マナの流れも弱まったし、あちらは飛ぶ専門だぞ?」


「うっぷ?」


 少し近付いて来た魔獣らしい姿は、ちゃんと翼で飛んでいるよ。背中に人を乗せているのも見えるから魔人に使役されている魔獣なのかな。(最後の”うっぷ”はまた体調が悪くなったシェリルさんだよ、本気でエチケット袋が必要そうだ)


「降りましょう、潜入任務とかでもないし、墜落の心配が無い方がもしもの場合でも対応し易いでしょう?」


「賛成だな、シーサー降りるぞ」


「分かった、お前達を乗せていなければどうとでもなる相手だぞ?」


 僕達は、鷲っぽい姿の追跡者に、降下の合図を出して高度を下げていった。攻撃された場合地対空では不利だけど仕方が無いよね? 上手く魔法で攻撃する自信はないし、それが可能なシェリルさんはダウン状態なんだからさ。



+ * +



「私は、魔王軍遊撃隊のフレート! 現在、大陸全土で霊獣に属する存在の移動が制限されている、貴方達が連れてるのは霊獣ですね?」


「魔人ごときが!」


「シーサー、抑えろ!」


 いきなり牙をむき出しにして威嚇をはじめたシーサーさんをホレスさんが落ち着かせようとしている。これは不味いよね?(もう少し穏当な言い方をして欲しかったよ!)


「見て分かる通り、僕達はジャレプから来ました。霊獣が移動出来ないなんて聞いた事が無いですし、霊獣を支配下に置いている訳ではないので、言葉には注意して下さい」


「それは分かります、ただ、こちらも非常事態なもので……」


「僕は、現在魔王陛下と交渉を行っている、ジャレプのアクシリス王国の代表に呼ばれて魔王城を目指しています。それでも駄目なんですか?」


「王国代表? しかし……」


 悪かったね、貫禄とか無くってさ!


「信じられないのは仕方がありませんが、暢気に歩いて行くという訳には行きません」


「だが! これは私1人の裁量を超える様だ。すまないが、隊長の指示を仰ぎたいので同行願えないだろうか?」


 うーん、こう出られると強行突破と言う訳にも行かないね。話が通じなくて、どうしても進むのを妨害すると言うなら、仕方無いし言い訳も出来るんだけどね?


「分かりました、シーサーは一緒で構いませんか?」


「致し方ありません」



+ * +



 こんな感じで、思わぬ寄り道をさせられる事になったんだ。ただ、意味の無い寄り道で無かったのは幸運だったよ? 意外と言う訳ではないけど、気になっていた人物に再会出来たからね。


「お、じゃなかったな、ヒロキ殿ではないですか、お久しぶりですね」


「お前で良いですよ、バックス殿下?」


 一度、色んな偶然が重なって勝っただけの年上の人に敬語で話される謂れは無いだろうし、この人自身も得意じゃなさそうだ。


「助かる、俺もバックスで構わんよ、バック坊やは止めてくれ」


「坊やって、バックスさんならご存知ですよね、あの黒竜の人って誰ですか?」


 どうもバックス殿下は、ヤツにかなりからかわれたらしいね。元々頭が上がらない存在に弱みを握られると、逃げ出したくなるよね?


「あ? ああ、あの竜≪ひと≫か、本気で名乗らなかったんだな、キョウガだよ」


「キョウガですか、アイツは」


「止めておけ、あの竜≪ひと≫は俺が子供の頃から、色々面倒を見てもらった竜≪ひと≫だ。ああ見えて、竜族の若手では最強と言われているんだぞ?」


「あの姿は何かの魔法ですか?」


 実は年寄りだったとかならそっちで攻める手もあるね!


「いいや、あれも1つの実体だぜ。ちゃんと歳もとるらしいからな」


 そう言えば、竜族は長命だって習ったかな? バックス殿下はちゃんと若手っていったしね、ちぇっ!


「不満そうだな? あの竜≪ひと≫は近く父親を倒して竜王の座を継ぐともっぱらの噂なんだ。生半可な魔獣や人では相手にもならんさ」


 偶然かな、竜王も引退なんだね。”父親を倒して竜王の座を継ぐ”という辺りが妙に聞こえるけどさ。 えっ?


「アイツが王子なんですか?」


「そうだよ、別に竜王の息子だから竜王になる訳じゃないぜ?」


 そんな事を自嘲気味に喋るバックス殿下だったけど、何処か吹っ切れた様にも見える。交渉がはじまった事で魔王側の事情も見えて来て、僕もトーマさんから事情を聞いたから、殿下が吹っ切れてくれたのは有り難いよ。魔王の位も近くバックス殿下の妹に譲られるし、アクシリス王国の王位はどうなるか分からないと来た、世紀末って感じだよね?


「それはそれとして、バックスさんはどうしてこんな所に?」


「ん? ああ、今の俺の身分は魔王軍の副指令と言う所だ、ここに駐屯しているのは霊獣の暴走を止める為さ」


 お、いきなり世間話が本題に飛んだね。バックス殿下が副指令は良いけど、王子様が魔王城を離れてレーグナ大陸の反対側に居る理由が分からなかったんだよね。でも、確かに魔王子が出張るだけの問題だ……。


「霊獣が暴走する?」


「ああ、それ自体は偶にある事だが、今この大陸で起こっているのはちょっと違ってな……」


 バックス殿下が僕に教えてくれたのはこんな感じの話だったよ。(この辺りは部外秘らしくって、護衛役の二人も同席出来なかったよ)


・魔族は普通の生物がマナで変態したもの(これはジャレプでも一部では知られている話だね)

・魔族化した生物は、更にマナを吸収する事で分身を作り出す事が出来る

・オリジナルと分身は魔族には見分けが出来て、オリジナルを飼い慣らす技術を身に着ける魔人がいる

・魔獣の分身はオリジナルがある程度制御可能らしい(この辺りは魔獣の性質と”魔獣使い”の能力次第だってさ)

・オリジナルの魔獣が長い時を経ると、更に霊獣に覚醒する事があり、この時暴走して周囲に多大な被害を出す

・霊獣になる際の暴走は一週間程で治まるが、被害が大きい時は魔王が退治したり、暫く動けなくする


「それじゃあ、最近頻発している霊獣の暴走は、霊獣の覚醒ではないというんですか?」


「ああ、霊獣の覚醒時の暴走は力に振り回されるって感じなのさ。理性に目覚めれば治まるものなんだが、存在を知られていた霊獣が暴走するんだから話は違う。それに暴走は放っておいても治まらない」


「それは、天災に匹敵しますね?」


 王位が移るとかどうでも良いレベルだよ!


「だろ? だからこんな僻地に居る訳だ、城からでは空を飛んでも時間が掛かるからな」


「こんな所に魔人が住んでいるんですか?」


「居ないぞ、勘違いするなヒロキ。魔王と言うのはな、このレーグナ大陸の秩序を守る存在なんだ、そうでなければ仮にも霊獣に敬意を払われるものかよ!」


「バックス王子……」


「すまんな、俺にはその力が足りないのは”勇者ヒロキ”が教えてくれたんだった……」


「……」


 アクシリス王国に侵攻して来た魔王子軍を追い返したのは名目上僕だけど、何故かそれじゃないと言う気がする。


「竜器を持っていて、多少|気≪プラーナ≫を扱えても、所詮は小物の霊獣を正気に戻せるだけなのだよ」


「竜器というのがその斧で、プラーナというのは魔法を打ち消した力なのですね?」


「ああ、竜器との相性とプラーナの扱いでは、俺は妹の足元にも及ばなかったからな」


 その妹さんが次期魔王に選ばれて、選ばれなかった兄が自分の力を示す為に無謀な侵略を行った。そして、それを僕が撃退して、更に僕が黒竜キョウガに惨敗する……。全ての原因がその”妹”って感じがするよ!


「そんな顔をするなよ、俺の目を覚ましてくれた人間が」


「あれ、顔に出ていましたか? 八つ当たりだって事は分かっていますよ」


「それはお互い様だろうさ。俺は俺が生まれ育ったこの国を守る事を決めた。僅かな力だが、それでも俺にはやるべき事があるのは嬉しい事だ」


 僕は正直今でも、バックス王子を見損なっていた気がする。今のこの人なら立派な魔王になりそうなんだけどな。(それに協力出来た事は誇らしくも感じるよ、敵役だけね?)


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