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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
レーグナの章
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第19話 オ・ネ・ガ・イ

 僕は夜の城内を歩いて、何時もの訓練場に向かった。この城自体は7年という月日を感じさせないけど、1人で訓練場に立つのははじめてだった筈だから少し違和感を感じたよ。


 夜間訓練の為の明かりとかは普通に容易されていたから、4本の松明に明かりをつけて近くの台に固定すれば準備は完了だったよ。木剣を打ち付ける為の丸太が目に入ったから、そちらで精剣の試し切りをしてみる事にしたよ。


「フッ」


”ガコン”


「うわっ」


 うん、自分でやっておいて驚いたけど、軽く切りつけただけで細めの電信柱位ある丸太が両断だよ! しかも手応えが殆ど無かったしね。


「幾らなんでも切れ味に特化し過ぎだよ!」


「むにゃむにゃなの~?」


「あ、カジール起こしちゃった?」


 思いっきり自分に突っ込んだら、精剣の中で眠っていた精霊が目を覚ましてしまったみたいだね。多分精霊は眠らないと思うんだけど、カジール


は普通に寝るんだね? 寝ている精霊を見た事が無いし、精剣の主の疲れないという特性もこの辺りが原因だろう。


「どうしたなの?」


「ちょっと精剣が切れ過ぎてね、カジールに言っても仕方ないかな?」


「じゃあ、切れない様になるなの、くぅ~なの」


 なのとか言っている時点で起きているんだろうけど、試しにもう一本の丸太に切りつけると刃を潰したというレベルじゃなく切れなくなったよ。


というか、見掛けは殆ど変わらないのに、丸太自体は削れもしないし殆ど凹むだけだった、何だか分からないけど極端だよね?


「まあ、峰打ちの練習をしなくて良いのは助かるけどさ」


「なの~」


 僕は、律儀に返事をしてくれる寝ている精霊さんを相棒に松明が燃え尽きるまで練習を続けたんだ。


 + * +


「ふう、これ位かな」


 別に魔法で明かりを灯しても良かったけど区切りが付かない可能性もあったから、松明で良かったのかもね。


「お疲れ様でした、勇者様」


「お疲れなの~」


 あれ? なの無しの労いの言葉をかけられたよ? 訓練場の入り口の方を見ると人影が見える、真っ暗と言う訳ではないけど見ただけでは誰だか分からない。まあ、声は若い女性の物だったし、僕を懲りずに勇者と呼ぶ女性なんて1人しか居ないけどね。


「モニカ、もう夜更けだよ。城内とは言ってもこんな所に1人でいちゃだめだ」


「はい、ごめんなさい。でも勇者様に大事な用事があったんです。これどうぞ」


「ありがとう」


 モニカが差し出してくれたのは、よく冷えたガウリ・ドリンクだった。うん、久々に飲むけど美味しいね。じゃなくって!


「それで、大事な用事と言うのは何かな?」


「はい、あの契約の事です。さっきはきちんと契約出来なかったですよね?」


「契約、ああ、あれ? 精剣の主に望みを言って、それを達成すると契約完了だったっけ?」


「はい」


「うーん、前回もモニカから直接は望みを聞かなかった気がするけど?」


「はい……」


 うーん、別に直接じゃなくても、望みを達成すれば良いんだろうね。達成しても勝手に帰ってしまう”主”も居る訳だけどさ。でも、トーマさんから聞いた2点、


・魔王側との交渉に参加

・巫女姫の立場の強化


がモニカの望みじゃないとかだと話は別かな? どうも魔王側と交渉と言う方は表向きの理由っぽいよね、国王を納得させるとか文句を言わせない方向だけどさ。


「トーマさんから2つ”望み”を聞いたよ、レーグナ側との交渉に僕が必要と言うのはモニカの都合じゃ変えられないだろうから、これは1つと数えるよ」


「はい、それは爺に言われました。私のお願いは……」


「うん」


「勇者様の子供が欲しいんです!」


”ブッーーー、ケホケホ”


 な、何言ってるんだろうね、この娘は! 思いっきりジュースを吹いちゃったじゃないか!


「大丈夫ですか、勇者様?」


「ケホッ、大丈夫、だよ。モニカにはちょっと早いと思うんだけど?」


「大丈夫です、その、子供が作れる身体になったってミリアに言われましたから」


 いや、そう言う意味じゃないんだよ。立派に成長したのは分かっているんだ。一緒に入浴とか、初潮が来たとかはちゃんと恥かしがるのに、何で子供まで話が飛ぶんだろ?


「ミリアさんには相談したの?」


「いいえ、ミリアは女官長になって今は私の面倒は爺1人がやってくれているのです」


 トーマさん、どういう教育してるんですか! とりあえず叩き起こしてこようか?


「爺は、仲の良い男女が一緒のベッドで眠ると一年くらいで子供が授かるって言ってました。どうきんって言うんですよね?」


「……」


 トーマさん、…枯れてるかと思ったけど、…意外と初心なのかな? それに僕の言った事を逆用してくるなんて……。


「どうしても女の子が欲しいんです!」


「えっ?」


 ちょっと待ってよ、女の子に限ると言われれば事情は違うぞ!


「モニカ、精剣の姫を辞めたいんだね?」


「!?」


 やっぱりだ、僕がモニカの立場だったらどう考えるだろう? 教国の動きは気になる所だけど、今の2国(勇者アステリアの孫という点を入れれば3国だね)の間で争いの原因になり得るとなればその心労は想像以上だろうね。


 だからと言って、僕がモニカの面倒を一生みると言うのもあり得ないだろうね。僕が一生こちらの世界で暮らすと言うなら話は別だけどさ。(何


故かモニカという小さな女の子に出会った時からこの子の為になら大抵の事がやれると思えたけど、それだけは選択出来ないよ)


 ん? 待てよ、今僕がここに居るのは僕の意思だよね? 実際僕をこちらの呼び込んだのは精霊王ではなく次期精霊王のカジールで、僕がカジールに依頼する形だった。折れてしまった精剣の刀身だけでは実際に何も出来なかったのは確かだ。


「カジール、精剣とアクシリス王家との盟約ってまだ有効なのかな?」


「うーんなの?」


 だろうね、カジールに期待し過ぎるのは良くないよ。


「でも、精霊王様の守りが鞘になってるなの?」


「鞘が? じゃあ刀身はカジールが?」


「そうなの!」


「それだと、アクシリス王家とカジールの間にはなんの盟約も無いよね?」


「無いなの、それにあの王様嫌いなの!」


 珍しいね、お気楽が服を着て飛んでいる様なカジールがここまで人を嫌うなんてさ。どうでも良いけど、モニカの様子が変だよ、まさか?


「モニカ、もしかしてカジールの声って聞こえて無い?」


「はい、でも何となく言ってる事は分かりますよ?」


「今、王家と精霊王の間の盟約は半分破綻しているみたいだ。分かるかな?」


「はい……」


「こう言うとモニカは驚くだろうけど、モニカはもう精剣の姫じゃないと言えるかも知れない」


「えっ?」


「多分聞いていないと思うけど、精霊王の代替わりの時期なんだ。僕は精霊王に会って、次の精霊王になるこのカジールに世界を見せて欲しいと頼まれたんだ」


「ジルちゃんが、精霊王?」


「ジルなの~」


 カジールが嬉しそうに声をあげる、ジルちゃんね。妙に齧々(カジカジ)されそうな名前よりは良いね。ジルも精剣の姫としてではなく、1人の人間としてモニカを気に入ってるのかも知れないね。実際ジルに人間と言う物を見せるならモニカと一緒に居た方が良い、ただ精霊王になるならば他の世界も見る必要があるから、僕を教育係に選んだんだろう。


「ちょっと信じられないかも知れないけど、精霊王タリク様はそう言っていたよ」


「精霊王様が……」


 モニカが何か悩むような表情を浮かべているよ。仕方無いよね、この娘にしてみれば自分が精剣の姫じゃなくなっているとか、精霊王の譲位なんて想定外なんだろうからさ。神託でも得ているなら話は別だけどね。


 でも、この状況はモニカにとっては非常に有利に動くかもしれないよね? 国王が盟約の主でモニカが精剣の姫という現状より、モニカが盟約の主である方がモニカにとっては遥かに優位だよ。モニカが召喚した僕が精剣を折られてしまうという失態をした事が遠因でもあるけど、それは僕が泥を被れば良い話だよ。これはトーマさんに相談した方が良いよね?


「あの、勇者様」


「何かな、モニカ?」


「私が、あの、もし、もしですよ」


 モニカがもじもじしているよ?(何故か今日はモジモジとかカジカジな日だね)


「もし、私がこの世界で一緒に暮らして欲しいって言ったらどうなさいますか?」


「モニカ……」


 この娘は、何故ここまで僕に執着するんだろう? 僕だってモニカを意識してるかも知れないけど、ここまでじゃない。 いいや、モニカが執着しているのは勇者に象徴される”家族”だったりするんだろうね。もう少しこの国の国王アラステアという人物がしっかりとした人物(父親代わりとしてね)だったら、モニカがこんな事を考える事は無かったんだろうか……?


 個人的に恨みは無いけど、恨みたくなるよ。僕にこんな事を言わせるなんてさ!


「モニカ、僕と君とは生きている時間も世界も違うんだ。僕の答えは決まっている、ごめん!」


 僕は深々と頭を下げて、謝罪の形をとった拒絶をする事になったよ。はじめて告白で、相手は飛びっきりの美少女、しかも性格も明るい。何故僕はこの女の子を拒絶しているんだろうね?


「勇者様……」


「僕は君の為に何でもやってあげられる気がするけど、絶対に譲れない物もあるんだ。君が望めば何度でもシングリーフに来る積りだけど、ここに永住する積りは無いよ」


「やっぱり、この精巧な”絵”の女性なんですか?」


 モニカの表情は薄暗い中でもずっと見ていたけど、色々な表情が表に出ずに消えていった。だけど、その口から出た言葉は、理解が出来ない物だったよ。


「絵?」


「この小さな本の中に……」


 モニカが懐から取り出したのは、僕の忘れ物の生徒手帳だった。最初の召喚では身一つで呼ばれたから制服しか身に着けていなかったけど、制服のポケットに入っていた生徒手帳は当然置きっぱなしになっていたんだよな。そして、当然生徒手帳には彼女の写真が挟んであった。


「はぁ、そうだよ、その女の子が僕の好きな女性だ」


 片思いとか余計な事は言わないよ、1人の女性にこんな事を言えないよな?


「もし、この方」


「”浅木結歌”だよ、ユイカだね」


「はい、勇者様がユイカさんと出会う前に……、いえ、何でもありません」


 ”浅木結歌”に出会う前に、モニカに出会っていたらか……、うん、無意味な仮定だね。


「モニカ、君は僕にとって、ずっと”妹”だよ。例え君が何歳になってもね」


「ゆ、ヒロキ様……」


「違うな、ヒロキ兄さんでも、ヒロ(にい)でも、かまわないよ?」


「ヒロキ兄様、ありがとうございます。きっと兄様とユイカさんならお似合いですよ」


 僕がモニカに礼を言われる事なんて何も無い筈だよね。でも、モニカらしさの抜け落ちた様な透明さを感じてしまう笑顔でそんな事を言われると何も言えなくなってしまったよ。


 もしも、”浅木結歌”の病気が治って気兼ねなく僕が告白出来る様になった時、僕の気持ちを”浅木結歌”に打ち明けたとして、僕もモニカの様に気丈に振舞えるかな?


 ジルが何かを感じたのか、モニカの頭をなでなでしているのを見ながら、僕は僕なりにその時どうするか考えておく事をにしたよ。もしかしたら、その時は遠くないのかも知れないからさ……。


 + * +


 余談になるけど、トーマさんに精霊王の移譲と、次期精霊王の国王陛下に対する心証とか話したら、すっごく黒いオーラが見えたよ! 精霊王位の移譲は兎も角、ジルが次の精霊王というのを信じて貰うのは一苦労だったけど、妙に美化された精霊王像を聞くのは笑いを堪えるのに苦労したね。(今の精霊王が、元々”なのなの”いっているジルと大して変わらないと知ったら絶望しそうだからね?)


 ジルはあの夜以来、僕の事をヒロ兄と呼ぶ様になったけど、名前を覚えられただけ良かったと思う事にしたんだ。


妙な改行が入っていたので修正しました-2012/8/29

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