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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
レーグナの章
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第18話 第2の試練

「それで、2つ目は?」


 今の話では、緊急性を感じなかったよね? 最悪、交渉が決裂しても、致命的とは思えない。魔王が名前の通り世界征服に乗り出すとかなら必要な条約なんだろうけど、そういう流れではないよ。


「2つ目は、我がアクシリス王国と教国の関係でしてね」


「教国? サンドロス帝国では無いのですか?」


 停戦状態だった王国と帝国の関係が悪化したなら話は分かるんだ、それはそれで困るけどさ。


「ええ、それも巫女姫様に関係してですよ」


「モニカに? 順調に”箱入り娘”的な成長をしている様に見えますが?」


「王家の娘に相応しい教育を行っていますから、そちらは当然でしょうが、そうではありません」


 箱入り娘で通じるなら否定して欲しい所だよね? 世間を知らない王族なんて碌な事をしない気がするけど? アクシリス国王も世間知らずな感じだよ、何かしでかしそうではないけどさ。


「以前も同じ会話をした気がするんですけど、ああ、巫女の方が問題なんですね?」


「はい、この大陸に住む人間の中には、時々創造主の声を聞ける者が現れます。特に男女の区別は無い様ですが、女性が多いと言われていますな」


「はい、それで?」


「巫女、男性の(いわい)などは基本的に教国に集められるものなのですよ。教国にとっては彼らの言葉は神の声ですからね」


「モニカも教国に?」


「それは王国としては許せない事態でしょうな」


「あ、モニカは精剣を!」


「そう、精剣を扱う事が出来るのは精剣の姫と呼ばれるアクシリス王家かその縁者の女性に限られます」


 精剣の姫か、精霊王様は仲介者って言ってたね。モニカが巫女として教国に行ってしまえば、王国は切り札を失うかも知れないんだ。


「モニカが精剣の姫で無くなる方法は無いんでしょうね?」


「ありますよ、死ぬか、娘を産むかですな」


「軽く言いますね!」


「そうですか? 人間何時かは死ぬものですし、王家に連なる物として子供を儲けるのは当然の事でしょうに」


 何か嫌な予感がするね、この話の流れ。


「良く分かりませんが、お断りします!」


「さすがは良い勘ですね、勇者様?」


 トーマさんの表情を見て自分が先手を打てた事を悟ったよ。モニカが現在一番好意を持っている異性は、多分、僕なんだろうからね。


「あんな事を言っておいて、冷たい方ですな、ヒロキ殿は?」


「僕の生まれた国には口は災いの元という諺がありますよ。僕としては、妹と一緒にお風呂程度の気持ち出来たし、妹が助けを求めていれば是が非でも助けます。おかしな事でしょうか?」


「ヒロキ殿は本当に冷たい方ですな」


「トーマさん、僕をからかって面白いですか?」


「半分は本気だったのですがね。ヒロキ殿には思い人がいらっしゃるようだ」


「はい、片思いですけどね」


「ヒロキ殿らしいですな」


 うん、片思いは余計だったね。


「実際の所、教国でも精剣の姫を引き渡せとは言えないですからね。精剣が失われて、主も居ない最悪の状態は切り抜けられたのですから贅沢は言いますまい」


「トーマさん、もしかしてモニカがお城に居るのは、誘拐を警戒してですか?」


 何となく違和感を感じていたモニカの立ち位置が少し納得がいったよ。


「それもありますね、姫様のご両親の元では心許ない。城の中でも安全とは言い難いですがね」


「まさかとは思いますが、モニカが最初に僕を召喚した噂は、トーマさんの仕業じゃないでしょうね?」


「さすがにそれはありませんな。好都合だとは思いましたがね?」


「本当ですか?」


「巫女姫様が、神託を得る事を私が予想できたとでも?」


 あー、あの”そんな気がした”というヤツね、確かにそれは不可能だろうね。トーマさんがモニカにそんな気がしたと言わせるのは可能だけど、モニカの性格ではそれを隠し切るのは難しい。ばれてしまえば、巫女姫に傷が付くし、状況を上手く利用したと考える方が自然だよ。


「分かりました、トーマさんの言い分を信じます」


「感謝いたしますよ、ヒロキ殿」


「いいえ、でも、モニカが巫女である限り。教国に召還される可能性は無くならないのですね」


「はい、その通りです」


 あれ、巫女をやめる方法を考えないと意味が無い気がする、精霊の姫でなくなれば引き止める事が出来ないよね? あれ…。考え方が逆だった!


「トーマさん、モニカが女の子を産んだら、この国に引き止める事が出来ないんじゃないですか?」


「そうですが?」


「じゃあ何故?」


「? 愛する男性との間に子供を儲ければ、心残り無く巫女としての務めに励めるという話ですよ? 巫女の能力は死ぬまでなくなりませんからね」


「そうですよね~」


「子を生せば、巫女の能力が無くなるのであれば、有無を言わせず嵌めさせていただいています」


 ナニをナニに嵌める気なんだろ、自信満々で言い切られたよ! この辺りの思考が僕には付いて行けないんだけど?


「それで、モニカは満足なんですか?」


「それは巫女姫様にしか答えられない問いですな。私はあの方を幼い頃から育てて来ました、まだ十分とは言い難いですが、何処に行っても自分であり続けることが出来るでしょうな」


「トーマさん……」


「それにどんな状況になっても笑顔を忘れない強さをお持ちですからな」


「はい、そうですね! だから僕もモニカの笑顔を守りたいと思います」


「よろしくお願いいたしますぞ、勇者様」


「はい」


「ヒロキ殿の言葉は、心強いですが、最近の教国の在り方は少々不安を覚える程でしてね」


 トーマさんが、らしくも無く不安そうな声で語ってくれたのが印象に残ったけど実際は要領を得ない話だった。


 + * + 


「教国が巫女狩りをしている?」


「はい、言い方は悪いですが、手荒な事も辞さないという噂でしてね」


「手荒って、そう言う国じゃなかったですよね?」


「多少独善的でしたが、争いを招く様な事は無かったと記憶しています」


 まあ、神様をでっち上げようとしている位だからね。でも、王国と帝国が全面戦争に入らないのは教国の存在が大きいというのはトーマさんから教わったんだよ?(三つ巴的な意味でもあるし、信者が大陸中にいてスパイを疑いだすと切が無いんだってさ)


「そうですな、ですが去年、帝国の名前を出して巫女姫の身柄引き渡しに応じろと使者を送って来たのも事実でして、しかも同じ様な事を帝国でもやっている様でしてね」


「何がやりたいんでしょうね?」


「探らせている所なのですが、どうも分かりません。あの国にはトップと言う物が明確に無いので」


「教祖とか教皇とか居ないんですか?」


「いいえ、基本的に神託のみで動く国ですからな」


 聞いただけでも妙な国だね。神の声が聞こえるなら、従いたくなる人も居るんだろうけど、彼らの神は間違えるんだよね?


「教国では、創造主の声は絶対なんですよね?」


「まさか創造主が望んだ結果だと?」


「いえ、神の名を騙った誰かが、何かを企んでいるとか有り得るでしょう?」


「有り得ませんな、巫女とはそういう物では無いのですよ」


「どういう意味ですか?」


「ヒロキ殿は巫女についてあまりご存知ないでしょうな。巫女には巫女が分かるらしいのです、巫女姫様も引退した巫女がその才を見出したと聞いております。当時は普通の村娘として育てられた様ですが」


 モニカの実家の教育方針なのかな? トーマさんにとっては苦労が多かっただろうけどね。


「だとしても、巫女の誰かが神託を偽る可能性もあるでしょう?」


「いいえ、巫女が神託を得る際は、特殊な精神状態になるのです。巫女姫様もそうですがね」


 トランス状態って奴かな? 映画とかで見たことがある気がするね。


「近くに巫女が複数いた場合は、皆が一様にその状態になって、皆が同じ神託を得る事が知られていましてね」


「仲間が居れば、複数の巫女に神託があった様に振舞えるんじゃないですか?」


「2人や3人なら兎も角、教国全体に無茶な巫女狩りをさせるのですよ。下手をすれば教国の巫女の大半が同じ神託を得なければあんな無茶はしないでしょうな」


 巫女や斎の人達が何人居るか知らないけど、何十人も集まって皆がトランス状態になって同じ言葉を話すって、何か怖いね。狂信的な集団という訳でもなさそうなのは、少しだけ安心材料だけどさ。


「謎ですね、教国は何処に向かっているんでしょう?」


「まあ、とりあえず巫女姫様の立場はヒロキ殿が再び召喚された事で強化されましたから当面は問題ありますまい」


「そうですか、ところで王国内でのモニカの立場ってどうなんですか?」


「今更ですな、ヒロキ殿?」


「え、ええ、前回は自分のことで精一杯でしたから……」


「基本的に7年前と変わっていませんよ」


「あんなに綺麗になってるのに、本当ですか? この国の習慣は分かりませんけど、婚約者に名乗りを上げる男は多いと思いますけど?」


 前回は城内の身分の低い人達からは結構人気だと感じたよ? 立場が立場だけに殆ど城外には出られないけど、城内では色々な所で見掛けた気がする。年齢的にお披露目が済んでいないらしく貴族っぽい人達の中にはモニカを知らない人が居たかも知れないね。


「一応王家の縁者という立場的に気軽に求婚は出来ませんし、巫女としての立場から厄介事は避けたいという方が多いですな」


 精剣の姫というのも1つの要因だろうね、政治的に難しいのは想像出来るよ。


「意外ですね」


「まあ、もう2,3年すれば状況は変わるでしょう。血迷った者が出ないか少々不安でもありますがね」


「まだ綺麗になるんですか?」


「ええ、巫女姫様のお婆様は、この国で一番の美姫と称えられた方でした。姫様はその方にそっくりだそうですからね」


「ああ、勇者様を射止めちゃったんですね?」


「まあ否定はしませんよ」


「姫様の実家ニーク伯領は帝国に対する盾ですが、意外に豊かな土地でもあります。領主の一人娘ですから、普通であれば姫様の夫が次のニーク伯となりますな」


「普通であれば?」


「現在国王陛下にはお子さんがいらっしゃいません、王位継承権を持つ方々にも姫様ばかりなのです」


「それは、困った話ですね?」


「ええ、”精剣の姫”が伯爵家に生まれたのは異例中の異例ですが、これだけ綺麗に王位継承者の男児が存在しないのも異例でしてな」


「モニカって意外に、危ない立場なんですね?」


「そうですよ、ですから私が苦労している訳です」


 トーマさんの様な切れ者じゃなければ、モニカは守れないか? トーマさんの巫女姫育成計画が、かなり極端な物になっているのはこの辺りが原因なんだろうか?


 とりあえず、老齢と言っても良いトーマさんから聞けた話はこれだけだったよ。さすがに、緊急時でもないのにご老人に徹夜を強制するのは気が引けるからね。

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