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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
レーグナの章
18/43

第17話 勇者の帰還

 そして、次のお呼びがかかったのはそれから一週間後だったんだ。


 その日、僕は朝から道場に向かう道を歩いていたんだ。例の裏路地に入る前にあまり繁盛してそうもない靴屋さんがあるんだけど、そのショーウインドウに妙な物が見えたよ。はじめてのパターンじゃなかったけど、不覚にも映っている者に少しだけ見蕩れちゃったね。


「あ、母さん? うん、先週言ってた道場の遠征だけど急に今日からになったんだ」


「また急ね? 準備してないでしょう?」


「母さん、先週から分かってたんだから道場の方に着替えとかは運んであるよ」


「あらそう?」


 はい、嘘です。着替えの心配なんて要らないしね。数えられると不味いから部屋に隠してあるのさ!


「何日かかるか分からないけど、3日は見ておいてよ」


「ちゃんと連絡入れなさいよ?」


「あ?」


 母さんからは当たり前の事を言われたけど、ここまでは考えてなかったよ。うーん?


「どうしたの?」


「良く分からないけど、結構山奥にあるらしくって携帯入らないかもだって」


 無人島とかでも良かったけど嘘くさいよね?


「そうなの?」


「うん、ゴメン。道場の方には無線で連絡が行くみたいだから、何かあったら宮田師範代に言伝を頼んでよ」


 修兵館の先輩にはそんな趣味の人が居るんだよ?


「分かったわ、皆さんに迷惑をかけないのよ?」


「大丈夫だよ、じゃあ行って来るね」


 ふう、誤魔化せたみたいだ。今回は少し時間があって助かったね!


 視線をショーウインドウに戻すと、中?の女性がキョロキョロしている。14,5歳に見える綺麗な金髪を肩より伸ばした美少女と、その肩に乗っかっている妖精みたいな生き物、そのまま童話のワンシーンに使えそうだよ。


 おっと、あんまりゆっくり見ていられないんだよね。一度道場に顔を出してからと言うのも月の関係で難しいだろうね。僕は師範代のお願いの電話を入れて、今度こそショーウインドウに飛び込む準備を整えると、何故か精霊さんが僕の肩に座っていたよ。


「カジール、勝手にこっちに来て良かったのかい?」


「知らないなの?」


「まあ良いけどね。あちらに運んでくれる?」


「任せてなの~!」


 カジールに引っ張られる様にして、3度目の異世界への旅がはじまったんだ。



+ * + * + * +



「勇者様!」


「痛て!」


 最初の時よりは丁寧に、そして2回目よりは荒っぽく、僕は精剣の間に移動したみたいだ。移動を手掛けた存在の慣れとか、距離的な物なのかも知れない。それは別に問題ないけど、いきなり体当たりされるのは想定外だったね。体勢をくずして後頭部を軽く打っちゃったよ。


「モニカ、久しぶりだね」


「はい、あの勇者様はお変わり無いんですね?」


「モニカは大きくなったね、ただ、もう少し慎みを覚えて欲しいかな」


 実際身長も、その他の部分もちゃんと成長しているのが良く分かるよ。密着しているからね!


「ごめんなさい、あれからもう7年近く経ってるんですよ?」


「そうか、7年か」


 僕の時間では概ね8ヶ月が経過している訳だから大体10倍で合っているのかな?


「はい、ずっともう一度お会いする事を夢見ていました。もしかしたら死んでしまったのかなんて考えた時もあったんですから!」


「僕も君に会えて嬉しいよ」


「はいっ!」


 やっぱりモニカには笑顔が似合うね。きっとこのまま成長して大人の女性になっても、そして年老いてお婆さんになってもね。


「それで、今回僕はどうして呼ばれたのかな?」


「勇者様のいぢわる!」


 意地悪って、僕的にはちょっと会わなかった感じなんだし、時間的制約が無いと言う訳でも無いんだよ? そんな事を考えていると、後ろから声を掛けられた、少し擦れているけど良く覚えている声だ。


「それは、私の方から説明いたしましょう」


「トーマさん、お久しぶりです」


「ヒロキ殿、いえ、勇者様はお変わり無く、どうやら余計な心配をした様ですな?」


「はい。とりあえず勇者様は止して下さい」


 綺麗に成長したモニカより、老いを感じさせるトーマさんの変化の方が僕にとっては時間の経過を感じさせてくれるね。意地が悪いのはトーマさんの方だよ、皺が目立ちはじめた表情には、可笑しそうな笑顔が浮かんでいるし。


「いえいえ、”不殺の勇者”と呼ばれているのも事実ですよ。謎の失踪を遂げたというおまけ付ですが」


「謎の失踪ですか、竜族の関与は?」


「おや、何故その話を?」


「ああ、精霊王に会ったのですよ。あの方がそう推測していました」


「さすがですな、あの後マールス城から黒竜が飛び去ったのは極秘にしたのですがね」


 やっぱり、カジールから情報が伝わるって事は期待出来ないみたいだね。普通の人には精剣に纏わり付いている精霊位にしか見えないのかな?


「その竜の正体は分からないのですか?」


「はい、残念ながら。黒竜こそが勇者だったという噂も流れた程ですが……」


 戻って来ても、ヤツの正体は分からないか。竜が人に化けるというのはゲームの中では有り触れた話だけど……。


「そういえば、あの時モニカの声を聞いた気がするんだけど?」


「覚えていらっしゃるんですか?」


 モニカがここぞとばかりに話に割り込んで来た。ちなみにカジールは、慣れない事をした影響なのか精剣の近くで眠たそうにしている。


「やっぱりあんな所に来ていたんだ?」


「ちゃんと護衛も一緒でしたよ?」


 トーマさんが、一刻も早く帰れるように手配してくれたんだろうか?


「あの時は、心臓が止まりそうでした。精剣が折られて、勇者様が消えちゃったのですから」


「モニカ、ゴメンね心配をかけて」


「勇者様……」


「ゴホン! 姫様、こんな夜半に男性良い雰囲気とか、今の立場をお考え下さい」


「爺は邪魔ばっかり!」


「モニカ、僕は君を助ける為にもう一度この世界に来たよ。君が望むなら何度でも来る、それじゃ駄目かな」


「勇者様……」


「また、ご飯を一緒に食べよう。一緒にお風呂も歓迎だよ」


「あっ、勇者様のいぢわる!」


 モニカが真っ赤になって精剣の間から逃げ出していったよ。作戦成功だね!


「お風呂入るなの~」


 うん、別の所で反応が返ってきたけど、カジールとはもう済ませたからね?(何をだよ!)


「トーマさん、精剣の刀身を預かって良いですよね?」


「構いませんが、ヒロキ殿も成長したようですな」


「いいえ、僕にとってはたった数ヶ月です。成長などとは言えないでしょう?」


 僕はカジールを拾い上げて、刀身だけの精剣に手を伸ばした。刀身に触れると剣の形をしていた物が融け去る様に僕の中に流れ込んでくるのが感じられたよ。同時に僕の中に再び精剣の主としての力が蘇るのも感じられる。いいや、カジールが一緒なのだから、以前よりは能力的には高いのかも知れない。


「お帰り、精剣。そしてこれから暫くよろしくね、カジール?」


「はいなの~」


 微妙に気の抜ける返事をしてカジールが僕の肩から、腕の中に移動したよ。僕はなるべく頭を空にして、精剣の再生だけを願って目を閉じた。


 ほんの一瞬だったと思うけど、手の中に精剣が現れた事を感じて目を開くと、僕の手の中には一振りの日本刀が存在していたよ。あれ?、邪念が入ったかな、師範代の宝物にそっくりだよ。


「ほう、今度の精剣は鞘付きですかな?」


「剣と言うより刀と言うべきですね、勝手に形を変えてしまったけど、大丈夫でしょうか?」


「なんとも言いかねますが、勇者の武器なのですから構わないでしょう。元に戻せと言われて戻せるのですかな?」


「残念ながら……」


 そうだね、今は僕の為の”精剣”なんだし、カジールも嫌がっていない感じなら当面支障は無いだろうね。ゆっくり鞘から刀身を抜き放つと、やっぱり身が引き締まるね。


「華奢な印象ですな、しかも片刃と来た。ですが、美術品と言えそうな美しさとも言えますな?」


「剣と刀では目的が違いますからね、断ち切る為と切り裂く為だったかな?」


 まあ、片刃という辺りは、実に僕向きだよね? 峰打ちとか練習した事無いけど、後で練習しよう!


「しかし、良い物を見せていただきました。姫様を追い出すのは早過ぎでしたかな?」


「さあ? それより本題に入りませんか?」


「そうでしたな、今、この国が抱えている問題は2点でしてね」


「2つもあるんですか? 次に召喚された時は3つになってたりしませんよね?」


「随分と気が早いですね?」


「すみません、余計な話でした」


 駄目だよ、妙な事を考えると、実際に起こる可能性がある気もする。噂をすれば影っぽい感じかな?


「1つ目ですが、我が国では先の魔王軍の侵略の様な事態を避ける為に、レーグナ側と不可侵条約の締結を模索中なのです」


「はあ、それは理解出来ますけど?」


「魔王陛下から、バックス王子を打ち破った猛者の交渉の場への同席を要求されておりましてね」


「猛者って誰ですか?」


 少なくとも僕の知る限り、一番猛々しかったのは魔王子の部下の人だった気がする。


「まあ、そう言う事にしておきたいのでしょう。バックス殿下自身は、勇者ヒロキに敗北した事を認めている様なのですがね」


「まあ、”強さ”を価値観の第一に置いているなら分からない訳ではないですね。僕が竜族に負けてしまった事もあちらの不信感の原因でしょうか?」


「それは分かりませんな。魔王陛下に近い者が、強行に主張しているとかいないとか……」


「そうですか、確かに勇者ではなくって僕が必要な訳ですね?」


 成る程ね、分かってしまえば納得の行く話だよ。何故交渉の場に僕が必要なのかは分からないけどさ。


「ですな、何分遠いレーグナとの交渉ですから、気長に行くしかありますまい」


「ええ、こう言った呼び出しなら問題無いですよ。時間が問題ですけどね」


 新しい”精剣”の力を試したいとか言う欲望は僕には無いからね! 平和が一番だよ。


「そちらは、少し考えがあります。暢気に1月かけて船旅と言うのもご迷惑でしょうからな」


「そうでしたね、魔法を使った通信手段って無いんですか」


 無線通信みたいな物があれば、移動する必要も無いよね?


「在るには在るのですが、大陸間となるとマナの消費が大き過ぎますし、機密が守れない。何より国同士の交渉事で顔を合わせないと言う事は有り得ない物でしょう?」


 うーん、情報漏洩とマナの問題は分かるけど、顔を突き合わせてと言うのはどうなんだろう? 地球ではホットラインとかあるんだけどな? 文化の違い?


「交渉事とかは得意じゃないみたいです。僕はこの国の人間でさえ無いですからね」


「それは承知の上です。外交専門の文官の経験がある貴族があちらで実際の交渉を行います。何年もかけて交渉を重ねて来た事なのでね、ここで決裂というのは避けたい所でしょうな」


「魔王様の前で名乗りを上げるだけなら別に構わないですよ。腕試し位はされそうですけど、それなら望む所です」


 まあ、恥かしいのは一瞬だしね。


「そう言ってもらえると助かりますよ、ヒロキ殿」


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