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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
ライデトの章
16/43

第15話 なの~♪

「ふぃ~、良いお湯なの♪」


「え、あれ?」


 落ち着け弘樹、はじめてじゃないだろ? うん、そうだよな!


「やっぱりここの温泉が一番なの~」


 ちょっと状況を確かめようか? 僕は道場から帰って来て、普通にお風呂に入ろうとしたんだよね。現に、今、僕はお湯に浸かっているよ?


 ただ、僕の家の風呂は普通のユニットバスなんだけど、今、僕が浸かっているのは”ジャングル温泉”だったんだ。野外なのに開放感あふれるなんて事はなくて、鬱蒼とした木々の中で、一部開けた場所に温泉が湧いている。なんだこの状況は?


「ふぃ~、一日の疲れが吹き飛ぶなの~」


 うん? もう一人登場人物が居るって? ああ、さっきから”なのなの”言ってる女の子ね。あっ、こんな所で女の子と入浴フラグが回収されたよ!


 えっと、確かに女の子と一緒に”ジャングル温泉”に浸かっている訳だけど、肝心の女の子は若緑色のチュニック身に着けたままだったりするんだ。


 ついでに言えば、身長が30cm位で、背中には蜻蛉なんかによく似た羽が生えていたりするよ。まあ、妖精っぽいけど、シングリーフで良く見掛ける精霊の姿だよ?


「うん、やっぱり召喚されたっぽいな。問題は誰に召喚されたかだけどさ?」


「ふぃ~~~♪」


 目の前の精霊さんで無い事は確かだよね? 基本的に精霊って人間と別の次元で生きてるって感じだし……? あれ、精霊の声って聞いたこと無かった様な気もするよ? (触れないのは確認した事があるんだけど、喋っているのを見た事もないんだ)


「ねえ、君?」


「眠くなっちゃうなの~」


「あの?」


「ふにゃ~」


 うん、やっぱりこちらの言葉は伝わっていないみたいだ。試しにお湯をすくって掛けてみたけど素通りしている様に見える。服を着たまま入浴してるけど、温泉気分に浸っているだけなのかも知れない。


「あっ!」


 今気付いたけど、僕は今全裸です! 一糸纏わぬと表現も出来るけど、男の描写をする積りは無いよ? 前回は鏡からだったから警戒はしていたんだけど、何でお風呂なんだろう? あ、水鏡という言葉もあったね。前回の帰りも服装には悩まれたけど、今回はその比じゃないよね!!


 そんな悩みに首を捻ると、頭上から白い何かが落ちて来た。正確には頭に乗っかっていた布が落ちただけだよ? 手拭ではなく、薄いタオルを頭に乗っけていたんだった。(おっさん臭い? 修兵館の先輩達の影響だよ!)


「そうだ、これがあれば……。こんなのでも役に立つか~!」


「きゃっ、なの!」


 大事な所位しか隠せないタオルを八つ当たり気味に振り回したら偶然精霊さんに当たってしまったんだ、あれ?


「人間なの?」


「あ、ゴメンね。ちょっと混乱しちゃってさ」


「じ~~~なの!」


 態々口に出してまで睨まれました。うーん、聞こえているんだよね? そうなるとさっき話しかけた時は無視された事になるけど……。


「精霊王様の知り合いさんなの?」


「えっ、分かるのかな。精剣の主だったんだよこれでも」


「精剣……なの?」


「知らないかな? 精霊王さんが人間に授けたという剣なんだけど」


「あ、精霊王様だ、おーいなの!」


 うーん、何故かこの子とは相性が悪い気がするよ、掴み所が無いって感じだ。でも、今はその言葉の方が重要だよね。僕にはマナが非常に濃く集まってきている様に感じられたけど、直ぐにそこに1人?の精霊が現れた。何処と無く高貴そうに見えないこともないけど、やっぱりちっちゃいんだね精霊王様も。


「おやおや、2人とも仲良く入浴中でしたか?」


「あの、貴方が精霊王様なのですか?」


「はい、私が現在の精霊を統べるタリクと申します、契約者殿」


「天原弘樹です、タリク様。ところで、2人仲良くですか?」


 別に聞きたい事もあるけど、とりあえずそこだよね。どうも、意味有り気だし、最初に会った方の精霊さんも何かありそうだ。


「そうですよ。その者の名はカジールって、居ない!」


「ホントだ」


 多分カジールという名前だと思われる精霊さんが何時の間にか温泉から姿を消していたんだ。タリク様が軽く指を振ると、”わーいなの!”とか言いながら風に乗って戻って来たけどね。


「失礼しましたね、契約者殿、いえ、ヒロキ殿」


「それで、このカジールちゃんが何か?」


「はい、この娘が次の精霊王になります」


「はぁ?」


 えっと、この軽そうな精霊が次の精霊王? 確か精霊って死なないって聞いたんだけど?


「あの、精霊って死なないんですよね?」


「ええ、精神体の私達に”死”という概念はありません。但し、滅びる事はあるのですよ、しかも容易に……。全く!」


「滅びる? 創世記でもそんな話がありましたね」


「異世界の人間にしては良くご存知ですね。精神体の私達にとっては、孤独や絶望などが容易に滅びに繋がるのですよ。こらっ!」


「不死ではないけど、不滅ではないですか?」


「そうですね、ですから私達には常に希望が必要なのです。はぁ……」


「その希望と言うのが、アレですか? またですよ?」


 うーん、落ち着かないよね。精霊王とその契約者が真面目な話をしているのに、肝心の次期精霊王は、”蝶々なの~”とか”兎さん、ピョンピョンなの!”とか、風に吹かれて何処かに飛ばされて行くとか全然落ち着きがないからだよ?


 精霊というのは概ね気楽そうに見えるけど、カジールの場合は度を越している気がするよ。頭の中身が軽いとは言えないかな、脳があるかさえ疑問だからね。楽天的と言うより能天気と評したくなるよね?


「いい加減にしなさい!」


「ピギャー」


 あ、とうとう精霊王が切れた。空中からいきなり雷光が走って能天気さんを直撃だ。物理的な雷ではなかったみたいで、近くに居た僕には影響はなかったけど、直撃を受けた方は焦げてピクピクしてる。(死なないのは本当らしいね)


 一応女の子なんだからあまり酷い事はしないで欲しいよね? 焦げた部分をタオルで拭うと簡単に綺麗になったから、実際ダメージは大した事は無いんだろうね。ボサボサになった栗色ショートの髪とかも簡単に整ったよ?


「ヒロキ殿は優しい方ですね」


「いえ、そんな事は。そうだ、何故この娘に触れられるんでしょうか?」


「それは勿論、ヒロキ殿をこちらに呼び込む時にその子を通しましたからね。元々、異世界から何かを呼び込むと言うのは創造主の力ですが、精霊王の力はそれの複製の様な物なのですよ」


 原理は分からないけど、そういう物らしいね。


「何故そんな事を?」


「精霊王位継承の儀式とでも思ってください」


「そんな物があるんですか?」


「いいえ、ですが歴代の精霊王は皆人間と共にありました。分かりにくいですね、精剣に宿っていたと言い換えましょう」


「タリク様も精剣に?」


「ええ」


「申し訳ありません、僕が未熟だったばっかりに、精剣が……」


 タリク様は勿論、歴代の精霊王の住処?だった場所が壊されてしまった訳なんだよね。


「いいえ、それは私の力が減じている証拠でしょう。それに相手が悪かったのもあります」


「相手が悪い? ご存知なのですか?」


「想像ですが、間違っていないでしょうね、竜族ですよ。竜族の誰か、しかもかなりの力の持ち主でしょう」


 成る程ね、精霊と対を為す竜族なら話は分かる。直接精霊王が力を振るっているなら兎も角、繋がっている程度では勝負にならなかったと言いたいんだろうね。(そう言う問題じゃないと僕自身が身に染みているけどさ)


「タリク様は随分と人間の心情に詳しいのですね? やっぱり精剣に宿っていた経験ですか?」


「いいえ、確かに経験は積んでいますが良い方向ばかりではありません。皇帝サンドロスの話は聞いているでしょう?」


「もしかして、精剣の主に元の世界の様子を見せたというのは……」


「はい、私です。精霊王としては後悔してばかりは居られないのですが、今でも胸が痛みます」


 そうか、それで人間についてより深く学んだんだろうね……。


「私は、精霊王には不向きだったのかも知れませんね。精霊が無軌道に人間とあるのは人間にも精霊にも良くない事は歴史が証明しています。近くて遠い隣人が適切なのですが、それはそれで我々にとっては辛い物です」


「タリク様?」


「精霊と言うのは根本で繋がっていて、私が常に希望に意識を向けていなくてはならない。そろそろ限界なのですよ……」


 タリク様の表情は本当に疲れている様に見えた。中性的な美貌に影が差して見えるよ。あ、こっちの事は考えない様にしてたのに、タリク様って男なのかな女なのか不明なんだよね。僕としては突っ込んじゃいけない気がするんだ。


「もしかして、希望に目を向けるのに向いているのか、この娘なんですか?」


「ええ、多少楽天的な方が丁度良いのですよ」


「ちょっと不安じゃないですか? タリク様は精霊王になる前はどんな感じだったのですか?」


「……」


「……」


 あ~! こっちが地雷だったかも知れないよ!


「ええ、カジールも何時か立派な精霊王になることでしょう!」


「……」


 今ので余計に不安になったよ! だけど、精霊の在り方なんて僕には理解出来そうも無いから、頭から否定も出来ないよね?


「何か?」


「いいえ、何でもありません。それより、懐かれている気がするんですけど、大丈夫でしょうか?」


 何時の間にか復活したカジールが、僕の肩に乗っかって僕の頬に擦り寄っているんだよね? これはこれで可愛いけど、急にどうしたんだろう?


「どうやら相性は良い様ですね、逆よりははるかに嬉しい事ですよ」


「精霊族にとってですか?」


「はい、その通りです」


 そう断言されれば、別に拒絶する理由も無いね。カジールが可愛い事は事実だし、妙にふらふらされても困るかな?


「ではヒロキ殿、カジールの事お願いします」


「あ、これで話は終わりですか?」


「ええ、私としてはですが、王国の方が気になりますか?」


「はい、僕が居なくなった後どうなったかなって」


「仲介者からの呼び掛けは何度かありました」


 何度かと言う辺りで、タリク様が微笑んだ気がしたから、”何度か”というレベルじゃないんだろうね。モニカは相変わらずらしいね、落ち込んでいる所は想像が出来ない子だからさ。


「ですが、精剣の刀身だけでは上手く行かないでしょう。それに理由も無く異世界の人間を気軽に呼ぶ事も出来ません」


「そうですか、僕が消えたことで何か問題が起きていると思ったんですけど……」


「起こっていますよ、精剣が折れてしまったのですからね。刀身だけでは精剣とは呼べません」


 それはそうだね、精剣と言うのは王国にとっては奥の手だった筈、それが壊れた状態というのは大問題なんだろう。


「近く、本当に召喚の儀が行われるかも知れませんよ?」


「精剣の主が必要な事態が進行しているんですか?」


「私が精霊の目を通じて見る限りですが、精剣の主ではなくヒロキ殿が必要になる様です」


 僕自身が必要? モニカが会いたいとかでは駄目なのに、勇者失格の僕が?


「詳しい事情は存じませんが、魔族との交渉に必要らしいですね。その時の為に、刀身にカジールを宿しておきましょう」


「精霊王でも、全てを知り得ないのですか?」


「それは勿論です。精霊とは創造主に作られた種族、創造主自身が失敗を犯すのに、何故精霊王が万能だと思えるのでしょうか?」


 ああ、創世記では失敗に失敗を重ねて、結局手を出さない事に決めたんだっけ? 神という概念に馴染まないのはこの辺りが原因なんだろうね。(それでもこの世界の人にとっては大いなる存在ではあるのだろうけど)


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