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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
ライデトの章
15/43

第14話 狂う島

怖そうなサブタイトルですが、一番怖いのはフグです!

 夏休みに入る直前だったと思うけど、道場に顔を出すと師範代にいきなり呼び出されたんだ。百地さんが何か言ったのかなと思ったけど、別にどうでも良い事だよね?


 雑用係として、僕はこの道場の色々な場所に出入りするけど、離れにあたる部分は師範代の住居スペースになっているので入るのははじめてだったよ。


「天原です」


「お入り」


「失礼します」


 ちょっと緊張して障子を開けて師範代の部屋に入った。6畳ほどの部屋に衣装ダンスと小さなテーブル(卓袱台だっけ、ほらひっくり返すあれ)と小物入れがあるだけの部屋だったよ。一応隣に部屋はあるみたいだけど、生活感が無い部屋だ。


 まあ、師範代が卓袱台で刀の手入れをしているから、”生活”から離れて見えるのかもしれないけどさ。


「あの、大切な物なんですか、その日本刀は?」


「大切? 時々叩き折りたくなるけどねぇ」


 師範代の手付きは、この間の試し切りの時の刀の扱いとは比べ物にならない位丁寧なんだよ?


「それで、何かお話と聞きましたが?」


「ああ、天原、お前何時までここにいる積りだい?」


「えっ?」


「別に追い出そうって訳じゃないよ、そんな顔をするんじゃない、男だろう?」


「あ、すみません」


「お前は誰かに”勝ちたい”と言っていたが、一向にそんな気配はないねぇ? まさかあれだけ動けていて、挑む事さえしていないのかね?」


「いえ、ちょっと事情があって、簡単には挑めないだけです」


 相手は異世界の住人で、何処の誰かも分からないんだけどね。


「ふん、まあ信じてやるとしてもさ、お前はこの道場で自分が浮いてるのは気付いているだろう?」


「……、はい」


 僕が高校生だと言う事を除いても、他人を木刀で打ちつける事に喜びは見出せないのは事実だからね。ただ、今だけは日常に埋もれる訳には行かないと思うだけなんだ!


「ウチの連中は多かれ少なかれ何処か壊れているよ。百地なんかは、ある大会の決勝前に襲われた上に、手を回されて職を失った」


 百地さんって、警官だったはずなんだよな、まさかね?


「近田は小中と酷いイジメを受けた、その自分を”壊す”為に、ここに居るよ」


 近田さんって、この道場で一番大きい人だよ。別に木刀を持たなくたって十分に迫力がある人なんだけどね?


「ここが無くなれば、連中が何をするか分かるかい?」


「……」


 何故か怖い想像しか浮かばないよ! ただ、あの人達は”ヤレる”人達だし、その時には躊躇わないよ、きっとね。


「天原が来て助かっているよ、道場の気配が変わったのは、お前には分からないだろう?」


「はい……」


 僕が知る限り、先輩達が何かを思い詰めているとは感じられないんだ。ストレス発散と言う意味では、十分に発散しているからなのかな?


「来島流ってのはね、戦後の混乱期に作られた流派なんだよ」


「戦後ですか、意外と最近なんですね?」


 剣道の流派なんて、戦国時代からっているのもザラにあるんだよね。高々60年程度と言うのは、最近出来たとさえ言えるのかな?


「そうだねぇ、元々、戦場でいかれちまった兵士を抑える事が目的だったそうだよ」


「”いかれちゃう”ですか?」


「ああ、人を殺す事に快楽を覚えるようになったり、自傷行為に走ったり、居もしない敵に怯えて異常な行動をとったりしたそうねぇ」


「何だか、精神病の患者さんみたいですね?」


「ほう、天原の年でそこに気付くとはね。まあ、精神を病んだと言う表現は正しいさ、ただ病んだ人間が問題だっただけでねぇ」


 まあ、考えるまでもないかな? 戦後の混乱期に武器を扱う技術を持った快楽殺人犯とか居たら、被害は酷いだろうね。銃器さえ闇で売買されていた可能性もあるんだからさ。


「そんな訳で、軍部が極秘にそういった問題のある軍人を瀬戸内のある島に集めたんだよ、いや、押し込めた、更に言えばねぇ」


「殺し合いをさせたですか?」


「まあ、そういうこったよ。その混乱を治めた来島辰紀はね、その島を”狂う島”と呼んだんだね。自分の苗字に引っ掛けたのか、苗字を変えたのか知らないけどねぇ」


「そう、なんですね。来島水軍か海峡あたりが謂れかと思っていました」


 なるほどね、業界のと言っても剣道界に限らず他言するなと、注意される訳だ。知っている人間からすれば、来島流に属しているだけで、色眼鏡を掛けられるといった所なのかな?


「まあ、そっちが由来になってるよ、公にはだがねぇ。天原は随分と大切に育てられたのは良く分かるよ、この歳になるとねぇ」


「はい、甘やかされて育ってきました。良く分かりますよ自分でも……」


「さあ、それが本当かは分からないがねぇ。天原がこの修兵館に向かないのは事実だよ」


「師範代の仰る事は尤もだと思います。だけど、僕はこの修兵館には向いていないかも知れませんけど、無縁だとは思いません」


「言うねぇ、どんな縁があるって言うんだい?」


 あの話をするのは正直気が向かないけど、ここに来るなと言われる訳にはいかないんだ!


「僕は、少し間違えれば大量虐殺者になっていたかも知れません」


「天原が、はっ、冗談だろう?」


「いえ、証拠は、僕の能力ですけど、それ以外にはありません。それにこの話は両親にもしていません、正気を疑われるでしょうから……」


「来島流には、狂人の言う事だって真摯に聞くっていう決まりがあってね。いいさ話してごらんな」


 師範代の言葉は有り難いけど、ちょっとアレだよね? ただ、師範代は僕の話を本当に本気で聴いてくれたよ。正直言えば、誰にも理解されないだろうと思っていただけに、理解しようと質問を重ねてくれるだけでも嬉しかった。


「天原、お前の話は所々納得が行かないが、矛盾は無い様だね。しかし、馬鹿だねぇ本当にさ!」


「うっ!」


「自分の役割は果たしたんだろうし、オマケを貰ったと思って気楽に暮らせば良いんじゃないかねぇ?」


「オマケって、食玩じゃないんですよ」


「本当に悪い意味で真面目だねぇ、天原は。余裕を持てって言ってるのさ。若いくせにせっかちだ」


 余裕を持てと言われると返す言葉も無いね。自分が無茶をしているのは理解しているし、奴に追われている様に感じるのもどうしようもない事だよね?


「天原みたいな妙に真面目な奴が、一度切れると手が付けられなくなるんだよ! 注意しな……」


「はい、忠告を心に留めておきます」


「良い事だよ、他人の忠告に従える素直さっていうのはねぇ。そう言えば、天原はこの刀の事を気にしていたね?」


「え、はい」


 いきなり話題がはじめに戻った気がする。話がループしてる訳じゃないのは、師範代が僕にその刀を渡してくれた事で分かる。抜いてみて綺麗な刀だと思ったよ、試し切りに使った刀も良かったけど、これは一段も二段も違う。


「この刀はねぇ、修兵館の師範の形見なんだよ。桐谷の先代の最高傑作さね」


「亡くなられていたんですか?」


「ああ、天原に似て真面目な男でねぇ」


 いや、褒められていないのは分かりますから、いい加減にそこから離れて欲しいです。


「どうして亡くなったのですか?」


「来島流では、年に一度例の島に集まって先人の供養をするんだ。あの男は、あの島に一番に乗り込んで色々準備をする事を習慣にしていたんだよ」


「はあ」


「15年以上も前になるかねぇ、例年通り島に行ったまでは良かったんだけど。関係者が島に入るとあの男の死体が転がっていたそうだよ」


 人々が殺しあった島に死体……、何故か嫌な予感がするね?


「何があったんですか?」


「ん? 妙な期待をさせて悪いがね、単なる食中毒だよ」


「ふぇ?」


「あの男はフグが好物でね、自分で調理してぽっくりという訳さ」


 久々にorzを披露しそうになったよ! 来島の師範が食中毒でってちょっとね、妙な想像をしちゃったせいもあるけどさ。後で調べて知ったけど、ハイブリッドフグっていう危険なフグがいるらしいよ。名前はかっこいいけど、見分けるのが難しいそうなんだ。


「馬鹿ですね?」


「ああ、馬鹿だね」


「「……」」


 師範代の馬鹿には、僕以上の何かが篭っている気がした。


「あの、もしかして師範って師範代の旦那さんだったんですか?」


「おや、やっぱり分かっちまうかい? 来島修平、確かに私の夫だったよ」


「師範代は宮田姓でしたよね、正式には籍を入れていなかったとかですか?」


「ふん、もう少し気を使いなよ。私のプライベートを話してるってのにさ!」


 あ、この辺りは百地さんが行ってた事なんだろうか、人生の機微とかは僕にはまだ難しいみたいだね。


「すみません……」


「まぁ良いさ、天原が腹を割って話してくれたんだからね。宮田と言うのは私の旧姓でね、以前は来島幸江だった訳だよ。来島姓を捨てたのは、来島姓を取るか、来島流の名を取るかと迫られたからだねぇ。なんだい、もう聞かないのか?」


 いえ、気を使った積りなんだけどね? こうなったら子供らしく行こう!


「来島幸江と名乗ったまま、修兵館を続ける訳には行かなかったんですか?」


「ああ、あの男の兄が横槍を入れてね。あっちは剣術なんだから、こちらが邪魔だったんだろうさ」


「そうですか……、師範代のままでいるのもやっぱり?」


「まあね、勝手に道場を開かれては困るだろうからね」


「勝手に移動するのは良いですか?」


「それは来島の宿命だからねぇ」


 他の来島流も同じなんだ、随分と奇妙な流派だよね本当にさ!


「師範代は、何故来島姓より来島流を選んだんですか?」


「分からないかい?」


 そう質問に質問で返してきた師範代の視線は、僕の手の中にある遺品の刀に向いていたよ。僕が鈍くてもこれなら分かる。師範代、いいや、宮田幸江という女性にとって、この刀が”遺品”である様に、門下生の先輩達は”遺児”なんだろうね。


 結局、師範代から正解は聞けなかったけど、殆ど指導を行わない師範代(矛盾を感じるね?)が時々僕を指導してくれるようになった。


 師範代は基本的に手数で押すタイプの戦い方をするけど、意外に一番得意なのは抜刀術だったんだ。何度か見せてもらったけど、本当に視認が難しい程の刀速だったよ!


 師範代自身は、居合いや抜刀術を実戦では使えない技術だと言っているけど、面と向かって1対1でやりあったら、今の僕じゃ避けきれないと思う。


 そして、夏休みが1/3過ぎた頃だった、僕がもう一度召喚される事になったのはね。


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