表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
ライデトの章
12/43

第11話 裏路地

 えっ? キモチワルイから本題に入れ? ちぇっ、結構良い話しだと思うんだけどな!


 結論から言えば、行き詰ってたりします、はい! 何に行き詰っているかと聞かれると困るんだけど、もう一度”あそこ”に召喚された時に備えてかな?


 あの1月が夢じゃなかったのは、あの”勇者の服(笑)”の件で確実だった。生地自体も普通に売られている布地と同じ物は見当たらなかったし、母さんやその知り合いも見たことが無いんだってさ。


 それにボタンなどに使われていた宝石は本物の宝石で、しかもかなり質の良い物だったらしい。そんな高価な物を僕の様な学生(普通とは言わないけどね?)に渡す金持ちなんて居ないだろう?


 さっき、普通じゃないって言ったよね。あちらに召喚されるまでは普通の男の子だったけど、今はそうじゃないんだ。僅かだけど、あちらの魔法が使える人間を普通とは言えないよね。但し、マッチ程度の火を熾したり、コップの水を少し凍らせる事が出来る位だよ。


 この世界にはあちらの精霊の様な存在が居ないだろうし、多分マナも存在しないんだろうね。それなのに何故魔法が使えるかと言えば、僕の中にマナがあるからだよ。(シングリーフでは何処でも居た精霊がこちらには居ないんだよね)


 想像でしかないけど、正規の返喚の儀式が行われなかったからじゃなくて、僕が勇者どころか”精剣の主”として失格だったからだろうね。だって精剣を叩き折られる主なんて、前代未聞だろうからさ。


 主をシングリーフに繋ぎ止める役目もあった精剣が叩き折られる事で、僕が元の世界に戻って来れたと言う事は想像できるし、僕の中に残った精剣の欠片が律儀に主に力を供給し続けているんだろうね。世界が違うのと精剣としての力が殆ど失われたから、ちゃちな力しか発揮出来ないんだろう。(不甲斐ない主には相応しい程度の力なのかな、クソッ!)


 僕は、未だに精剣との契約が途切れていないと言う事だけを支えにして、何時シングリーフに呼ばれても良い様に自分を鍛えはじめたんだ。いいや、綺麗事は止そう、僕はただアイツに勝ちたいだけなんだろう、1人の男としてね!



+ * +



「はぁ~、今日も駄目か……」


 僕は先日の選抜の県予選以来、高校の剣道界と言う物に見切りをつけたんだ。精剣の恩恵である身体能力の強化はある程度残っていて、剣道部で僕とまともに打ち合える相手は少ない。


 それに、練習ならまだしも試合となると、僕の相手を出来る同世代の学生は英知くらいな物なんだ。英知は鈍い上に神経が図太いからね。僕が本気で”壊す”積りで挑んで、相手出来る貴重な対戦相手だよ。


 県予選では、実際一歩も動けない相手に打ち込む場面もあったし、ちょっと粗相をしちゃった対戦相手も居た。自分が相手を威圧出来るとは思わなかったけど、僕程度に威圧されてしまう人間を幾ら相手しても僕の求める強さにはプラスにならないのは分かりきっている。


 そんな訳で、現在僕は色々な社会人の剣道場を見学して回っている訳なんだ。経済的にも時間的にも地元の道場しか回れないけど、僕が希望している様な道場は見付からなかった。


「そもそも、他人を壊す事を教える道場なんて、法治国家には存在しえないのかな?」


 ついつい愚痴が出てしまうね。敵を殺すという目的なら銃とかの近代兵器で十分だし、稽古中に不注意で大怪我をさせてしまえば道場を畳まなくてはならない平和な国なんだからね。それはそれで良い事なんだけど、今の僕には有り難くないんだ。


「あれ?」


 今日見学した道場から最寄の駅へ向かう道を歩いていた筈なのに、裏路地っぽい道を歩いている事に気付いてしまった。考え事をしていたから、道を間違えたのだろうけど方向的には合っている筈なのでそのまま進むことにした。


 今の僕に相応しく行き詰まりに突き当たったけど、その行き止まりにこそ僕の求める物があるなんて思ってもみなかった。引き返そうとした僕の目に、”来島流刀術 修兵館”という小さな看板が飛び込んで来たんだ。


「来島流刀術?」


 今の日本では、刀術なんてあまり聞かないよね。居合いとかは抜刀術とも言われるけど、一般的には剣術に分類されると思ったよ? 僕の感覚として言い方は悪いけど、古来からの剣術の流派というのは剣道よりもより実践的ではないと感じていたから、無意識に避けていたけどこの際飛び込みで見学を申し込んでみよう!


 と意気込んだけど、この”修兵館”という道場?は古い一軒家に見えるのに、目立つ所に門もなければ玄関も無い、無論呼び鈴とかも見当たらないんだよ?


 何とか開きそうな引き戸を見つけると、周囲を見渡してこっそりと中に入ってみた。どう考えても、アングラ的な場所としか思えないからね。


「失礼します……」


 中に入ってから言う言葉じゃないけど、一応言ってみたよ。武術に関係する人って礼儀にも五月蝿いからね。それに、道場の敷地内に入って感じたこのピリピリした感触はこっそり忍び込むと碌でも無い事になりそうな気がするんだ。


 いきなり廊下に出たけど、その先で物音がする。近付いて行くと、それが木刀を打ち合う音だと分かったよ。耳慣れた音だからね。


 戸の隙間から覗くと、2人の男性が激しく打ち合っているのが見えたけど、上座に座っている女性とも目が合っちゃったよ?(何時から気付いていたのか知らないけど……、直ぐに目が合ったんだよね?)


 僕は覚悟を決めて扉を開けてそのまま中に入る事にした。(不法侵入だけど!)疚しい事はしていないし、何より2人の対戦をもっと間近で見たかったからね。


 迷惑にならない様になるべく静かに一礼して道場に入ったけど、道場内の門下生さん達は2人の激しい打ち合いだけに注目していたし、上座の女性も何も反応を見せなかったよ。僕は遠慮無く観戦に専念する事にした。


 打ち合っている2人の腕前は多分互角だと思う。この対戦が何時からはじまったのか分からないけど、黒袴の背の高い男性の方が押している様に見えるのに、少し息が上がっている気がする。年上に見える紺袴の男性の方が不利と言う訳ではないけど、それ程余裕がある様にも見えない。


「せいやー!」


 無言で打ち合っていた2人の対戦も、紺袴の男性の掛け声と共に突きで決着がついたよ。紺袴の男性も直前の黒袴の男性の薙ぎを防ぎ切れずに無傷とは言い難いけど、紺袴の男性の勝利は誰の目にも明らかだった。


「神宮見事だったよ。百地の容態は?」


 勝った紺袴の方が新宮さんで、黒袴の方が百地さんらしい。百地さんは肩口を押えてうずくまっている。近くの人が、応急処置をしているけど、あの肉を打つ音だと何処かの骨にひびが入っていてもおかしくは無いと思う。


「大丈夫です!」


 百地さん自身が少し震える声で応えたけど、担架で運ばれてもおかしくない状況だと思うよ? 防具も着けずに、木刀で打ち合うなんて正気を疑うよ、これを求めている自分の事を考えると呆れてばかりは居られない。


 百地さんが壁際に腰を降ろすと、上座に座っている女性の視線が僕に移された。少しだけ威圧感を感じたけど、これ位なら何とも無いさ!


 門下生の人達からも同じ様に威圧感を感じたけど、威圧感にも色々違いがあるんだなと感じる程度の余裕はあったよ。どちらかと言えば、唯一の女性の物が一番きついな。


「坊や、あんたの様な子供が来る場所じゃないよ、ここはねぇ」


 女性の少し揶揄する様な口調と増した威圧感が、ちょっとだけ奴を思い出させてくれた。母さんより年上なのは間違いないけど、年齢不詳な感じもする女性だった。


「おやぁ、本当に道場破りだったのかねぇ」


「あ、すみません、そんな積りはありませんでした。物凄い物を見せて頂いて、驚いているだけです」


 道場破りなんて聞くと、門下生が殺気立ちそうな気もしたけど、何人かが苦笑しているだけだった。何かイメージと違うね?


「物凄いねぇ、そんな風には見えないよ?」


「いえ、今の日本で、木刀を使って本気で打ち合う流派があるとは思いませんでした」


「一応は、分かってはいるんだねぇ? ただし、真剣を使ってのを見たいとでも思っているんだろう?」


「真剣でヤルんですか?」


「馬鹿だね、ただでも怪我人ばかりなんだよ、死人が出ちゃ誤魔化すのが大変だろうにさぁ」


 そりゃそうだ、それに色んな意味で流派自体が長続きしない気がするよ! でも誤魔化せればやっちゃう気がする……。でも、怪我人が多いのは事実なんだよね、門下生の人達は全員何処かに包帯を巻いていたり、湿布をしていたり、ギプスをしている人まで居る。


 さっきみたいな打ち合いを日々やっていれば当然の結果だろうけど、そうだ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ