第10話 写真
さて、第2章のはじまりです。
色々とアレですが、楽しんでいただけるでしょうか?
”美人は3日で飽きる”
”ブスは3日で慣れる”
こんな俗説を聞いたことがあるよね? 僕、天原弘樹の友人である先沢英知に言わせると、”浅木結歌”という同級生の女の子は”美人は3日で飽きる”を体現した様な存在だそうだよ。
浅木結歌が美人だという事を否定する人は居ないけど、逆に人当りが良いとは僕でも言えないかな?
僕にとって、浅木結歌という同級生の女の子は3日どころか3週間、3ヶ月見続けても飽きないどころかもっと目が離せなくなる謎めいた存在なんだけどね。
他人から見れば、”浅木結歌”と実際に付き合った事がある英知の意見の方が信頼出来るらしいけど、告白して3日で破局を迎えるカップルというのも珍しいと思う。
英知が告白して、3日で一方的に振った(と本人は主張しているよ?)訳だけど、”浅木結歌”には全く変わった様子が無かった。英知と同じ様に交際を申し込んだ生徒は居るんだけど、結果は英知と同じだったんだよね。
「冗談を言ってもニコリともしないし、プレゼントを贈っても無関心に受け取るだけ、結歌の方から何か話すって事も無いんだから息が詰まるって言うか何と言うか、兎に角、男女交際にならないんだよ!」
英知はこんな事を言っていたけど、この評価は実際正しい物らしい。アレキシサイミアという言葉を知っている人間は少ないよね、失感情症とか訳される精神的な障害なんだけど、”浅木結歌”という少女は小学生の事、重度の失感情症と診断されたんだ。
僕に言わせると、その”アレキシサイミア”さえ、彼女の魅力の一部だと思えるんだけど、英知に言わせれば”恋は盲目”とか”痘痕も笑窪”なんだってさ。これに関しては”浅木結歌”の現在唯一の友人、委員長こと仙道咲耶からも同様の事を言われているよ。
折角だから、委員長の話をしておこうかな? あれはゴールデンウイーク明けの頃だった、”浅木結歌が男を取っ替え引っ替えしている”という噂が流れたのはね。
実情を知っている人間からすれば言い掛かりでしかないけど、1月の間に数人の男子生徒に告白されて、その全てが破局を迎えているんだからそう言う見方も出来る。噂の出所は2年の先輩の女生徒で、好意を持っていたクラスメートが、”浅木結歌”に撃墜されたのがプライドに障ったらしいね。
元々、クラスに(同性のだよ!)味方が存在しなかった”浅木結歌”が孤立するのはあっという間だったよ。一応高校生と言う事で、露骨なイジメなどは無かったけど、クラスで孤立するは避けられなかった。
ただ、”浅木結歌”という少女は、自分が”ハブられている”事に気付いているのかいないのか、噂の前後で全く態度が変わらなかったんだよね。何時も超然とした態度が崩れないまま、時間だけが過ぎていったよ。
でも、僕は”浅木結歌”の態度に少しだけ違和感を感じたんだ。例え、他人の感情を理解出来なくても、自分の感情を表に出す事が出来なくても、彼女の中では何かが起こっていると感じたんだ。
僕だって、小学生の頃は女の子っぽいって苛められそうになったけど、性格的にやられっぱなしじゃなかったから、色々問題を起こした記憶があるよ。小6担任だった体育教師の勧めで武道をはじめる事になったのもその辺りが原因なんだよ。僕が、”浅木結歌”を放っておけなかったのはこの経験があるからだろうね。
だからと言って、僕に出来る事なんて殆ど無いんだよね。僕が玉砕覚悟で”浅木結歌”に告白して、首尾良く男友達になったとしても、事態は好転しないだろうね。それはそれで望む所だけど、絶対的に時期が悪い。
僕が出来たのは、委員長に”浅木結歌”の友人になってくれと頼む事だった。
+ * +
委員長とは言え、放課後の部活の後で2人っきりで会うのは緊張したけど、委員長の仕事で遅くなった委員長を何とか掴まえることが出来た。
「委員長、ちょっと良いかな?」
「天原君、何かしら?」
「委員長に頼みがあるんだけど……」
「また、英訳?」
語学関係は委員長の独壇場で、僕も良くお世話になってるんだ。総合成績と言う面では”浅木結歌”が上だけど、語学では仙道咲耶に軍配があがるんだ。”浅木結歌”には、”この時の作者の心情を述べよ”とかいった問題は答えられないからね。
「いいや、このクラスの事だよ」
「クラスの……?」
その委員長の戸惑った様な表情を見て、僕は次の言葉をそのまま言うべきじゃないと思ったよ。委員長になる為に生まれた委員長?なんだから、今の”浅木結歌”を取り巻く環境を理解していない筈が無い。
委員長は、このクラスで”浅木結歌”と並んで評される事が多いんだよね。普通に考えれば、ライバル関係とも言えなくも無い。成績でも女の子としての魅力でも、僕的には”浅木結歌”に一歩劣るけどね!
私的な意見は置いておくけど、ライバルに救いの手を差し伸べるほど委員長も出来た人間じゃないんだろうか? 私が助けてあげるからありがたく思いなさい、とか考える人間なら良かったんだけど、そんな女の子を頼る積りは無いよ。
多分、委員長の中では”浅木結歌”を助けたいという感情と、助けを求めて欲しいという想いがあるんだろうね。でも、自分から手を出すのはちょっとプライドが許さないと言った所なんだと思う。”浅木結歌”がそれらしいリアクションを見せていれば躊躇わないのだろうけど、それが無いんだものね。
「続きをお願い、天原君」
「あの、あのね……」
あれ、”浅木さんの友人になって欲しいんだ”って言っちゃいけない気がするよ?
「?」
「委員長に浅木さんの……」
「浅木さんの?」
「写真を撮って欲しいんだ!」
「はぁ?」
うん、切羽詰って何時も考えていた事が口から出ちゃったよ。”浅木結歌”の生写真が欲しかったんだ、それも陰で売買されている様なのじゃない写真がね!
「写真って、浅木さんのよね」
「うん、そうだよ」
「天原君が自分で頼めば良いんじゃない?」
「えっ?」
それはそうなんだよね、”浅木結歌”なら頼めば撮らせてくれるよね……。でも、それは何か違うと思う。
「委員長、僕が欲しいのは浅木さんの彫像の様な表情の写真が欲しい訳じゃないんだよ。えーっと、何気無い表情とかが良いんだ」
「何気無いね~?」
「うん、もし委員長が嫌と言ったら、盗撮するしかないかもね」
「盗撮って、ああ、確かにクラスから犯罪者を出す訳には行かないわね」
「そう、そうだよね。自分で言っておいて変だけど、頼めないかな?」
「うん、任せて!」
こうして、ちょっと情けない男子生徒の依頼で、委員長が”浅木結歌”の素顔を撮影する事になった訳なんだよ。まあ、万能に見えた委員長が意外に機械オンチだった事が判明したり、僕が試し撮りした”委員長の困り顔”に先沢英知が一目惚れ(アホか!)すると言うアクシデントもあったけど、”浅木結歌”と仙道咲耶は首尾良く友人になり、”浅木結歌”に対する風当たりも改善したんだよ。
そして、僕は”浅木結歌”の何気無い素顔を多数手に入れた訳だね。うん、概ね上手く行った訳だよ、僕は何もしていないけどさ!




