「序盤で死ぬはずの村娘に転生しましたが、幼馴染の勇者より森番のおじさんが好みです」
「おはよう、カイル。わたしのこと、いつおよめさんにしてくれる?」
という台詞が口をついて出たとたん、私ははっと気がついた。
やだこれ異世界転生じゃない?
同時に「リリカ」という名で生きたこの世界の記憶が、どっと流れ込んでくる。
この村の名前は「はじまりの村」。
宿屋と道具屋が一軒ずつあるだけの小さな村だ。
私の前に立っている男の子はカイル。私の幼馴染である。
セルリアンブルーのツンツン髪に、エンパイアブルーの瞳。なかなかの美少年だ。
その上――。
額には真ん中に赤い石のついた金色の輪が嵌まっていた。
……うん、あからさまに勇者だね!
てことは、ここは何かのゲーム世界?
――なんて、超高速で考えていた私に、勇者の少年がにやにやしながらもったいぶった口調で言った。
「うーん。どうしようかな?」
「…………」
その口ぶりに、ここ数年の記憶が芋づる式によみがえる。
子供の頃から――って、十五の今も子供っちゃ子供だけど――リリカはカイルが好きだった。
昔はカイルもリリカに優しくて、遊ぶ時はいつも一緒だったし、
「おれ、大きくなったらリリカをおよめさんにするんだ」
なんて言ってくれていたけれど。
いつの頃からか、カイルは次第にリリカを下に見るようになっていった。
そのくせ、何かというとリリカを頼ってくる。
「リリカ。今度森に行くから薬草くれない?」
その時はたまたま持ってた薬草を渡したけれど、次に頼まれた時は持っていなかった。
「じゃあ、店で買うからお金貸して」
貸してというから貸したのに、カイルはいつまで経っても返してくれない。
……いやこいつ、普通にクズじゃね?
まぁどうせ「リリカ」は、ゲーム開始時のちょっとしたイベントに登場するだけの端役に過ぎないのだろうけど。
――だったら、これ以上こんな奴に関わらなくてもいいんじゃね?
そう思った私は、くるりとカイルに背を向けた。
「えっ? ……リリカ?」
背後で驚いたようなカイルの声がしたけど、どうでもいい。
それより私には、他にやりたいことがあるのだ。
◆◆◆
村を出て細い道をしばらく行くと、ちょっとした森に行き当たる。
薬草や木の実が拾えるが、魔物も棲んでいる森だ。
案の定、いくらも行かないうちに、頭上に差し交す木の枝から、べしゃっ! と何かが落ちてきた。
スライムだ。
潰して核を抜けば死ぬけれど――こいつの体液、確かめっちゃ臭いんだよね。
そいつに向かって片手を突き出し、
「〈氷結〉!」
と唱えると、ぱきり! スライムは凍りついた。
わ、本当に出た。
凍ったスライムを踏みつぶし、中から核を抜き取ってポケットに入れる。
そこからさらに先へ行くと、またスライムが現れた。同じように倒してコアを取る。
また一匹。次は二匹。
三匹同時に出てきた時は、生き残ったスライムが噴き出した粘液で腕を怪我したけれど、近くに薬草が生えていたから、その汁を塗りつけて手当した。
(楽しい!)
いつもはカイルと来る森だけど、二人で倒した魔物のコアを、カイルは全部取ってしまう。
おまけに私が怪我をした時も、
「お前なら一晩寝れば治るだろ」
と、なかなか手当してくれない。
自分が怪我をした時は、かすり傷でもすぐ薬草を使うくせに。
……いやほんと、クズだなあいつ。
もう二度と、一緒に狩りなんてするもんか。
気がつけば、いつの間にか森のずいぶん奥まで来てしまっていた。
体内の魔力も尽きかけている。
(ちょっと調子に乗り過ぎたかも)
そろそろ家に戻ろうと踵を返した時だった。
「グルルルル……」
茂みの中から、のっそりと真っ赤な目をした灰色の狼が現れた。
――グレイウルフ!
私の顔からさっと血の気が引いた。
スライムなどとは比べ物にならないくらい強い魔物だ。
初級魔法の〈氷結〉なんかじゃ倒せないし、そもそも魔力はもうほとんど残っていない。
狼の魔物が地を蹴って跳躍した。
「ひっ……!」
私はしゃがみこんで目を閉じる。
けれど、いつまで経っても痛みはやってこなかった。
代わりに、何か重たい物がどさりと地面に落ちる音。
そして、近づいてくる不揃いな足音と、聞き覚えのある男の声。
「大丈夫か?」
おそるおそる目を開けると、そこには、背中に弓を、腰に矢筒を下げた背の高い男が立っていた。
首の後ろで無造作に束ねた髪はシルバーグレー。
鋼鉄色の瞳は、額から斜めに走る切り傷のせいで片方が閉じている。
「オーウェン……さん」
「どうしたリリカ、改まって。いつもみたいに『オーウェンおじさん』でいいんだぞ?」
オーウェンは、私に手を貸して立たせてくれた。
そばには、首に矢が刺さって絶命したグレイウルフが倒れている。
「何だ、今日はカイルと一緒じゃないのか? 女の子が一人でこんな所まで入ってきたら駄目じゃないか」
「う……は、はい」
「……? 顔が赤いな。どこか怪我でもしたか?」
「ち……っ!」
近い近い近い!
いや待って。オーウェンってこんな素敵な人だった!?
「リリカ」が物心つくころからずっとここの森番をしていて、村の子たちからは「オーウェンおじさん」と呼ばれて親しまれていたけれど。
見た感じ、歳は三十前後。
傷痕さえもアクセントに見えるほど端整な顔に、均整のとれた身体つき。
加えて、グレイウルフを一射で倒すほどの弓の腕。
明らかに只者じゃないオーラを感じる。
ゲームキャラだとしたら、絶対何らかの役割を持った人物に違いない。
ていうか、それより何より。
この人、私の好みど真ん中なんですけど――っ!!!
◆◆◆
オーウェンに家まで送ってもらった私は、両親にこってり叱られた。
「収穫祭の満月も近いっていうのに、一体何を考えてるの!」
「森へ行くなら必ずカイル君と一緒に行くと約束しただろう!」
……あー。確かにしましたね、そんな約束。
そして森から帰るたびに、私がコアを一つも持ってこないものだから、両親も村人たちも、私のことは「スライム一匹狩れない役立たず」だと思っている。
そんな時、カイルは決まって、
「大丈夫! リリカ一人くらい、俺は余裕で守れるから」
なんて爽やかに笑ってみせるのだ。
リリカもリリカで、カイルに「ああ言っておけば、毎回一緒に狩りに行けるだろ?」なんて言われて、にこにこしながら黙っていたのだからおめでたい。
……ていうか。
「収穫祭の満月」
その言葉が、妙に引っかかるのはなぜだろう。
ここがゲームの世界なら、おそらく何らかのイベントが起きるのだろうけど。
妙な胸騒ぎを感じながら眠りについた私は――。
その夜、奇妙な夢を見た。
――では勇者のキャラデザは、これで決まりということで。
――この村の女の子はどうします? あと森番。
――女の子のほうは、最初のイベントで逃げ遅れたことにして殺そうか。で、勇者が奮起して旅に出るって流れで。
――いいね、それでいこう。
――森番のほうはイベントキャラね。中盤で手に入る〈聖女の杖〉の洞窟に勇者一行を案内してから、中ボス戦で死ぬ。
――もったいない。どっちもキャラデザめっちゃ頑張ったのに~。
「――――っっっ!」
声にならない悲鳴を上げて、私はがばっと跳ね起きた。
全身が、汗でびっしょり濡れている。
(思い出した……)
前世、私がイラストを手掛けたゲームキャラ。
夜中のテンションでスイッチが入っちゃって、妙に力が入ってしまった森番の男。
どんなゲームか知らないのは、あの会議があった日の帰り道、交通事故に遭っておそらく死んだからだ。
あの時点では、まだタイトルもシナリオの全容も固まっていなかった。
決まっていたのは、勇者の幼馴染の村娘「リリカ」が死ぬことになる「はじまりの村」の最初のイベント――魔王が復活する「収穫祭の満月」と。
〈聖女の杖〉のスペックと、森番オーウェンに用意された、ゲーム中盤での死。
開け放した寝室の窓から、夜空に浮かぶ半月が見えた。
――収穫祭の満月まで、残すところあと一週間。
◆◆◆
「リリカ。おいリリカ、待てよ!」
声と同時に手首を掴まれ、振り向けばカイルが肩で息をしながら立っている。
「森へ行く時は、必ず俺と一緒に行くっておばさん達と約束したろ!」
「そうね。だから森までは一緒に来たけど、今度から狩りは別々にしましょう?」
私がそう言うと、カイルは「は?」と目を見開いた。
「何で」
「だって、カイルは私が倒した魔物のコアを全部自分の物にしちゃうから」
「それは……だって、そのほうがいいってリリカが……」
「そんなこと、私は一度も言ってない」
言ったのはカイルだ。
その理由も、今の私にはわかっている。
「いいや、リリカが言った」
「そう? なら撤回するわ。もう一緒に狩りはしなくていい。私が狩った魔物のコアは、私が自分で売りに行く」
私はカイルに掴まれた手を振り払い、すたすたと森の奥に向かって歩き出した。
「……っ! そんなの駄目だっ!」
「どうして? 私一人くらい、カイルは余裕で守れるんでしょ? なら、足手まといの私なんかいないほうが、もっと魔物を狩れるんじゃない?」
べしゃっ!
言っているそばから、狙いすましたように、私とカイルの真ん中にスライムが降ってきた。
カイルが「わっ!」と叫んで飛び下がる。
「~~~~っ! リリカぁ……」
情けない声を上げるカイルは、実はスライムが駄目だった。
初めて狩りに行ったとき、落ちてきたスライムを頭から被ってしまい、体中臭い汁でべとべとになったのがトラウマなのだ。
「そのスライムはあなたに譲るわ。じゃあね」
スライムなんて、本当は子供でも狩れる魔物だ。
わざわざ凍らせるまでもない。
踏み潰して動きを止め、体の中に手を突っ込んで核を抜けば簡単に倒せる。
この森に出るスライムは、だから、村の子たちの格好のお小遣い稼ぎになっていた。
なのに、そんなことさえできないと村の大人たちにバレたら――本当の「役立たず」はどっちなのかバレてしまったら。
(ま、今の私にはそんなのどうでもいいけど)
そんなことより、私には目前に迫った自分の死を回避する、という差し迫った目的がある。
脇目も振らず森の奥を目指す私は、だから見なかった。
去っていく私を見送るカイルの身体から、一瞬、黒い靄のようなものが立ちのぼった瞬間を。
◆◆◆
「……洞窟?」
森番小屋でお茶の支度をしていたオーウェンは、不思議そうな顔で振り向いた。
「ああ、確かに森の奥にあるが。どうしたんだ、藪から棒に」
「ちょっと行ってみたいなって思って。とっても綺麗なとこなんでしょ?」
「……ああ。まあ、そうかな……?」
「見てみたいの。お願い。今から連れてってくれない?」
森の奥の洞窟には、無限に〈治癒〉が使えるようになるレアアイテム〈聖女の杖〉がある。
あれさえあれば、収穫祭の夜のイベントで、一人だけ逃げ遅れたリリカが重傷を負っても回復できるはずだ。
オーウェンは「うーん」としばらく考えこんだ。
「そうだな。じゃあ次の満月が過ぎてから……」
「駄目!」
それでは遅いのだ。
オーウェンはひとつため息をつくと、椅子に座る私の前にしゃがみこんだ。
「リリカ。君も知っているだろう? 満月が近づけば近づくほど、魔物は強くなっていくんだ」
知っている。
そして次の満月が、ただの満月ではないことも。
その夜、魔王が復活し、世界が一変することも。
――収穫祭の最中、「はじまりの村」が魔物の群れに襲われ、「リリカ」が死んでしまうことも。
この日を境に、魔物たちは飛躍的に強くなる。
この森のスライムたちでさえ、レベルアップした中盤の勇者一行が苦戦するほど強くなるのだ。
おまけに〈聖女の杖〉の洞窟には、厄介な魔物が現れる。
魔王配下の四天王の一人。後にオーウェンの命を奪うことになる中ボスだ。
(だけど、今なら――)
中ボスはまだ現れず、途中で出くわす魔物たちも、そこまで強くないはずだ。
オーウェンは困ったようにがしがしと頭を掻いていたが、やがて何かを決意したように頷いた。
「わかった。それじゃ、今から行くか」
◆◆◆
問題の洞窟までは、森の奥にあるオーウェンの小屋からでもかなり距離があった。
途中、何度か魔物に出くわしたけど、ほとんどは私でも倒せるザコ敵だ。
「何だ。リリカはちゃんと魔法が使えるんじゃないか」
「ふふっ。驚いた?」
「おう、驚いた、驚いた。……けど、このこと、カイルは知ってるのか?」
「うん」
知っていて私を利用していたことは黙っていた。
告げ口みたいになっちゃうし、何より、ちょうどその時――。
「あった! あの洞窟ね?」
目の前の岩山の麓に、ぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきたからだ。
オーウェンが持ってきたランタンに灯を灯す。
広々とした洞窟の奥は不思議な白い光に満たされ、突き当たりの岩に、びっしりと蔦に覆われた細長い棒状の物が刺さっている。
「わあ。何か刺さってる。何あれー」
我ながらかなり棒読みの口調で言いつつ、万が一にもオーウェンに止められることがないように、駆け寄ってずぼっと引き抜いた。
途端、眩い光が天から降り注ぐ。
「せ、聖剣が……」
背後で、オーウェンが呆然と呟く声がした。
――え、聖剣?
改めて、手の中で輝く棒状の物に視線を戻す。
見る間に干からび、枯れ落ちた蔦の中から現れたのは――。
黄金の柄に宝石を散りばめた、一振りの大きな剣だった。
私は呆然と剣を握りしめたまま、背後に立つオーウェンを振り返る。
「オ、オーウェンさん。これって……」
「――オーウェンと」
「はい?」
「オーウェンとお呼びください、勇者様」
言うなり、オーウェンはまるで騎士が主君にするかのように、私の足許に跪いた。
やだ格好いい……じゃなくて!
「どういうこと?」
「我が名はオーウェン・ウォード。代々、聖剣を守護する者です。魔王の復活とともに勇者もまた現れる。リリカ様。聖剣に呼ばれ、聖なる岩から聖剣を引き抜いた貴女こそ今代の勇者に他なりません!」
……うそーん。
どうやらあの会議の後、つまり私が死んでしまった後で、ゲームのシナリオとキャラ設定が大幅に変更されたらしい。
え、てことは何? 私ってば勇者の幼馴染じゃなく、勇者本人だったってこと!?
その時だった。
「嘘だっ!」
聞き覚えのある声が、洞窟内に響き渡った。
振り向けば、洞窟の入口に。
スライムの体液に塗れ、ぼろぼろになったカイルが立っていた。
「カイル……」
カイルはずかずかと洞窟に踏み込んでくると、私に向かって手を突き出した。
「返せよっ! その剣は俺のだっ! 俺が抜くはずだったんだっ!」
「――よせ、カイル」
すかさずオーウェンが、私を庇うようにカイルの前に立ち塞がる。
やだもう、いちいち素敵すぎー!
「前に一度、試しただろう? 聖剣はおまえを選ばなかった。勇者じゃないからだ」
「だからって……だからってっ! 何でリリカなんだ! こんな奴、村で一番役立たずなのにっ!」
――役立たず。
『なぁ、リリカ。この核、俺がもらっていい?』
ふいに、何年も前に聞いたカイルの声がよみがえる。
『えー、なんで? それ、リリカがたおしたのに』
『だって、俺は勇者だからさ』
『ゆうしゃ?』
『そうだぞ。その証拠に、ほら』
カイルが額に嵌めた金の輪っかを指さす。
『絵本の勇者と同じだろ?』
『えー? でも、それ、カイルのお誕生日におじさんたちにもらったやつだよね?』
『う……うるさいな! とにかく俺は勇者なの! リリカは黙って俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ!』
あの頃の「リリカ」はカイルのことが好きだったから。カイルを怒らせたくなかったから、黙ってカイルの言う事を聞いた。聞き続けた。
そうして何年も経つうちに、次第にリリカは「役立たず」に、カイルは「勇者」でこそなかったものの、「村一番の頼れる若者」になっていったのだ――。
「わかった。じゃあ、こうしよう! リリカ、その剣を俺にくれ。俺がおまえの代わりに勇者になってやるよ」
「いや」
考えるより先に、言葉が口をついていた。
一瞬、呆気にとられたようなカイルの顔が、みるみる赤くなっていく。
「は……はああ?」
同時に、カイルの身体から、うっすらと黒い靄のようなものが立ちのぼりだした。
「カイル! それ以上悪意に呑まれるな。それは瘴気だ。支配されれば魔物に墜ちるぞ!」
けれど、その言葉はもはやカイルには届いていないようだった。
「いいから早くその剣をよこせ! よこせよコせヨコせヨコセ――!」
ぶわり、と黒い靄が膨れ上がり、カイルの全身を覆い尽くしたかと思うと、その身体がぐうっと膨張した。
「がああああっ!」
獣のように吠えたカイルの肌は青黒く変わり、服は裂け、手足の爪は長く伸びていく。
ぱきん、と音を立てて、二つに割れた金色の額飾りが地面に落ちた。
そこにいるのは、全身が青黒い毛に覆われた、ヒヒのような魔物だった。
「下がって、リリカ!」
オーウェンが私を後ろに突き飛ばし、至近距離から立て続けに矢を射るものの、命中した矢のほとんどが刺さることなく落ちていく。
「くそ、攻撃が効かない魔物か!」
――と、いうことは。
私は聖剣を握る手に力を籠める。
洞窟までの道中でかなり減っていたはずの魔力は、今や身体から溢れんばかりに満ちていた。
握りしめた聖剣から流れ込む力が、新たな魔法を形作る。
「〈氷槍〉!」
忽然と現れた氷の槍が、かつてカイルだった魔物の胸を貫いた。
◆◆◆
驚いたことに、「はじまりの村」の大人達は皆――私の両親も含め――聖剣の存在も、オーウェンが聖剣の守護者だったことも知っていた。
「本当なら次の収穫祭で、今年十五になるあなたたち二人に話すはずだったんだけど」
と母は言う。
「この村はもともと『はじまりの勇者の村』と呼ばれていたの。初代の勇者様が開拓した村だからよ」
何と。そんな設定があったとは。
あの日の会議以前の情報しか知らない私にとっては、何もかも驚くことばかりだ。
「しかし、勇者がリリカのほうだったとはなあ……」
父はいまだに私の腰に聖剣があることに慣れていないようだ。
「てっきり、カイル君のほうだとばかり」
そのカイルは、私の攻撃で瘴気が抜けた後、人の姿には戻ったものの、今も昏々と眠り続けている。
「それじゃ、気をつけていくんだよ」
母はそう言って私をぎゅっと抱きしめると、辛抱強く待っていたオーウェンの方に向き直った。
「娘のこと、どうぞよろしくお願いします」
「はい。必ずやお守りいたします」
言いながら、右の拳を左胸に当てて礼をするオーウェンは本当に素敵だ。
思わず私が見惚れていると、父が「えへん」と咳払いした。
「あー、オーウェン君?」
「はい」
「勇者と聖剣の守護者ということだから、二人旅も認めたが、娘はまだ十五歳だ。そこのところは、くれぐれも……」
「ちょ、お父さん!?」
何、余計な釘刺してくれてんのよ!
オーウェンはふっと微笑んだ。
「無論、心得ております」
「……ねえ。心得てるって、何をどう心得てるの?」
何度も振り返って手を振りながら、それでも遂に村の門が見えなくなったところで、私はオーウェンに聞いてみた。
「さあ? 何だと思う?」
オーウェンは私を見下ろして微笑む。
だけど、私は思うのだ。
もしも、このシナリオを書いたのが、生前親しくしてたあの子なら。
――ちょっと。この森番のキャラデザ、めっちゃ力入ってない?
――そうなの。実は私の中の設定では、村娘のこの子の本命は、勇者じゃなくてこっちの森番さんなんだー。
――相変わらず好きねえ、歳の差カップル。
(なあんて)
ゲームのシナリオがどうだろうと構わない。
私は勇者で、オーウェンはこれから長い時間をかけて私と一緒に旅をする。
その間にはきっと――。




