第8話 ダンジョン第一層
ダンジョン入口に行った数日後、ギルドの掲示板には注意書きが書かれていた。
・『ダンジョン方面:崩落箇所 応急修理済み』
・『荷車使用不可』
・『徒歩での補給・回収のみ』
やはりあの崩落は、すぐに簡単な復旧が出来たんだな。
ただ荷車が使えないって事は、まだ厳しいって事か。
「ダンジョンの依頼、あるんだな」
『ダンジョン第一層・入口付近
補給物資の再配置
報酬:銀貨3枚及び危険手当銅貨7枚
※戦闘行為なし
※深部進入禁止』
という依頼内容だった。
入口の、少し先までか。
近いから多少は安全だな。
それに荷車不可、徒歩のみ。
……俺向きだな。
前回、入口まで来たからそこまでが問題が起きないように感じてしまう。
あんな崩落があったんだけどな。
しかも銀貨3枚に危険手当か。今までよりも貰えるんだな。
「とりあえず、受けるか」
そんな深部まで行くわけじゃないからな。
「お願いします」
「児島さん、これを受けるんですね」
受付の女性は念押ししてきた。
俺は頷いた。
「本当に、無理はしないでくださいね」
「勿論だよ」
「入口から少し入るだけですので、危険を感じたら、即撤退で」
何度も頷いて、女性の言葉を聞いていく。
「仕事だけですよね」
もうそれしか感じていなかった。
報酬だって多いからな。
俺はリュックを背負いながら、ダンジョン入口まで徒歩で移動することになった。
車なんてそんな便利なものはない。
それに、集合地点《依頼開始場所》は、ダンジョン入口だったのもあるが。
「直されているな」
昨日崩落があった場所は、簡単に埋め立てられていた。
土の色が違っているから、場所が分かった。
念押しのように、簡易的なロープまで張られている。
「さて集まったな」
ダンジョンの入口は、暗く口を開き、冷たい風が出ていた。
メンバーは俺を除けば、調査隊二人と彼女。
「コジマさん、また会いましたね」
先日の娘と顔を合わせた。
「リナ、だっけ?」
「そうです」
彼女は笑顔を見せながら、返事をした。
「怪我は大丈夫か?」
数日しか経っていないが、メンバーに入るなんてな。
「ええ。大丈夫です」
すると、はにかみながらそう答えた。
可愛らしいな。彼女は。
「これ、ありがとうございました」
タオルを渡された。
洗われていて、良い香りがする。
「いやいや、こちらこそありがとう」
嬉しいかもしれない。
これはダンジョンから入る前に、多少テンションが上がるかもしれない。
「さて、これからダンジョンに入る。中は静かなはずだ」
調査隊の一人が宣言した。
「第一層の入口だけだが、気を抜くなよ」
どんな危険があるのだろうか。
俺にはまだ分からなかった。
「コジマ、君は補給物資を配置していって、空箱は回収する」
「分かりました」
俺のリュックに、補給物資を入れた箱を入れていく。
入っていくと重さを感じなくなる。
「さて、出発しよう」
ダンジョンの中へ俺達は入っていった。
「一気に変わった」
外よりも冷たい空気が俺を包んでくる。
息を吸っただけで、肺の奥が冷えていくようだった。
松明はあるものの、入口から離れていくと徐々に暗くなってくる。背後に見える光が出口だというのはっきりさせた。
声が反響していて、足音だけがやけに大きく感じる。
「さて、ここに配置だ」
数十メートル歩いた先、そこに補給の箱を置いた。
これはリナが持っていたものを。
「ふぅ……」
重そうにしているな。
「大丈夫か?」
調査隊の一人が声を掛けた。
「は、はい……」
苦笑いしながら返事をするリナ。
色々と詰まっているんだな。
「これ、入れてくれ」
「分かりました」
俺のリュックに空箱を入れていく。
使用済みの、補給箱みたいだな。
「平気にしているな」
「そうですね」
重さは変わらないから。
そのまま歩いていく。
一定の間隔で補給箱を置いていって、空箱を回収していく。
俺のとリナのを交互に。
当然、俺もリナも空箱を持っている状態。
「きゃっ!?」
あるタイミングで補給箱を置こうとした時、リナが滑っていた。
転ぶまではしなかったものの、少し驚いてしまったようだ。
「おい、怪我は!?」
俺はリナに無事を確かめる。
「無いですよ……」
「良かった」
また怪我なんてしてほしくないからな、あまり。
足元はそんなに良くない。
湿っている場所もあるから。
「重くないか?」
「まあ、何とか……」
結構空箱を抱えてきたが、微笑しながら返事をするリナ。
歩くスピードはギリギリ保っているみたいだ。
「ちょっと立ち止まってくれ」
するとダンジョンの奥から『グルルル……』という唸り声。
それに足音も聞こえてくる。
「魔物の声だ」
「想定より近いな」
調査隊二人が話し合った。
どうやら危ないみたいだな。
「荷物を置いて撤退する」
「えっ!?」
俺は驚いた。
せっかくここまで来ているのに。
「仕方ないですが……」
リナは背負っているカバンを置こうとしていた。
何回も来ているんだな。
だから、その判断をしているのか。
重さを無視して逃げられるように。
「コジマも全部置いていけ!」
一人がそう俺に伝えた。
他のメンバーも置こうとしていた。
でも、ここで置いてしまったら無駄になってしまう。補給とか何もかも。
置いていけば、確かに楽だ。
でも、それは仕事を投げるのと同じだった。
「いや、俺は全部持って出ます!」
彼らにそう言い放った。
「おい何を言っているんだ!」
「無理だろ!」
そう二人は怒りを出している。
「入ります」
俺はリュックに彼らが置いていこうとした荷物を入れていった。
重さはあり、時間はないものの、入れていくたびにリュックは応えていった。
「おい、入っているな……」
「重くて持てないことはないのか?」
そんな疑問に対して、俺は軽々と持つことで回答に変えた。
「持てます!」
「コジマさんを信じてください」
「本当なのか?」
「はい!」
俺はリュックを背負っていって、撤退の準備をしていく。
他のメンバーは、身軽になって逃げやすくなった。
とはいえ俺もリュックだけなので、重さを感じていないが。
「君が先頭で歩いてくれ」
「分かりました」
俺達はダンジョンの出口へと向かって歩いていく。
足音は一旦は近づいたものの、徐々に遠ざかっていく。
現状、逃げられているな。
「やった!」
「無事ですね!」
やがて明るい景色が目の前に広がっていった。
音が戻ってきて、冷たい空気が変わっていく。
ダンジョンから出られたんだな。
「……助かった」
俺はリュックからそれぞれの荷物を取り出していく。
形は崩れていなくて、取り出したら重さを感じる。
「おお、ちゃんとあるな!」
補給箱も空箱だって、そっくり残っている。
それを一個一個取り出していた。
「凄いな」
調査隊の一人が感心していた。
嬉しそうにしていた。
「やっぱり、荷物運びの人じゃないですね」
リナが耳元で囁いた。
「運ぶのが仕事です」
ただそれに対して、はっきりと答える。
とはいえ、背中の重さは感じないが……
疲労は感じているな。
ダンジョンに、一歩だけ入った。
それだけで十分だった。




