第7話 アザレアへの帰り道
アザレアに向かって歩いていると、後ろから声がした。
「あっ、荷物運びの方!」
振り返ってみると、同行してきた女性だった。
青髪を一結びにした、可愛らしい感じで、どこか人当たりの良さそうな雰囲気。
チュニックにベスト、ズボン姿。
肩掛けのバッグに短剣。
やはり異世界だからな、こんな子もいるよな。
「さっきの荷物、助かりました」
感謝しながら隣にやってくる。
微笑みを俺に見せて。
やがて並びながら歩いていて、何故か気まずくない距離だと感じてしまう。
「仕事ですから」
だが、俺はそう淡々と返した。
そんな恋愛とかには、俺自身が程遠いからな。
少しだけ無言が起こる。
「正直、今日は中に入らないって聞いて、ほっとしました」
彼女は本音を一瞬だけ漏らした。
ほっとしたって、中に入るんじゃないのか?
この子も冒険者っぽいが。
「俺もです」
疑問に思いながらも、彼女へ率直な感想を伝える。
中へは行かないって言われていたけれどな。
「……あそこ、あまり近づきたくないですね」
立ち止まらずにダンジョンの方を振り返る彼女。
悩んでいる表情だった。
まだ冷たい空気が肌に感じられる。
「仕事じゃなければ、来ない場所ですね」
そうだよな。
こんなの依頼とかじゃなければ、近づきすらしないだろう。
「君はアザレアに戻るんですか?」
「明日、また運ぶためにですね。その後にダンジョンへ」
彼女も俺と似た感じで補助もしているんだな。
「遠くなりましたね」
振り返ってみても、ダンジョンの入口が見えなくなってきた。
冷たい空気も伝わってこなかった。
「ここまで来ればーー」
一瞬だけ、気が緩んだ。
その時だった。
「えっ?」
地面の奥から、ズズ……という鈍い振動が起こる。
足元の小石が跳ねている。
俺も彼女も足を止めた。
「……今の、何だ?」
すぐ側の道の斜面が崩れていった。
このままでは道の部分だって崩れるかもしれない。
「走って!」
「はい!」
俺達は一緒に走ることにした。
その間にも崩落が起こる。
「きゃっ!?」
彼女が足のバランスを崩して転んでしまった。
俺は駆け寄って、彼女の状態を確かめる。
見捨てていられなかった。
「大丈夫ですか!?」
「いたた……」
幸いにも崩落は、小規模で俺らがいる辺りにまで及ぶことはなかった。
ただ彼女が転んで怪我をしている。
「な、何とか……」
俺はタオルをリュックから取り出して、彼女の怪我した部分を当てるように軽く結んだ。赤く染みていくが関係ない。
「あ、あの……?」
不安そうな表情で、俺の行動を見ている。
「とりあえず血は止められると思います」
「あ、ありがとうございます」
俺の手を使って、彼女は立ち上がった。
「歩けますか?」
「……大丈夫です。歩けます」
だから様子を見ながら歩いていくものの、少々よろけている上、明らかに遅かった。
やはりくじいたせいなのか。
「荷物、俺が持ちます」
こうなったら、彼女を支えよう。
アザレアまでなのだから。
「えっ?」
彼女はきょとんとしていて、一瞬だけ状況が飲めなかった。
「バックと短剣、預かって良いですか?」
「は、はい……」
それでも俺の言葉を聞き入れ、彼女の肩掛けのバックと短剣を預けてくれた。
リュックを下ろして、チャックを開ける。
「荷物、ちょっと入ります」
俺はリュックの中に短剣と肩掛けバックをそのまま入れた。
反応するかのように、リュックはそっくり中へ。
「は、入るんですか?」
「そうです」
俺は平然としながら答えた。
「重くなりそうですけれども……」
「全然、軽いです」
「……そうなんですね」
興味津々っぽく、彼女はリュックを見ていた。
「良かったら、背中に乗ってください」
俺はリュックを前に。
たまにあるよな、こんな掛け方。
「大丈夫ですか?」
「はい」
すると彼女は背負うことに同意してくれた。
彼女の重さだけは、はっきりと感じる。
前に重さはなく、背中に温かい重さだけ。
「……重くないんですか?」
「大丈夫です」
そのままアザレアまで歩いていく。
背後で音がするものの、背負っているためそのまま歩く。
こっちには影響は無かったのが幸いだ。
「ありがとうございました」
アザレアの入口まで着いて、彼女を下ろした。
彼女は感謝しているようだった。
「さて、バッグと短剣です」
リュックから、彼女の持ち物を取り出した。
出てくるまでは重さを感じない。
「ここまで……あなたがいなかったら……」
「いいえ、大丈夫ですよ」
俺は軽く笑みを見せて、彼女を安心させる。
それを見たのか、彼女も顔がほころんでいた。
「お名前は、何ておっしゃるんですか?」
「コジマです」
「私は、リナって言います。コジマさん、また同じ仕事になるかもしれませんね」
そうだよな。
また会うかもしれない。
「その時は、よろしく」
「はい、今日はありがとうございました」
リナは浅すぎず深すぎない感じで、頭を下げていた。
こうして同行したリナと別れて、宿屋へと戻っていく。
今日は、運が良かった。
それだけで、生き残れた。




