第6話 依頼はダンジョン入口まで
正式登録になった後でも、俺が受ける依頼は相変わらずだった。
倉庫系の依頼や荷物運びの依頼を受けてばかりだった。
慣れているから、報酬は少なめでも、楽な方に行っているのだろう。
俺は今日も依頼を探していたんだが。
「児島さん」
受付の女性が、声を掛けてきた。
俺は受付の所へ。
依頼を受ける人達はいなかったから、そのまま向かうことができた。
「どうしました?」
少し小声気味になりながら、俺に前置きした。
「あの、先に言っておきますが……もし無理でしたらこの依頼は断っていただいて構いませんので」
そう伝えられて俺は一瞬、身構えた。
何を言われるのだろうか。
「ダンジョンの入口手前の野営地点までの物資運搬です。保存食や予備の松明、ロープや回復薬などを運びます」
受付の女性が説明したのは、荷物運びではあるが、今までとは違ったもの。
言わば、異世界と言ったらこれだよな、というような感じ。
「今回、コジマさんは、探索には参加しません」
探索しないのか。
危険度は低いのか。行方不明になるような仕事では、なさそうだ。
「荷物を渡したら、すぐ戻っていただいて大丈夫です」
そして報酬も提示された。
銀貨2枚と銅貨2枚。
今までよりは高めだな。破格とも言えないが。
(倉庫より、歩く距離があるだけだな)
ダンジョンにも入らないし、運ぶだけだったら簡単だろう。
俺はそう思っていた。
「依頼、受けます」
だからこそ、俺はこの依頼に参加することを決めたのだった。
「そうですか! では、お気を付けて」
受付の女性は嬉しい気持ちになっているが、すぐに表情を戻して頷きながら俺を送り出したのだった。
という事で、アザレアの街にある集合地点へ。
そこには、ダンジョンに向かうであろう数人が。
倉庫の時にも数人がやってきていたが、参加している人達は仮登録《あの時》とは様子が違っている。
「君は荷物運びか」
リーダー的な男性が俺を見て、問いかけてきた。
「そうですね。コジマと申します」
「じゃあ、ギルドでの依頼通り、調査隊の荷物運びをお願いする」
調査隊か。
彼らはダンジョンに入るのだろうか。
「はい」
指示された通り、俺は彼らの道具を、リュックに入れていく。
他にも同行するメンバーは多少の荷物を持っているが、俺は関係なくリュックの中へ。
入れるまでは重さがあったが、入ると途端に重さも容量も関係なくなった。
「ほう、そのリュック、何でも入るんだな」
荷物を入れていく様子を見て、感心したように言葉を漏らしていた。
「そうなんですよ。俺の愛用品です」
とりあえず、軽くにっこりとしながら返事をした。
「まあ、荷物の方は頼りにしているよ」
やがて彼らのメンバーとして、ダンジョンまでの旅が始まった。
最初はアザレアの街を歩くだけだったが、すぐに街を離れていく。
人の声が減っていって、鳥や風などの自然の音が聞こえてくる。
「倉庫や荷物運びの仕事とは、違うよな」
道が荒れていって、石がゴロゴロとしている。
しかも魔物が歩いたであろう、爪痕や足跡の痕跡が。
「ここから先は、運が悪いと帰れない」
メンバーの一人が、そう言葉を発した。
それを耳にして、俺はリュックを背負い直した。
帰れなかったらまた、転生できるのだろうか。
できないだろうな。
だからこそ、俺は気を引き締め直したのだった。
「もうすぐダンジョンの入口だ」
その言葉と共に、遠くには黒く口を開けた岩肌が見えていた。
口の奥は暗くて見えない。
近づくにつれて、冷たい空気が俺の身体を通り抜けていく。
まるで音が吸われる。そんな感じがした。
(うわ、近づきたくないな)
剣聖はこんな所に入ったのかよ。
大丈夫だろうか。
「さて、荷物運びの君はここまでで大丈夫だ」
多くないけれども荷物を持っていたメンバーは、この時点で疲れているようだった。
でも、俺はそこまで疲労を感じていない。
「出すのも簡単なんだな」
荷物をリュックから取り出していって、出し忘れたものがないか確認する。
大丈夫だな。
「助かった。これで数日は持つ」
結構カツカツなんだな。
ここまで、運が悪いと帰れない道らしいからな。
「さて、君はこれで戻っていいからな」
リーダーから報酬を渡されて、戻ることにしたのだった。
仕事で来ただけだ。それ以上は、求めていない。
ふと、ダンジョンの入口を見てみた。
入口付近には、放置された装備が無造作に置かれている。
そして新しいであろう欠けた剣も。その剣には、誰かの血がついていた。
「……前の探索者のだな」
誰がが小声で呟いた。
(俺のリュックも、あんな風に置かれるのだろうか)
ダンジョンの入口からアザレアの街まで戻る際、ふと胸の中に浮かんできた。
中に入る仕事じゃなくて、本当に良かった。
もし、取り残された荷物があったら……?
考えるだけで怖さを感じた。
ダンジョンに入らなかった。
それでも、十分すぎるほど近かった。




