最終話 次の依頼へ
「さて今日はどうしようか」
この日、俺はギルドへやってきて、依頼の前へと向かっていく。
倉庫にしようか、ダンジョンにしようか。
冒険者達はそれぞれ会話しているが、ちらほらとこっちへの視線を感じた。
「今日も来たぜ」
「あの補給、全部持って帰った奴だ」
噂話が聞こえてきた。
「今日はダンジョンに行くんだろうか」
「運搬するんだろうか」
盛り上がっているな。
それでも、俺は気にせずに依頼を見ていった。
『ダンジョン第二層
長距離運搬
報酬:銀貨6枚及び危険手当銅貨7枚
徒歩限定
危険度:中
※戦闘に巻き込まれる可能性有り
※深部進入禁止』
今度は第二層か。
その代わりに、報酬が高くなっている。
やってみる価値がありそうな依頼だな。
そう思っていたら、この依頼にはもう一つ追加で書かれているものがあった。
『指名:児島新大』
「……俺?」
思わず周囲を見回した。
依頼にははっきりと、俺の名前が書かれていた。
どういうことなんだ。
「児島さん」
そう疑問に思っていると、受付が俺の事を呼んできた。
丁度良い、訊いてみよう。
「すみません、あの依頼なんですが……」
そう受付に言葉を伝えた。
「見られたのですね」
受付は、事情を知っているようだった。
「正式に指名が来ています」
はっきりとそう続けた。
……正式だと?
「本当なのか?」
きょとんとして、彼女に問いかける。
「はい。調査隊から、強い推薦が」
まさか、こんな風になるとは。
戦闘じゃなくて、運搬専門で指名が来るなんて。
「どうされますか? 本日もお受けするのはご自由ですが」
受付はそう言っているが、指名されたからには、行かないといけないだろうな。
とはいえ危険度:中だから少し考える。
するとこの世界に転生してからの事を思い出す。
突然、この世界でやってきた。
リュックが何故か軽くて。
倉庫仕事をして、リュックで楽々と運んだ。
ダンジョンまで運搬の仕事をして、全ての補給物資をリュックに詰めて撤退する。
リュックに助けられてきたな。
気がつけば、ここまで来ていた。
だからこそーー。
「……受けます」
俺はそう返事をした。
本当、前世でもこんな風だったからな。
だからブラックな仕事でボロボロだったし。
仕方ないけれど。
「了解しました。幸運を祈っております、頑張ってくださいね」
「ありがとう」
受付から、そう背中を押された。
嬉しい気持ちになってくる。
「あっ、コジマさん」
受付を離れて、ギルドの出口へ向かうと、俺を呼ぶ声がした。
だが受付の女性じゃない。
「リナ。また会ったな」
俺は少しにっこりとした表情をして、彼女に見せる。
「はい! そうですね」
彼女も軽い笑顔を見せていた。
「また一緒ですね。安心しました」
「君もダンジョンか」
そう言われて、彼女に対してそう思った。
「はい。私ってダンジョン専門ですから」
リナからは、やはりと言えるような回答が返ってくる。
ということは、結構行っているんだな。
「剣聖より先に指名かよ」
「しかも運搬でだぜ」
俺達が話しているのを、周囲にいた冒険者がひそひそと話している。
「羨ましいな」
「だが、スキルはそんなに無いって話だ」
それぞれが、色々な感情を持って会話しているな。
でもそれでいいが。
「さて」
俺はリュックの中身を確認する。
ちゃんと入っているが、重さはやはり感じない。
荷物は、転生してきたときと同じもの。
財布や定期券だって、そのまま残っている。
「リナ、行こうか」
俺はリュックを背負い直して、ギルドを出ていく。
「はい!」
ギルドのドアを空けると、朝の光が俺達を照らしていた。
冒険者達が、今日の依頼をこなそうとしている。
「行きましょう」
ということで、ダンジョンへと向かっていった。
俺のスキルは、荷物運び。
戦うわけでもない。
英雄でもない。
ただ、運ぶだけだ。
誰かを助けたいわけじゃない。
ただ仕事をしているだけだ。
でもーー。
この世界で、それが必要とされている。
だから今日も、リュックを背負って歩く。
ーー次の依頼へ。
◆第一部 完




