第10話 リナのダンジョン撤退後
私はギルドの依頼掲示板の前で立っていた。
まだ足の裏に、昨日の緊張が残っている。
ダンジョンの依頼を見ながら。
「私、あの人がいなかったら……」
今頃、ギルドに戻れていたかも分からない。
先日の崩落に、昨日のダンジョン撤退。
彼に色々とお世話になっている。
何も返せていないな。
(あの時、もうダメだと思っていた)
もしもいなかったら、補給物資をいくつか残して撤退していた。いやほとんどかもしれない。
それは後続の調査隊が、ダンジョンで困ることになる。
「本当に彼のおかげ」
残りの補給物資や空箱を持って帰ることが出来たから。
途中までだったけれども、これで次行くときに再利用できる。
「リナさん、あの人……また同じ依頼で来るかしらね?」
受付のエリザさんが、そう話しかけてきた。
この人とは仲が良かったりするから、話すこともある。
今ちょうど、冒険者達の列が無いからだと思う。
「……来ますよ」
仕事だから。
彼はきっと来る。
日数が経ったとしても。
「補給全部持ち帰ったって」
「荷物運びの奴だろ?」
噂話が聞こえてくる。
明らかにあの人のこと。
(話したいけれど、流石に迷惑かな)
コジマさんがそんな目立ちたいような感じじゃなさそうだし。
「凄かったな」
思い出してみる。
リュックにバッグが消えるように入っていった。
明らかに大きいはずなのに、余裕でリュックに入っていく。
魔物の声が聞こえてきて、危険なはずなのに。
『入ります』
ただ彼が言った一言が、頭の中に残っている。
私やメンバーはそれで身軽になって、撤退できた。
彼は逆に重いはず。なのに、平気で動いていた。まるで背負っていないかのように。
英雄、って感じじゃない。
「分からない」
強いわけじゃない。
あのリュックを使いこなしているだけ。
でも、頼りになっていた。
あれだけの量を入れていたのに、無理している様子もない。
それが不思議だった。
「剣聖より使えるらしいぞ」
確か、少し前にダンジョンへ入った人。
中で行方不明になったと思う。
彼は剣を使いこなせていた。でも、それだけ。
剣が強くても、帰れなければ意味がない。
(それは違うと思う)
心の中で思っただけど。
コジマさんは戦っていない。ただ運んでいただけ。
でも、助けてはくれた。
「コジマさん!」
受付を離れた彼を見つけた。
倉庫の依頼を受けていたみたい。
私は少し大きめの声で呼びかけた。
「昨日は助かりました」
お礼を伝える。
「いやいや、全然そんな事はないって」
平然としながら、答えている。
まるで当然のように。
会話はそれだけだったけれど。
「あ、本当に活躍したんだ」
「……あの娘って、ダンジョンの調査に行っているだろ」
そんな噂話が聞こえてきた。
私の事も絡めて。
「さて、行くか」
やがて彼はギルドを出ていく。
「頑張ってください」
私は小さめの声だったから、彼には聞こえなかったと思う。
呼び止めようか、一瞬だけ迷ったけれど。
でもそれでいいかな。
またダンジョンの依頼を見てみた。
補給依頼がはっきりとある。コジマさん向きの。
次も、きっと一緒になる。
そんな気がした。




