2、「夜」が始まる
でっかい家、優しい両親。やはり私なんかと違って恵まれているのに、家に入ってからなんだかユキの様子がおかしい。挨拶する親に見向きもせず私の手を引っ張ってそそくさと部屋に来てしまった。
初めて来た友達の部屋にしては…何も無い。本当に人がここで生活しているのかってくらい何も無い。ベッドと机以外に何も置かれていないなんて。
「えと…本当にここユキの部屋?」
「そうだよぉ 何も無くてごめんね」
ユキは机の引き出しから何かを取り出し、私の肩を抱く。
「これからシエラちゃんでいっぱいにするからね!」
インスタントカメラで動揺している私を撮る。出てきた写真は間抜けの阿保顔だったがユキは嬉しそうに机に貼り付けた。
「ユキって好きな人の写真で部屋埋め尽くしたい感じ?」
まるでストーカーの部屋みたいのを目指しているのかもしれない。その対象が私なんてのもおかしいし、ユキの感情が全く読めない。もしかしてここに来たの失敗だった?
「それも良いけど…シエラちゃんには幸せでいて欲しいから程々にするよぉ」
良かった、そこまで重い感情は無いみたい。
「でもシエラちゃんが好きなのは変わらないよ」
急に真剣な眼差しで見てくる。じわじわと近づいてくるユキに恐怖して後ろに下がる。壁に追い込まれ、どんどん顔を近づけてくる。
「やっぱり可愛い」
もうダメだと目を瞑る。そうするとタイミングが良いのか悪いのか、ノックの音が響いた。
「ユキちゃんお友達にお菓子とジュースを持ってきたのだけど…」
ユキの母親の声だ。溜め息をついたユキは怒ったようにそちらを振り向く。
「気遣いありがとうそこに置いといて あともう来ないでね!!」
怒鳴るユキ。本当に、学校で人気者のユキ本人なのだろうか。私の知らない一面を、ユキの「闇」を覗いてしまっている気がする。
「イイとこだったのに…」
雰囲気が壊され安心する。心の中でユキの母親にグッジョブを送った。
「ユキ…迷惑なら私帰るよ?」
「何言ってるの!家の前で泣いてたのに!」
「それはそうなんだけど…」
ユキには感謝してる。決して親が悪いわけでは無いのだけれど、私は思った以上に追い詰められていたみたい。ユキが居なければ、あの雨はやまなかったんだ。
「辛い事があったら相談する それが友達でしょ」
「友達…」
「シエラちゃんが認めなくてもユキからしたら友達なんだから!」
そんな言葉に、私は感動してしまってまた泣きそうになる。
「でもシエラちゃんが良ければ…それより『上』になっても…」
涙が引っ込んだ。やっぱりこの子狂ってるかも。
雑談やゲーム、同じ部屋で眠る。今まで想像でしか見たこと無い景色に私は、夢なのかと頬をつねった。痛いしユキはよく寝ている。流石に同じ布団に入るのは否定したがこうして見るとユキもただの女の子なんだよね。今日のことは本当に感謝している。でも私だってユキに迷惑かけたくない。寝ているユキを起こさないようにひっそりと部屋を出ようとした。
「シエラちゃん…」
まずい起きたか、確認すると寝言の様だった。夢でも私が出てるのか…私に対してやっぱり重い感情抱いてそう。
「シエラちゃんは…ユキが守るから…」
夢の中でも助けようとしてる。「助けて欲しい」なんて言っていないのに、どうしてユキは私に拘るんだろう。部屋を出る事を諦めて、私も気が狂ったのかユキの布団に入る。
「助けなくていいよ…そばに居てくれるだけでいいから…」
ユキを抱きしめてそのまま眠る。私ももう、ユキを「友達」としてみないと。
(ここは…どこ?)
ユキの部屋に居たはずなのに知らない山の中に居た。夢の中にしては意識がかなりはっきりしている。
「ユキ?」
何やら激しい音がする。まるで剣と剣がぶつかり合うような…戦っている様な。興味がそそられ私は音のなる方へ足を運ばせた。
辿り着いた先に、ユキが居た。誰かと戦っている?
「ユキ!何と戦ってるの!?」
「シエラちゃん!?逃げたハズじゃ!?」
焦るユキに私も焦る。私も今来たばかりで何も状況が飲み込めていない。対してユキは顔の見えない誰かと戦っている。
「シエラちゃん逃げて!」
その敵は、私に気づくとこちらに走り出した。何も分からないまま、全力で逃げた。しかし敵にすぐ追い付かれしまい…
「シエラちゃん!!」
斬られた。私は夢の中なのに、本当に死んでしまうような感触を味わった。
瞬間、目が覚める。夢だった…良かった…。
「ユキはまだ寝て…」
寝てはいた。だけど格好が変わっていた。夢の中に居たユキと同じ、まるで…
「『白雪姫』…?」
童話の名前を口に出す。その姿は魔女に毒を盛られて目覚めない「白雪姫」の様で…
「ユキ!起きて!」
無理矢理起こそうとするが目覚める気配は無い。体を揺すろうと手を伸ばすが見えない結界の様なものに弾かれる。
「なにこれ…」
明らかに異常だ。私を助けてくれたユキに何が起こってるのか。
「お困りのようケロね」
突然の台詞に咄嗟に振り向く。そこには、「仮面」の上に佇むカエルが居た。
「おお可哀想な白雪姫!魔女に毒リンゴを食べさせられ永遠の眠りについてしまうとはケロ!」
カエルが楽しそうに叫ぶのを私は呆然と眺める事しか出来なかった。
「勿論救いたいケロよね?」
「救えるの!?」
「それはキミ次第ケロ」
そう言って窓から飛び降りるカエル。残された仮面を拾ってみる。カエルの粘液でベトベトになっていて、すぐに手を離した。
「それを顔に付けるケロ!ベトベトなのはごめんケロ」
頭に響くカエルの声。躊躇しながらも、ベトベトの仮面を顔に装着してみた。すると体が青く光り、私は何故か青いドレスを身に纏っていた。
「なにこれ…似合わない…」
「そんな事ないケロ!白雪姫に劣らず綺麗ケロ!」
ユキの方に向かう。この姿なら干渉出来るのかもしれないと思い手を伸ばしたが、やはり弾かれてしまう。
「何で…どうすればいいのよ!!」
やりきれない怒りに大きな声を出す。
「キミは今『仮面ワンダー』になった!ユキちゃんは同じ仮面ワンダーの攻撃を受けているケロ!」
「仮面ワンダー…?」
「そうケロ!仮面ワンダーを全員倒せばユキも帰ってくるケロ!」
「そう…」
ユキの顔を見て考える。昨日まで目の敵にしていた筈なのに、今は美しく愛らしく見えてしまう。どうしてこんな事になってしまったのか、ユキともう一度話すにはカエルの言う通りにするしかないのか。謎が拭えないけど、今の私が出来ることは。
「仮面ワンダーは…私が倒す!」
覚悟を決めると、真っ青なドレスは黒く美しく変色した。
「これからキミは『終夜シンデレラ』だケロ!」
カエルから命名された事よりも早くユキを助けなければいけない気持ちで、私も窓から飛び出した。




