1、「ユキ」が晴れる。
私の親は、きっと「毒親」だ。
私には「正しい」人生を送ってもらいたい。そう判断するのは悪い事じゃないけど、私の「夢」を奪って貰いたくなかった。あらゆる娯楽を必要ないものとされて、親としか連絡出来ない携帯と教科書しか与えられていない。会話はどこまで勉強出来たのか、なぜ勉強をしなければならないのかの説教しかしてこない。そんな親に愛情なんて全く感じられなかった。
14の時、友達を作ることも禁じられていた私は周りから浮いていた。頭が良くて誰とも群れない、「実力の『シエラ』」なんて呼ばれてたっけ。そんな私に相対する存在も居た。
「シエラちゃん今日も勉強してて偉いねぇ」
私と違って家庭に恵まれている、「運だけの『ユキ』」に頭を撫でられる。私から話しかける事はないのだが、彼女だけは何故か私にピッタリ付いて来ていて、まるで「姉」のような存在になっていた。
白い髪、豊満な胸、どこか抜けているけどお世話好きな優しい娘。この学校でファンクラブが設立されるほどの人気がある彼女が何故、その「逆」のような風貌の私に構ってくるのか分からなかった。
「今日も午前中だけで三人から告白されたんだよ ユキはシエラちゃんに夢中なのにオッケー出すわけないよぉ」
惚気か貴様。一瞬だけ睨みつけるがユキはニヤニヤと笑っている。
「嫉妬かな そんなシエラちゃんも可愛い」
溜め息をつく。何を言っても、ユキには敵わないだろう。実際私もこんな家庭環境じゃなかったら、ユキみたいに恋愛したりして、いつかはお母さんのようになるのかな。そんな妄想してたらまた怒られてしまう。肩を抱くユキを横目に、私は教科書の世界に戻ろうとした。
「シエラちゃん行かないでぇ ユキと遊んでよぉ」
知らない、馬鹿が感染る。口では言わないが私の評価は散々だ。でも唯一の友人として、この空間に居るのがちょっぴり楽しいと思っていた。
門限を守らなければ怒られる。言い訳すればさらに怒る。帰りたくない足を必死に動かしてなんとか家に帰っていた。
今日は金曜日、学校が無ければ家で家事の勉強と称する親のお世話が待っている。皆みたいにお出かけして遊ぶなんてこの家では許されないのだ。
疲れたのか、家に入りたくないのか家の敷地に入らず玄関を目の前に立ち尽くす。私はいつになったら解放されるのだろうか。このままいけば本当に私は「幸せ」になれるのだろうか。誰も答えてくれない問いに悩んでいると、雨が一粒降ってきた。
「会いたいよ…ユキ…」
自分の台詞が信じられなかった。あんな正反対で迷惑な奴の名前を呟いたんだ。雨が強くなりしゃがみ込んでしまう。そんな私を後ろから優しく抱いてくる人が居た。
「シエラちゃん 話聞くよぉ」
求めていた存在。名前こそ「ユキ」の癖に今、この瞬間だけ太陽の様に見えた。ユキの手を握り、重かった足をなんとか伸ばして。本来帰らなければ行けない場所から逃げるようにユキに付いて行った。
雨なんて降っていない。私は、泣いていたんだ。




