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「話しをする犬」  作者: クリステル


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3/3

話しをする犬

評価は皆様に丸投げです。

どうか最後まで読んで下さい。

バスはどんどん郊外へ向かって走り、冷たい視線の乗客達が一人降り、二人降りしていき、険悪な雰囲気が大分和らいできた頃、私達は、お目当ての犬がいるという家の近くの停留所に降り立った。


「ええと、あっ、ここだ。」

 書いてもらった地図を見ながらしばらく歩いたあとで、目的のミス・キンバリーの家の前に立つと、さっきまで並んで歩いていたはずのドリーが、引き綱いっぱいまで後ろに下がって、もじもじしながら立っていた。

「どうしたんだ、ドリー? そんなところにつっ立って、おかしな奴だな。」

「いや・・・、その・・・、ちょっと・・・。」

 ドリーのなにやら煮え切らない態度に私はピンときたのだ。

「ははーん、解ったぞ。さては、ここの家の甘美な秘密も握っていて、又候鰾膠もなくあしらわれるって言うんじゃないだろうな?」私が、ドリーの性分を苦々しく思いながらそう言うとドリーは、

「いやいや、そんなんじゃないよ、先生。ここの家は甘い匂いなんかしないよ。さっ、さっさとご用をすましちゃおうよ。」と今度は自分から進んでドアチャイムを鳴らそうとするのだった。

「変だな・・・、私の考え過ぎか・・・。」

 私が釈然としない気分でつっ立っていると、ミス・キンバリーがドアを開けて、私達一人と一匹を見ると、ドリーに向かって、

「あら、ドリーちゃん、いらっしゃい。また、パインちゃんのお散歩に来てくれたの?」と言うので、再び私は、最前の疑念を思い返したのだったが、案の外にも、ミス・キンバリーの笑顔が引きつる事も、一変する事もなかったのである。

「そうじゃないんです、ミス・キンバリー。この先生は、話しをする犬に会いにいらっしゃったんです。」

「あらまあ、それはそれは、よくいらっしゃって下さったわ。ちょっとお待ちになって、今パインちゃんを連れて来ますから。」

「突然おじゃまして申し訳ありません。」上機嫌で奥へ駆けこんで行くミス・キンバリーの背中に向かって、私はそういうのがやっとだった。

 私が、意外な展開に戸惑いながらドリーをまじまじと見つめると、ドリーは只、なで肩の肩をすくめて見せるだけだった。

 程なくしてミス・キンバリーは白い小型犬を抱きかかえて戻ってきたが、上機嫌のミス・キンバリーとは対照的に、パインちゃんはどうやらご機嫌斜めらしく、始終、ウーウー唸ってばかりだった。

「奥さん、出来ればビデオに撮らせていただきたいのですが、構わんでしょうかね?」私が、持ってきたハンディサイズのビデオカメラを取り出しながら尋ねると、ミス・キンバリーはパインちゃんのご機嫌には一向に構わず、

「あらあら、よかったでちゅねー、パインちゃん。カメラで撮ってくれるんでちゅって。じゃー、きれいきれいちまちょーねー。」とパインちゃんに話しかけながら、嫌がるパインちゃんに、ガリガリと無理やりにブラシをかけるのだった。

「それじゃ、奥さん。私の方は準備オーケーですから、良かったら、いつでも始めて下さい。」

 私がそう言うとミス・キンバリーはパインちゃんに向かって必死に説得しだした。

「いいでちゅかー。ママとお話ちちまちょーねー。こんにちわって言うのよー。こんにちわ。」

 私は息を飲んでビデオカメラを回した。


「クワオン・クワキュ・ワン!」

「あら、良い子ねー、良く言えまちたねー。よちよち。」


 私はもんどりうってこけていた。

「あら、どうなさったの? 」

「いえ、何でもありません。あんまり驚いたものですから  。」私はやっとの事でミス・キンバリーにそう言った。

「そうでしょー、私も最初はびっくりしたわよ。お散歩のアルバイトをしてくれたドリーちゃんが、パインちゃんに言葉を教えてくれたのよ。」

「へー、ドリーが  。」私がそう言ってドリーを睨み着けると、ドリーは外方を向いて口笛でも吹いているような顔をしていた。

「でも、私が教えた言葉もあるのよ。いいでちゅかー、パインちゃん。こんばんわって言うのよー。こんばんわ。」


「クワオン・クワン・ワン!」

「あら、良く言えまちたねー。よちよち。良い子良い子ねー。」


「奥さん、今日は大変貴重なものを拝見いたしました。では、私はこれで失礼します。」

「あら、もうお帰りですの? あがってお茶でも召し上がってってくださいな。美味しいクッキーもありますのよ。」

「いえいえ、奥さん。他に用事もありますれば、これで・・・、」


 私は逃げるようにキンバリー家を後にして、門が見えなくなる所まで来るとドリーを睨み着けて言った。

「おまえが、パインちゃんに言葉を教えたんだってな、ドリー。」

「そうなんだよ、先生。あの馬鹿犬、憶えが悪くてってさー、まいっちゃったよ。はははは・・・。先生、もしかして怒ってんの?」

「当り前だ! 何故、そうならそうと最初に言わないんだ? 私はわざわざあんな、視聴者投稿ビデオのバラエティー番組に出てくる馬鹿犬と飼い主を見に来たんじゃない。」

「だっ、だって、先生のお目当てがあの馬鹿犬だなんて思いもしなかったからさー。それに、おいらだって、あの馬鹿犬よりも利口で話しをする犬がいたら会って見たかったんだよー。」ドリーの言うことは尤もだ。これは八つ当たりというやつだった。

「じゃあ、何でおまえは、そう流暢に話しが出来るんだ?」私は、しばらく歩いて頭を冷やしてからドリーに尋ねた。

「おいらの場合は、ウィルムット先生が乳線細胞からクローンを作る実験をしていた時に、

先生がくしゃみをして、飛んだ唾液の中の先生のD・N・Aがまじっちゃったらしいんだよ。」

「じゃあ、何でウィルムット先生はその事を発表しなかったんだ? その、つまり、おまえが喋れる事をだ。」

「つまり、先生にも公表されたくない秘密がごまんとあったって事だね。それに、おいらが話せるって事は、この街の中だけの秘密で、決して街の外に漏れる事はないだろうね。時として共同体の結束というものは岩よりも固くなり得るって事だよ、先生。」

「まったく  、今日はなんて日なんだ。」

「ま、そう嘆きなさんなって。人の話しなんて、得てしてこんなもんだよ、先生。それに、

話しをする犬は出来損ないだったけど、話しをする羊には会えたじゃないか。」

「私は話しをする犬に会いにきたんだ。」

「まあまあ、そう駄々こねないで。さぁ、もう、帰ろうよ。」

「帰ろうって、おまえ、まさか、私の家に来るつもりじゃないだろうな?」

「いいじゃんか、羊の一匹や二匹。こうして出会ったのも何かの縁だし、それに今の季節

はおいらといると暖っかいよー。」


 こうして、私の街に、いや、家に、話しをする羊がやって来たのである。

 みなさんなら、どう思われるだろうか? こんな羊があなたの住んでいる街に、いや、家にいるとしたら・・・。そして、その羊は、札着きのおしゃべり羊なのだ。


最後まで読んで頂いた貴方は作者にとって特別な人です。他の作品もよろしくお願いします。

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