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第6話 敵の中に隠れる

源平合戦、壇ノ浦の戦いで祖母二位の尼に抱かれて関門海峡に沈んだと思われていた安徳天皇が、じつは生きていた!源氏の落人狩りは凄まじく平家の生き残りを探索していく。そんな中で出会った漁師の少年ハヤテとともに自分の生き方を探る安徳天皇こと一之介。平家再興を願う人や名を捨てて潜んで生きよという人など、いろいろな人と出会う。時には引きこもり、時には勇気を出し、青景の地で生きていく話。でも、育ててくれた祖母や侍女伊勢の言葉に縛られてしまうのが悩み。

源平合戦で死んだと思われている安徳天皇、実は生き残って隠れています!平家再興?紛れて生きる?さあ、どっちだ?


大きな船が帆を風にいっぱいにはらませている。

白い旗に描かれていたのは、笹とリンドウの紋。

堂々とした船の姿は恐ろしいほど美しい。

次々と通り過ぎていく。


「あの船たちは皆、九州へ渡るんだな。平家の者を追うんだろう」


ハヤテがぽつりと言ったとき、胸の奥がきゅうと締めつけられた。

わたくしたちの逃げ場が、またひとつ、減ったように思えたからだ。


後ろを見ると、追手の小舟が迫ってきた。

「ハヤテ、後ろ見て!」

ハヤテは、何も言わずに舟を急に岸へ向けた。

舟は岩をよけて、浜に乗り上げた。

ハヤテが小舟から跳び降りたので、わたくしも畳んだ紅い衣を抱いて続いた。

「走れ!」

ハヤテはわたくしの手を引いた。

わたくしは引っ張られて転びそうになりながら、がんばって走った。


林の中の細い道を駆けて、やっと人のいるところにたどりついた。

そこは港だった。

渡し船を待つ人たちや、荷運びの人たちがいた。

食べ物を売っている人もいた。


「おう、そこのちっこいの、元気あるか。荷運びやらんか」

低い声だった。


ハヤテは腕をぐるぐる回して言った。

「メシをくれるんなら……」

そこには日焼けした大男がいた。

わたくしの方も見てきた。


「そっちの子もついてくるんなら、まあ、一緒に働かせてやる。腹減ってんだろ。ほれ」


男が差し出したのは、握り飯だった。


ハヤテはすぐに手を伸ばした。

だけど、わたくしは、食べられない。


だって、毒見役がいないから。

侍女の伊勢はいつも言っていた。

「あなたさまの命を狙うものがどこにいるのかわかりません。まず、毒見役に食べさせるのですよ。その者が飲み込んだのを見て、苦しんだり吐き出したりしないかよく見るのです。大丈夫だなと思ったら、その毒見役が食べたものを食べるのです。新しい椀を差し出されても、そちらを召し上がってはなりませぬぞ」


目の前の握り飯が毒でないとは限らない──伊勢がいたなら、絶対に食べることを許されないだろう。


だが次の瞬間、ハヤテが半分にちぎった握り飯を差し出した。


「なにしてんだ。食わないと歩けねえぞ」

ハヤテはもぐもぐ食べている。飲み込んだ。苦しんだり吐き出したりしていない。

大丈夫だ!


わたくしは握り飯を受け取り、一口かじった。

塩の味。懐かしい米の味。うまい。

残りを急いで食べた。


そういえば、船の上でお干菓子を食べたのが最後だったな。

きれいな桃色だった。花の形をしていた。


ハヤテがヒョウタンを受け取り、飲んでいる。

そして、わたくしに押し付けた。


「中身はなあに?」

「水だよ。うめえぞ」


水……いつも沸かしたての白湯を瀬戸物の茶碗で飲んでいた。


ひょうたんから水が飲めるんだろうか。


……飲んでみた。水は思った通りひょうたんの匂いがした。


でも、うまかった。


大男はハヤテに名前や家の場所などを聞いている。

ハヤテは何も答えず首を振っている。


「……でも、荷運びはするよ、おじさん。ただ、飯を食わせてくれ。おいらとこいつとに……」


声をかけてくれたおじさんのお仲間は12人もいた。

肩には白い布の印がはっきりと見えた。

大男のことを皆は「親父さん」と呼んでいた。


もしや、この人たちは源氏の味方?

平家の者だとわかったら、殺される?

だけど、誰も自分が安徳天皇だとは知らない。


火の番をしながら、男たちは眠りに落ちていった。

男たちの後ろで、わたくしはハヤテと肩をくっつけて座った。


「おまえ……こわくねえのか」

 ハヤテが囁いた。


「こわいさ。でも……ハヤテがいるから、大丈夫だと思ってる」

わたくしはハヤテの耳元で囁いた。


嘘ではなかった。 ほんとうのことだった。


怖いけれど、火の側だし、男たちに紛れて眠れそうだ。



いかがでしたでしょうか。

まだまだ修行中の作者です。

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