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5話 ハヤテの家は焼けた。父母は死んだ

源平合戦、壇ノ浦の戦いで祖母二位の尼に抱かれて関門海峡に沈んだと思われていた安徳天皇が、じつは生きていた!源氏の落人狩りは凄まじく平家の生き残りを探索していく。そんな中で出会った漁師の少年ハヤテとともに自分の生き方を探る安徳天皇ことイチノスケ。平家再興を願う人や名を捨てて潜んで生きよという人など、いろいろな人と出会う。時には引きこもり、時には勇気を出し、青景の地で生きていく話。でも、育ててくれた祖母や侍女伊勢の言葉に縛られてしまうのが悩み。

源平合戦で死んだと思われている安徳天皇、実は生き残って隠れています!平家再興?紛れて生きる?さあ、どっちだ?


潮の香りが強くなった。


ハヤテは小舟の櫂を力いっぱいこいでいる。

懐かしい彦島が見える。

わたくしが昨日まで暮らした仮の御所があったところ。


「もうすぐ、うちが見える」

 ハヤテの声は明るい。

 小舟は波を越えて浜に向かっている


 ……ん? この匂いは

風に乗って漂ってくるのは、焦げた木の匂い。

浜辺から見えるはずの家並みは、黒い柱ばかり。

近づくと、崩れ落ちた屋根が露わになっていった。


「……なんで、こんな」


小舟を浜に乗り上げ、もやいを結ぶと、ハヤテが駆け出した。


焼け跡にハヤテは立ちすくんだ。

家の骨組みが、まるでがいこつのように横たわっていた。

そして、黒焦げになった人のようなものが折り重なっていた。


人が焼ける匂い……

わたくしは、吐きそうになった。


崩れた戸口の前、炭になった壁板に、何か文字が彫りつけられている。


「なに……これ……」

ハヤテはそれを見て立ち尽くす。

文字が読めないんだ。


わたくしは、ハヤテにたずねた。


「この字、読もうか?」

「……いや、いい」

「うん」


「……やっぱり、読んでくれ!イチノスケは字が読めるの?」

「うん。でも、いいことじゃないけど、それでもいい?」

「いいから! 早く読んで!」


「平家一門、成敗せいばいする……と、書いてある」


「……え?! くそぅ……たぶん、父ちゃんと母ちゃんは……平家の側と見なされて、やられたんだ」

わたくしは、何も言えなかった。


「魚を売っただけだ……米を届けただけだぁ!」

 ハヤテの肩が震えた。

「母ちゃああああん!!」


その叫びが終わるよりも早く、草むらがガサリと揺れた。

振り返ると、ドサドサという足音が、焼け跡に踏み込んできた。


恐ろしい目をしたお侍が、刀を抜きながら近づいてくる。

「そこにいるのは誰だ! おまえら、ここにいた者の仲間か? 平家の味方か!?」

ハヤテはわたくしの手を掴んだ。


「逃げるぞ!!」


戸板を飛び越え、小舟のほうへと駆けた。

背中でお侍が叫ぶ。

「待て!! 逃がすな!」


わたくしは急いで舟に乗った。

矢がコンッと音を立てて小舟の縁に突き立った──。

ハヤテがもやいを外し、小舟を押す。

そして、軽やかに飛び乗った。


わたくしは、矢を抜いた。


「……やっぱり、源氏の矢だ」


――わたくしたち平家のためにハヤテの家が焼かれるなんて

――わたくしたち平家に米や魚を売ってくれた者たちが、平家一門と言われて殺されるなんて


(ひどい。ひどすぎる)


「……父ちゃんも母ちゃんは、平家一門じゃない。くそぅ」

ハヤテはこぶしで涙をぬぐった。


「……ハヤテ、ごめんね」

ハヤテはわたくしをちらっと見て、泣きそうな顔で言った。

「体を低くしろ、的にされるぞ」


ハヤテに嫌われた。


――悲しい。

――ああ、嫌だそんなの。

――だめだ、もう。

わたくしは、上を見た。

涙はこぼさない。


泣くもんか



いかがでしたでしょうか。

まだまだ修行中の作者です。

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