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16話 米が食べたいだけなんだ

源平合戦、壇ノ浦の戦いで祖母二位の尼に抱かれて関門海峡に沈んだと言われていた安徳天皇が、じつは生きていた!源氏の落人狩りは凄まじく平家の生き残りを探索していく。命を助けてくれた漁師の少年ハヤテとともに生きていく。平家再興を願う人や「を捨てて潜んで生きよ」という人など、いろいろな人と出会う。でも、育ててくれた侍女伊勢の言葉に縛られてしまうのが悩み。源平合戦で死んだと思われている安徳天皇、実は生き残って隠れています!「逃げ上手の若君」目指しています。


と見ていた。「また、残しとるのか?」

「早う食えよ」

わたくしはあわの飯が苦手だ。

匂いも色も好きではない。

茶碗を見つめて、口をきつく結ぶ。


みんなはモリモリ食べて、外に出て行く。

朝飯前にひと仕事して、

朝飯後に大仕事する。

それが青景での皆の日々だ。


お侍さんはもういない。

みんなここでは、働き者だ。


わたくしが、あわのご飯を食べないので皆が声をかけてくれる。

だけど、こればっかしはありがためいわくなんだ。

「なんで食わないんだ?」

ハヤテが聞く。

「なんでって……毎日毎日、あわと大根だよ。

匂いがダメなんだ。そして、色も……」

「イチ、食べないから、動けないんだよ」

「ハヤテ、ごめん。わたくしがやらないから、ハヤテばかりに……」

「うーん、まあ、イチの本当を知っているから……」


朝ごはんは、結局食べられなかった。

食べようと口に入れると

吐きそうになるんだ。

 

今日もまた、わたくしは地頭屋敷の奥の間にひとり横たわっていた。

板の間には、あわの飯が冷えて残してある。


「白米の粥と塩と、沸かしたての白湯があればいい……それだったら、食べられるのに」


向こうから、川の水を汲んで運ぶハヤテの足音が聞こえる。

わたくしは、泣きそうになる。

わたくしは、お役にたてない。


カメにいっぱい水を汲んでハヤテが戻ってきた。

「イチ。でもなぁ、米は貴重品だぞ」

ハヤテが乱暴に言った。

あわで十分じゃねえか。そばがゆだってうまい」


「いやだ。米がいい」


ワガママだ、と自分でも思う。

だが、譲れなかった。

「このままじゃ、イチが飢えてしまう」

ハヤテと一緒に親父さんに相談した。

返ってきたのは一言――


「……わがままなやつめ!」


お庭にじいさまがいた。

じいさまは、鎌を研いでいた。

器に水を入れ

砥石といしに鎌をこすりつけている。

「これで、草がよう刈れるようになるんじゃ」

面白そうだった。

これだったら、わたくしにもできそうだ。


「じいさま、イチが米を食いたいらしい」

「ああ、ああ、そうかい……米はどこにあるんじゃろう?

サワさん、どうすれば米が手に入るかのう」

「さあ、米などずっと見たことがありません」

ゆったりなサワがびしっと言った。


じいさまは、考えていた。

そして、肩を叩いて言った。

「だったら、稲を育てろ。自分で米を作れば、食ってもよかろう」


その一言に、わたくしは雷に打たれたように思った。

……わたくしが米を作る?

「戦のせいで田も畑も荒れ放題じゃ。田起こし、苗づくり、水の管理――イチノスケが全部覚えろ。そして、やれ。秋になれば米が食えるぞ。たくさん作れば、毎日、白米を山盛りじゃ!」


……嬉しい! 米が食べられるんだ!


それからというもの、わたくしは鼻をつまんで粟の飯を飲み込んだ。

すると、動けるようになった。

《《わたくしの田んぼ》》をじいさまと探した。

じいさまは、どの田を誰がつくるのかを調べて紙に記した。

「……小さい字は見えん。書けん」

墨をすって書き記す手伝いもした。

話を聞いて覚えてきたことを大事な紙に小さく丁寧に書く。

難しい漢字はじいさまに聞きながら書いた。

おじさんたちは、「おう、字が書けるのか」とのぞき込んだ。

じいさまは、「手筋が良い」と褒めてくれた。


川の近くの田んぼは、大きな家のものだった。

地頭屋敷の近くの荒れた田は、帰ってこない侍のものだった。

今年も誰も作る予定はないらしい。


「イチノスケ、ここじゃ!」

わたくしの田が決まった。

水路を掘って川から田に水が流れ入るようにしなくちゃいけない。

じいさまの教えだ。

初めてくわを握った。


ハヤテも手伝ってくれた。

じいさまは、寒いと体が痛むらしく、早々に屋敷に戻ってしまう。

……もっと教えて欲しいのに。


ハヤテが空を見上げて、何か考えている。

「なあ、イチ。……牛を飼おう。

牛がいたなら、田の仕事が楽になると思う。

彦島の田んぼでは、牛が農具を引いていた」

「そうなの?」

「牛だったら、牛舎があったよな。

近衛家このえけに牛を貢いでいるって、あのおじさん言ってたよね。

広い牛の牧に、たくさん牛がいたはず」


じいさまと親父さんに話すと、深くうなずいて笑った。

「イチノスケが粟の飯を食うようになったのは、そういうことか」

親父さんはわたくしの額を指ではじいた。

「わかった。牛にはみんなの田んぼも耕してもらおう。

いいな、ハヤテ、イチノスケ。みんなの田も起こすのだぞ」

ハヤテは肩をすくめた。

「牛のせいで、仕事が増えたよ」

わたくしたちは、笑った。


親父さんが、頼朝様からいただいたというご褒美を使って、2頭の牛を買ってくれた。

牛の世話は、もちろんわたくしとハヤテの仕事になった。

黒くて大きいオスはゴンべ

赤毛のメスはアカネだ。


稲わらなどのエサを食べさせ、水を飲ませ、ふんを片付ける。

ノリが遊びに来た。

この頃は、行ったり来たりして遊ぶことがある。

女童と思っていたが、だんだんお姉さんらしくなってきた。

「ねえ、牛って、……大きいねえ……」


牛の鼻先がぶおんと鳴るたびに、ノリは腰を引いた。

「おとなしいよ。撫でてごらんよ」

牛を撫でるのはわたくしが一番上手だ。

京の牛舎で撫でさせてもらっていたもの。


春になった。


牛たちは、よく働いた。

田起こしは、やはり子どものわたくしたちより

お侍たちが上手だった。

牛を上手に歩かせて、田んぼの土をひっくり返していった。

そして、苗床に米を撒き、早苗を育てた。

水をやり、大事に育てた苗を植える日が来た。


泥に足を取られながら、田植えをした。

転んで泥だらけになり、顔まで汚れた。

わたくしの植えた列は曲がってしまって、美しくはない。

ハヤテはまっすぐに植えて行った。

――やっぱりハヤテはすごい!

朝から昼まで田植えをすると体が痛い。

「もう……無理だ……」


そして、泥の匂いが身体からとれない。

川で体を洗った。


……本もなければ、静かなお庭もない。

でも、ハヤテやノリは、そんな中で笑っている。


「なあ、イチ。そんな顔するなよ」

 ハヤテが、手ぬぐいを差し出してきた。

「オレだって、全部好きでやっているわけじゃないよ。

今でも海で魚を獲りたいなって思うさ。

でも今は……な、親もない子は働くしかないんだ」


そう言って、ハヤテはふっと笑った。

わたくしとノリとハヤテとで、

早苗を植えた田んぼをずっと見ていた。

みんな親がいない。

まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。「逃げ上手の若君」を本気で目指しています。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!

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