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13話 わたくしは心配です!

源平合戦、壇ノ浦の戦いで祖母二位の尼に抱かれて関門海峡に沈んだと言われていた安徳天皇が、じつは生きていた!源氏の落人狩りは凄まじく平家の生き残りを探索していく。命を助けてくれた漁師の少年ハヤテとともに生きていく。平家再興を願う人や「を捨てて潜んで生きよ」という人など、いろいろな人と出会う。でも、育ててくれた侍女伊勢の言葉に縛られてしまうのが悩み。源平合戦で死んだと思われている安徳天皇、実は生き残って隠れています!「逃げ上手の若君」目指しています。


毎日、歩いた。

朝起きて、歩く。

みんなが疲れたところで、雑炊を焚いて食べる。

食べ終わったらまた歩く。

日が暮れたら、雑炊を焚いて食べる。

わたくしたちの仲間は、全部で16人。

ハヤテは荷物運び。

わたくしは、じいさまのお世話をする。


「ねえ、いつまで歩くの?」

じいさまに何度も聞いた。

「うーん、わからん。でも、もうちょっとだろう」


じいさまとわたくしは、荷物も背負わず、歩いている。

それでも、怪我をしているじいさまは遅れがちになった。


「源氏に捕らわれてな、捕虜の囲いの中にいたんだ。

そこは無法地帯じゃった。

殴られたり蹴られたりした。

食べ物は地べたに投げられた。

一度は、肩から袈裟懸けさがけに斬られたんじゃ。これがその傷じゃ」

時々、肩を傷を押さえて歩く。


わたくしはじいさまに付き添って、休みながら歩いた。

でも、みんなの姿が見えなくなるんだ。

「待ってくださーーーーい! 置いて行かないでー!」


親父さんは、人を見かけると道を訊ねる。

だから、時には引き返すこともあった。


「おーい、じいさま! さっきの分かれ道まで戻ってくだされ。

あそこは左に行くべきじゃった。」


親父さんが手を振る。

わたくしは、少し耳の遠くなったじいさまに親父さんの言葉を伝えた。

じいさまは、向きを変えて一歩一歩、足を引きずった。


ハヤテは重い荷物を背負っている。

お侍さんたちとも親しくなっている。

そして、時々並んで歩き、聞いたことを教えてくれる。


「イチ、あのおじさんは弥六さん。顔に傷はね、船の上で平家の侍に斬られたんだって。危なかったよねえ。もう少しで目がつぶれるところだ」

「……弥六おじさんっていうんだね」

「あっちは、兵十さん。前にいた村にね、母ちゃんと父ちゃんと、おかみさんと子どもがいるんだって。子どもはイチノスケくらいの年の男の子なんだって」

「……兵十のおじさん」

「みんなお父ちゃんの帰りを待っているんだろうな」

「そうだよ。だから、死ぬわけにはいかない」


おじさんたちの話も聞き取れるようになった。

「うちの坊主は食いしん坊でな……あはは……食い意地が張っているんじゃ。

だから、山に行っては食えるものを探してくるのがうまくてな……」

子どものことを話すとき、おじさんはすごくうれしそう。


ハヤテは下を向いて黙った。

ハヤテは父と母を戦のあとで、源氏に殺されたのだもの。

親子の話は辛いだろう。

もしかしたら、源氏を恨んでいるかもしれない。

わたくしも、ちょっと……涙がでそうになった。


目を閉じるとお姿が見える。

お父さま!

お父さまは、京でご病気でお亡くなりになった。

おじいさまもお亡くなりになった。


でも、お母さまは、……生きていらっしゃる。

あのみもすそ川の小屋で、手足を結ばれていたのを見た。

美しい衣ではなかった。

麗しい髪ではなかった。

今までの暮らしとは大違い。

お母さまはどんなにお辛いことだろう。


いつも笑顔で、わたくしのことを考えてくださっていた。

伊勢や母の代わりの者をわたくしの側に置いてくださった。

わたくしの好きな菓子をいつも届けてくださった。

伊勢もいなくなった。

女官もいなくなった。


(……寂しい)

これからのことが心配!

どこに行くの?

そこでわたくしは何をすればいいの?

みんなの役にたてるの?

また、落人狩りがきて、今度こそ殺されるの?


また鼻の奥がつーんとしてきた。



源氏のお侍さんたちは歩きながら、村の話をしていた。

村娘の噂もしていた。

話についていけないや。


ハヤテは、ずっと黙って歩いている。

じいさまが立ち止まった。


「ちょっと息が苦しいので、一休みする」

「わたくしも休みます」

じいさまを石に腰かけさせた。

わたくしも地べたに座った。

珍しくハヤテも座った。


「……これからどうなるんだろうね」

わたくしはハヤテに声をかけた。

「青景っていう新しい村に行くんだっておじさんが言ってた。

落ち着いたら、前の村からおかみさんと子供を連れてくるんだって」

「そうなの?」

「前の村に帰りたいって言うおじさんもいた」

「そうなんだ」


……親父さんは源氏の味方。でも、平家の側に味方した父親である《《じいさま》》の命乞いをした。だから郡司をしていた前の村を没収された。だけど、新しい青景の地を与えられた。


「行ってみるまで、吉と出るかどうかわからんぞ」

じいさまが言う。

みんな青景の地が心配なんだ。

行ったこともない新しい土地。

豊かな土地か荒れた土地か、どんな人が住んでいるかもわからない。


じいさまは続けた。

「新しい地頭を喜んで迎えてくれるか、それとも、はねつけて戦をふっかけてくるか、行ってみないことにはわからん」


「弥六おじさんが言っていた。平家の味方をした村だったらしいよ。親父さんのことは、敵だもん嫌いだろうな。でも、じいさまが平家方だってこと言ったら噂になるよね。そうしたら、落人狩りに捕らわれてしまう」


いずれにしても、難しい。

テントウムシが肩にとまった。


親父さんたちが見えなくなる。

じいさまの手を引いて立たせた。

追いつかなきゃ。


……ハヤテの手を握った。

ハヤテもぎゅっと握り返してくれた。



まだまだ修行中のさとちゃんペッ!です。「逃げ上手の若君」を本気で目指しています。★やリアクション、コメントをいただけると、嬉しいです。感想もぜひ!よろしくよろしくお願いします!!

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