第3話 VSデミボア
あれからそれなりに時間が経ち俺はシャルティとデミボアを追い続けていた。
シャルティはどこまでデミボアを誘導するつもりなのだろうか、そろそろ俺の走り続けるという体力にも限界があるのだが。
そう思った矢先のことだ。シャルティはともかく急にデミボアが立ち止まった。余りの衝動に俺も立ち止まり様子を見ることにした。
シャルティはデミボアに気付いているのか分からないが見当たらなくなった。これでは誘導の失敗なのではと思ってしまう。
「く。どうすれば?」
思わず口にしてしまうほどに焦りを感じていた。そもそも拠点から遠ざけることに成功したというのに。
焦りを好機に変え俺は意を決しデミボアに戦いを挑むことにした。ここで死ぬなんてできない。俺には帰りたい場所があるんだ。絶対に。
それに俺にはシャルティがくれた魔法剣があるじゃないか。こんなところで負けやしない。
息をとめ声を殺すようにデミボアの背後に移動し始めた。シャルティがなんと言おうとここで仕留めないといけない。いや。倒して見せる。
近付けば近付くほどに異様な存在感を放っていた。何度も討伐したりしたことがあるが一人は今回が初めてかも知れない。普段は仲間と戦っていたから一人はどうも慣れないな。
幸いなことにデミボアは俺に気付いていなかった。もしかしてまだシャルティがデミボアの気を引き付けているのか? だとしたら好都合というものだ。
そうこう思っているうちに俺はデミボアの背後寸前まで辿り着いていた。後は茂みから飛び出して即尻に攻撃を仕掛けるだけだ。不意打ちだが手加減している方が可笑しい。
今だと思い茂みから飛び出しデミボアの尻を切り付けた。突然の切り付けにデミボアは驚いたのか森の先に行ってしまった。なんとも言い難い光景だ。
すぐさまに追いかけるべく俺はデミボアのいる先を見つめた。するとそこは広場となっており戦うには適していた。なるほど。シャルティはここを目指していた訳か。ここは潔く森から広場へ出よう。
「お? ようやく出よかってからに! 女性を待たすとは何事か!」
広場からシャルティの声がする。やはりシャルティはデミボアを広場まで誘導していたに違いない。それにしてもデミボアに女性が分かるのだろうか。
シャルティの声しか聞こえない。実際はデミボアの尻が邪魔で視認しにくい。もう少しシャルティが上にいてくれれば確認できたかも知れない。
「儂は強いぞ? それでも戦うというのかえ?」
シャルティは誰と会話しているんだ? デミボアと会話なんてできる訳もなくここは戦うが定石だろう。それに。
「血の匂いは厄介じゃからのう、近くに川もないうえ」
なるほど。確かに血の匂いを放置していれば他の魔獣が近寄ってくる。そうなれば血で血を争う事態になりかねない。シャルティはそこを加味していたという訳か。感心したぞ、シャルティ。
「しかし儂だけでは対処しきれんな。仕方あるまいな。ここは戦いに備えよ」
血を流させずに戦えということだな。ならば答えは一つだ。いかにデミボアを気絶させられるかだ。確かデミボアには牙が生えていた筈だ。そこを殴って振動させ脳を気絶させられればいけるかも知れない。
今は斬撃ではなく鉄の棒で殴るように打撃を与えなければいけない。雑な扱いになるが魔法剣で殴るしかない。絶対に切るは駄目だ。なんとも変則的な戦いになりそうだ。
デミボアは尻をこちらに向けている。まずはいかに頭をこちら側に向けさせるかだ。これは骨が折れる作業かも知れない。
「ゼルク! 今じゃ!」
突然の声掛けに動揺し気付いたときにはシャルティが目の前にいた。どうやらシャルティはこちら側に回り込んできたようだ。全ては俺のために。
「行け! お前さんならできる!」
シャルティはそう言い残すと高見の存在に変わりさらに上に移動した。それと同時にデミボアに隙を与えてはいけないと思い俺はすぐさまに走り出した。
これからは一対一に近いと思い魔法剣の柄を片手で持ち地を蹴り続けた。もちろん叩ける範囲にきたら柄を両手で持つつもりだ。あくまでも相手は魔獣なため不用意に身構える必要がなかっただけだ。
一気にデミボアの間合いに入り込むと俺は魔法剣の柄を両手で持ち勢いのままにその場で一回転した。やはりデミボアの視力は弱くここにきてようやく俺の存在に気付いたようだ。
「じゃがのう! 遅いぞ! 遅すぎるぞ! デミボアや!」
シャルティの言う通りだ。俺は一回転した勢いのままデミボアの牙目掛けて刃を立てることなく叩き付けた。渾身の一撃がデミボアの牙に当たり見事に脳が振動したのか痺れたように硬直したあとにその場に倒れこんだ。
「やったの! 儂らの勝ちじゃ!」
久しぶりの感覚だ。まさか追放された先でこんな戦いができるなんて思いもしなかった。とはいえ今はここから離れた方が良さそうだ。デミボアが目を覚まさない内に拠点に帰ろう。
「シャルティ! 今の内に帰ろう!」
なんとか勝てたが血が流せないのは不便だ。ここは拠点に帰って考え直さなければいけない。
「そうじゃのう! きっとモストンたちも帰っておる筈じゃ! 急ぐとするかの!」
モストンたちが気になるがここは潔く帰るとしよう。こうして俺とシャルティは初めての戦いを無事に終わらせ拠点に帰って行った。