第2話 謎の魔女っ子
まずはここを拠点にしたい、水の入った樽や携帯食料はすでに完備されていたから。
幸いなことに門の近くとあって屋根もついているし後は風さえ防げる環境下にあれば文句はない。
ここは未開拓な土地だと思うから別に小さな自足できる状態にしてもいいはずだ。
とはいえ軽く調べてみると焚き火の跡があった、もうすでに誰か別の追放者がいても不思議ではないが。
それに何よりも木の枝が一カ所に集められていた。これは俺以外に誰かがいるという証になるだろう。
それにしてもこの未開の地で良く生活ができるもんだな。なんとも心強い存在なんだ。なんとしてでも仲間にしたい限りだ。
「おお?! 元気か?」
謎の声に反応するように振り返り門を背にしたが目の前には誰もいなかった。確かに声はしたが。
「お? こっちじゃ! こっち!」
ふざけているのか? 今度は後ろから聞こえてきた。なんか悔しいから不意打ちを狙って振り返ってみせた。
「いや! こっちかも知れんのっ!」
なんだよと思いながら門に背を向けるとまたしても誰もいなかった。これは遊ばれているのだろうか。
苛立ちを覚えていると箒に乗った魔女が宙に浮いたまま俺の視界に入り込んできた。このときの俺は逆に不意打ちを喰らい心の底から幽霊が出たと思い込んだ。
「魔女の……幽霊?」
「違うわい! 儂の名は稀代の魔女っ子! シャルティだわい!」
現物の魔女だったのか。ということはシャルティも追放者なのか。ここは訊くが正しいはずだ。
「それにしても久しいのぉ。まさか新しい追放者がくるとはのう。お前さん。名はなんという?」
訊こうと思ったら先に訊かれた。人の名前を訊くときは箒から降りなさいとはいわれなかったのだろうか。それに先に名乗るのが筋ではないのか、ここは。あ。まさかあれが自己紹介だったのか。
「儂の名はシャルティじゃ! いずれは自由の身になる魔女っ子じゃ!」
改まって自己紹介された。ならここは言わないと騎士の恥だろうに。
「俺の名はゼルクだ。見たところシャルティも追放者のようだが」
愚直な質問だったか。とはいえここはなんとしてでも追放者を一人でも仲間にしておきたい。一人では無理があると思うのだがどうなんだろうか。
「おお?! 良くぞ見抜いた! 儂こそが稀代の魔女っ子! シャルティ様じゃ! 恐れ多いぞ!」
ハハ。追放者かどうか訊いたのになんだこの回答は。これじゃ本当に追放者がどうかが分からないじゃないか。
「とはいえ自由の身になるには程遠いのぉ」
「ん? どういうことだ?」
シャルティの表情が一気に曇っていく。なにやら嫌な予感がする。まさか。
「ここの地は確かに未開じゃ! しかしのう。なぜか結界が張られておって外には出られんのじゃ。まるであたかも先住民がいたかのような雰囲気じゃ!」
「先住民?」
嘘だろ? ということは帰れる方法はこの後ろにある門だけなのか。しかも先住民がいるのならどうしてここは未開の地なんだ? もう訳が分からない。
「ところでゼルク! ……ぬお?!」
な、なんだ? 森からなにかが近付いてきている?! しかも凄まじい勢いで! 雄叫びをあげながらどんどん近付いてくる?!
「今になっていうがちょいと魔獣を怒らしてしもうてな~。どうかここは退治してくれんかのう」
嘘だろ。今の俺は剣なしだ。魔獣なんて相手できる訳がない。ここは素直にいうしかない。
「今の俺は剣なしだ! 退治なんて無理だ! 戦うというのならシャルティ一人でお願いする!」
無情だが今の選択は間違っていない。この現場にはナイフがあるにはあるが騎士にナイフとは恥に思う。ここは助けることができなくてすまないと思う。
「そうか。ならこれでどうかのう?」
剣がないというのに俺にどうしろと。嘘といいたいがシャルティは魔法剣を作り出し始めていた。まさかこんな手があったなんて。
「どうじゃ? これなら戦えるじゃろう? ……これをお前さんに授けようぞ!」
シャルティは地に足を付けることなく俺に魔法剣を授けてくれた。シャルティの魔法剣を受け取った俺はこれなら戦えると思い魔獣が来る方向に急いだ。
シャルティは箒に乗ったまま俺の後を追ってきたように思えた。それよりもシャルティが怒らした魔獣の正体がなんなのかが気になると立ち止まり森に注視した。
森の茂みから飛び出してきたのはデミボアだった。四足脚で地を歩き怒らせると地を駆ける魔獣の一角。良く森にいる定番の魔獣だが少しばかり地の利が悪い。
なんせここは拠点の一つであり破壊される訳にはいかなかった。つまり遠ざける必要があった訳だが俺の今は地の利がない。く。どっちに逃げればいいんだ。
「ゼルク! 儂を追いかけい!」
シャルティはそういうとデミボアまで飛んでいき攪乱させたのち誘導させ始めた。どうやらデミボアは見事に策略に陥りシャルティを追いかけ始めた。
「これならいける?!」
視認した俺はそういい残し急いでシャルティとデミボアを追いかけ始めた。シャルティが目指す場所を信じ俺はひたすらに追いかけた。
俺よりも地の利があるであろうシャルティに今は任せいざ戦うときがきたら俺が戦う心構えをしなければいけない。
デミボアは良く父さんと狩っていた。そのあとの母さんの作る手料理が恋しい。とにかく今は一刻も早くこんなところから抜け出し幼馴染みのリリアと合流しなくてはいけない。
そのためにはここで息絶えている場合じゃない。行こう! シャルティの目指す場所へ。