表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/10

第8話: 「未来への方程式、二人で解く希望」

 夏の日差しが眩しい7月末、泉澄月と天羽柚香の高校生活にも変化の兆しが見え始めていた。進路を決める時期が近づき、クラスメイトたちの間では将来の話題で持ちきりだった。


 放課後の教室で、澄月は柚香の隣に座った。


「天羽さん、進路のこと、考えてる?」


 柚香は計算用紙から顔を上げ、少し考え込むような表情を見せた。


「もう決まってる……海外の大学で量子コンピューターの研究をするつもり……」


 その言葉に、澄月の胸に小さな痛みが走った。


「そっか……すごいね」


 澄月の声のトーンが少し下がったのを感じ、柚香は不思議そうに首を傾げた。


「泉くんは……」


 その質問に、澄月は少し戸惑いを見せた。


「僕は……まだはっきりとは決まってないんだ。でも、人の役に立つ仕事がしたいな」


 柚香はじっと澄月の顔を見つめた。


「人の役に立つ仕事……」


 その夜、二人はマンションのベランダで星を眺めていた。


「ねえ、泉くん……」


 柚香が静かな声で呼びかけた。


「なに?」


「私ね、昔は人間関係なんて無意味だと思ってた……でも、泉くんと過ごして、少し考えが変わった……気がする……」


 澄月は驚きの表情を隠せない。


「そうなの?」


「うん……泉くんの"人の役に立つ"という考え方、最初は理解できなかったけど……今は、その価値がわかる気が……する……」


 柚香は一瞬言葉を切り、深呼吸をした。

 そして何か躊躇する様子を見せていたが、やがて決意したように澄月に向き直る・


「私、"人の役に立つ"んじゃなくて、"泉くんの役に立ちたい"と思う……」


 澄月は驚きのあまり、言葉を失った。

 柚香は頬を赤らめながらも、真剣な眼差しで語り続けた。


「驚くには値しない……なぜならこれは、科学的に考察した結果……泉くんと一緒にいると、私の脳内でドーパミンとセロトニンの分泌が増加する……心拍数も平均して毎分10回ほど上昇する……」


 柚香は少し言葉に詰まりながらも、懸命に気持ちを伝えようとする。


「そして、泉くんの笑顔を見ると、私の体温が0.3度ほど上昇する……つまりこれは、典型的な……その、恋愛反応だと思う……」


 澄月は柚香の真剣な告白に、胸が高鳴るのを感じていた。


「天羽さん……」


「まだあるの……」


 柚香は遮るように続けた。


「私たちの相性は、遺伝子レベルでも93.7%の確率で適合しているはず……。それに、私たちが一緒に生活することで、お互いの長所を補完し合える可能性は私の計算では97.2%……」


 柚香は息を整えると、最後にこう付け加えた。


「つまり、科学的に見て、私たちは……お互いにとって最適な相手だと結論付けられる……」


 言い終えた柚香の顔は真っ赤だった。澄月は柔らかな笑みを浮かべ、柚香の手を優しく握った。


「天羽さん、ありがとう。僕も同じ気持ちだよ」


 柚香の目が輝いた。


「本当に? じゃあ、私の仮説は正しかった……?」


 澄月は柚香を優しく抱きしめた。


「うん、大正解だよ。これからもずっと一緒にいよう」


 柚香は澄月の胸に顔をうずめながら、小さくつぶやいた。


「わかった……澄月くんからは一生分のデータを取らせてもらう……」

「その言い方はなんだかちょっと怖いな」


 澄月は微苦笑する。


 星空の下、二人の新たな物語が始まろうとしていた。天才美少女と普通の男子高生。全く違う二人が出会い、互いの価値を見出し、そしてこれからも幸せな同居生活を続けていく。


 その後も、柚香の珍妙な発言や奇抜な行動、そして澄月のサポートは続いた。しかし、二人の間には確かな絆が芽生え、日々の生活はより一層温かみを増していった。


 朝日が差し込むリビングで、柚香が突然立ち上がり、澄月に向かって真剣な表情で言い放った。


「泉くん、私、朝食の最適化アルゴリズムを開発した……」


 澄月は慣れた様子で微笑みながら答える。


「へえ、どんなアルゴリズム?」


「まず、栄養バランスを考慮した食材の組み合わせを量子アニーリングで計算し、その後、調理時間と味の相関を機械学習で最適化する……」


 柚香は得意げに説明するが、澄月には半分も理解できない。

 それでも、彼は優しく頷きながら聞いている。


「すごいね。でも、天羽さん。お味噌汁の具は何がいい?」


 その質問に、柚香は少し考え込む。


「理論上は乾燥ワカメが最適だけど……私はお豆腐が好き……木綿の方……」


 澄月は柔らかく笑う。


「じゃあ、今日はお豆腐にしようか」


 その日の午後、澄月が勉強していると、突然柚香が部屋に飛び込んできた。彼女の髪は静電気で逆立っていて、白衣は焦げ臭い。


「大変、泉くん! 小型核融合炉の実験中に予想外の反応が……」


 澄月は慌てて立ち上がる。


「え? 核融合炉? そんな危ない実験もしてるの!?」


 しかし、柚香の目は興奮で輝いていた。「


でも、これで新しい理論の証明ができるかもしれない……!」


 澄月はため息をつきながらも、柚香の熱意に押され、一緒に実験室に向かう。結局、その日は消防車を呼ばずに済んだが、二人で協力して事態を収拾するのは大変だった。


 夜、星空の下でくつろぐ二人。柚香が静かに呟く。


「泉くん、ありがとう」


「何が?」


「いつも私の突飛な行動に付き合ってくれて……それに、私の言葉を真剣に聞いてくれて……」


 澄月は優しく微笑む。


「柚香さんと過ごす毎日は、本当に面白いよ。僕も感謝してるんだ」


 柚香は少し照れたように俯く。


「私ね……泉くんと過ごすようになって……人との関わりの大切さがわかってきた……みたい……」


「それは良かった」


 澄月が答える。


「僕も柚香さんから、好きなことに打ち込む情熱をいっぱい学んだよ」


 二人は静かに夜空を見上げる。柚香が突然、「あ!」と声を上げた。


「どうしたの?」


「今、流れ星を見た……。確率的には……」


 澄月は柚香の言葉を遮り、優しく手を握った。


「確率じゃなくて、願い事をしようよ」


 柚香は少し驚いたが、すぐに柔らかな表情になる。


「そうだね……」


 二人は目を閉じ、それぞれの願いを心に描いた。開いた目が合うと、二人は微笑み合う。


 言葉にはできないが、二人の間には確かな絆が育っていた。天才と凡人、正反対の二人が織りなす日常は、時に波乱万丈だが、かけがえのない温かさに満ちていた。


 その夜、柚香は自室で日記を書いていた。


「今日も澄月くんと素敵な時間を過ごした。彼との関係性を表す方程式はまだ完成していないが、それでも私の人生に不可欠な存在になっていることは間違いない。明日はどんな発見が待っているだろう? 澄月くんと一緒なら、きっと素晴らしい日になるはず……」


(了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ