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ep7:天網恢恢疎にして漏らさず

出発当日。


残りの物資を買い込むため、ティアと合流した。

合流したティアは聖騎士の鎧をまとっており、のどかな街では少し目立ち気味だった。


「お、オクタル!その子はなんだ!ま、まさかオクタルの娘か?!」


「いや、違うけど。一昨日酒場で知り合ったココノエ姉さんだ。」


「我、魔人を討ち滅ぼす者。そなたは魔人か。」


「どうどう、ほら、人間だった頃を思い出そうな。」


昨日は散々見下されたからな…。

若干修羅が抜けきれていないココノエ姉さんのほっぺを揉みしだくことで、落ち着かせていく。


「こう見えて俺等よりかなり年上だからな。くれぐれも失礼のないように。」


「オクタル、それはないだろう。嘘を付くにしてももう少しマシなものをだな。」


流石に一度では信じてもらえないらしい。

ココノエのこれまでや、実年齢を説明していく。

しかしなかなか信じてはもらえなかった。


「すまない、君が騙されていないという保証がまだない。君が信じているんだ、私が警戒するくらいでちょうどよいだろう。ココノエもすまない、納得してくれるだろうか?」


「ん、しかたない。信じてもらえないのは慣れてる。むしろ当然の反応。信じるほうが変態。」


おい、なんで俺に刃を向けるんだ。


後で聞けば、正しくは信じたふりをする変態だったそうだ。

198歳という年数は、信じるには突拍子もなさすぎる。

そういうサブカルチャーにある程度理解がある俺だから信じられたとも取れる。


体質を伝えてからすぐに本気で信じることはこれまでなかったらしく、俺のときは相当に驚いたらしい。


ココノエ姉さんも旅に同行する旨を伝え、とりあえず了承してくれたティア。

お互いに自己紹介をしながら買い物をしていくのであった。



旅の出発は恐ろしくスムーズに進んだ。

パン屋の店主やポーラおばさん、アックスロットに見送られながら街の門を出ることになった。


そのさいポーラおばさんはティアに何かを伝えていたが、少し離れていたので内容はわからなかった。

個人的なことだろうしあえて聞くことはしない。


「イヴェン、とりあえず隣国の帝国?というところに向かうってことでいいよな?」


いつの間にか合流していたイヴェンに旅路を確認する。


「ええ、ロシナンテ帝国は軍事国家ですから。なんと闘技場というものもあるそうです。魔法部門もあるのでまずはこちらでオクタルに自信をつけてもらおうと思っています。」


今やオクタルは人類上位の戦闘力を持つのですから。


そう言われるが実感はない。

実戦はあの日の魔物の討伐くらいだ。

イヴェンの言う通り、現在自分の強さがどのくらいか確かめるのはいいことだろう。

それに、他の魔術師の魔法の使い方をみて勉強もできそうだ。


「隣国とはいえ帝国は遠いですから、私の方で馬車を用意させていただきました。こちらにお乗りください。」


先程まで何もなかった場所に二頭の馬が繋がれた馬車が置かれていた。

馬は装飾の入った鎧をつけており、馬車自体も荷台のみのようなものではなく、ドア付きの立派なものだった。


「…目立ちすぎないか?野盗とかに狙われそうだ…。」


「まあそれも狙いですからね!気にせずいきましょう。」


言われるがままに乗り込む。

馬車の中も外見と同様豪華な作りになっていた。

柔らかい座席と外が見える窓も付いているので、移動は快適なものになりそうだ。


「魔術構築を夜遅くまでやってて眠い。オクタル、膝貸して。」


「子供が夜ふかしをするんじゃありません。」


原初魔術(オリジンマジック)の構築が思いの外楽しかった。おのれ魔人め。」


そう言いながら有無を言わさず頭を俺の膝に乗せて寝始めた。


「寝顔は本当に小さいこどものように見えるんだけどな。」


「君のことを信用してるのは、まあ外から見てわかるがな…。」


あくまで警戒は解かないティアだが、ココノエのあまりの無防備さに少し呆れたようだった。


「それじゃあ出発しますよ~。」


馬車の前方から魔人の声がする。

そのすぐ後、ガタンと車内が揺れた。

大きく揺れたのは最初だけだったようだ、静かな時間が車内を流れる。


「…こうして君と旅をすることになるとはな。」


窓から流れる景色を見ながらつぶやく彼女は絵になる。


「本当にな。俺としては一年スローライフを送るつもりだったんだけどさ。…その後は故郷に帰るつもりだったよ。」


異世界の住人だということは伝えていなかった。

一年でこの国を去ることは本当だったから、嘘はいっていない。

すると彼女は困ったような笑みを浮かべながらこっちを見た。


「知っているさ。君は、この世界の住人では無いのだろう?教会で君のことは上司より伝えられている。プライバシーとかを気にするなら聞かなかったことにするが。」


まあ、そうだよな。

勇者の護衛なのだ、教会側は俺のことを伝えないわけにはいかない。


「予定と違って一年以上掛かりそうだけどな…。ひょんなことから力を手に入れて、世界の平和のために動くことになるとは、俺なんかがねぇ…。」


「そう卑下するな。君は君が思っている以上に勇者の素質があると私は思うよ。私が危ないときに迷わず戻ってきてくれただろう?そして契約という重荷も背負ってしまった。さらにはココノエのことまで。」


そう考えるとここ最近色々なものを背負ってるな。

自分の選択故なので後悔はしないようにしているが。


「君の懐の深さや器の大きさ、生まれ持ったものだろう優しさもだ。そういった者に、私は勇者になってほしいよ。」


「そういうもんかねえ。」


「そういうものだ。勇者は自分でなるものじゃなくて、誰かが望むものなんだから。」


異世界の住人は当たり前にこういったセリフを言うが、それが様になるのは異世界故か、はたまたティアだからか。

おそらく後者だろう。

ティアだからこんなにも心に染みる。


「君の行く末をしっかりとこの目で見届けよう。君がこの世界にいる間だけでも側にいさせてくれ。」


願ってもない話だ。

独りで旅をするよりずっといい。

この世界で一番仲の良い友人がいてくれるのは心強い。


「この世界に来てからティアには頼りっぱなしだな。これからも頼らせてもらうよ。」


「ああ、任してくれ。」


そうして、久しぶりの落ち着いた時間をティアと過ごすのであった。



それから数日が過ぎ、いくつかの街を経由した。

特にトラブルもなくイヴェンに魔術を教えてもらいながら聖王国と帝国の国境付近まで来た。


首都から離れていくごとにだんだんと街の規模は小さくなっていたが、国境付近の街は首都ほどではないが栄えていた。


ちなみに首都から離れるごとに荒くれ者も増えているような気がする。


「さあオクタル、つきましたよ。一度こちらで休みましょう。」


聖王国で寄る最後の街になるであろう、国境付近の街に到着したことをイヴェンより告げられる。


街の規模に対し、あまり活気がみられないが今まで見た街のどこよりも大きい。


「辛気臭い街ですねえ。嫌な匂いもします。」


人気が無いが、匂いは対してしなかった。


「ともあれ今日泊まる宿を探すか。」


魔人の情報がないか聞き込みもしなければならない。

ちなみにこれまでの聞き込みは効果はなかった。

未だ成果は得られないが行動第一だ。


「あちらに雑貨屋があるようだ。生活用品の補充も兼ねて行かないか?」


確かに長旅により細かい物が不足し始めていた。

そこで買い物をしながらおすすめの宿でも聞くとしよう。


近くにあった雑貨屋にはいる。

こじんまりとしたお店だが、店員がいるカウンターの奥に様々なものがあるようだ。


「陳列棚にあるもので全部か?」


陳列棚は3つほどしかなく、数も少なかった。


「いや、奥にほとんどあるよ。そこに出てるのはディスプレイみたいなものさ。そこにあるもの以外もあるから聞いてくれれば大抵のものは出せるよ。」


妙にやつれた店員が奥を親指で示しながら説明してくれた。


「ありがとう。ではこれと同じものと、外での炊事に使えるものを一式、それから…。」


前もって把握していた物を伝える。

洗剤や手綱、ナイフや手袋等。


店員は奥に消え、しばらくして商品を抱えて戻ってきた。


「3,500貨ね。…はいちょうど。」


小銅貨一枚で1貨だ。小銀貨三枚と大銅貨五枚を渡し、会計を済ませる。


「あ、あとこの辺でおすすめの宿とかある?高すぎなければOK。遠くから来たもんで休んで行きたくてね。」


「そうだな…。獅子の眠り亭はご飯がおいしいし、宿自体も悪くないって評判だ。ここの道を真っすぐ行ったところを一つ曲がって突き当たりにあるぞ。」


街の地図を見せてくれ、道筋を教えてくれた。

その道を覚えていると


「オクタル。これほしい。」


ココノエが櫛をもってきて渡してきた。

どうやら出発のときに忘れてきてしまったらしい。

ちなみにお金はそんなに持っていなかったらしく、旅の準備で消えたという。


「うーん、必要なのか?そんなことしなくても綺麗じゃね?」


「オクタルにやってもらうので、買って。」


「よし買おう。」


甘すぎるって?臨機応変に返す手首は天を突くん(らせんりょくをえるん)だよ。

それに髪の毛は女の子の命だよ諸君。

困っているなら助ける、それが俺の選択なんだぁ…。


「わ、私も買ってくれ。同じ条件でどうだ…っ!」


急いで持ってきたのか、軽く息を切らしながらティアが同じものをねだってきた。


「お、おう、いいけどティアはお金持ってなかったっけ?」


「それは…、そう!どこかで落としてしまったのだ!」


OK、俺も女の子の髪の毛にかける情熱を侮っていたらしい。

特に断る理由もないので了承する。

流石にティアの髪の毛を梳かすことはしないと思うが。


「店員さん、悪いがこれも…。ってどうした?」


じっとココノエを見ていた店員が俺に声をかけられて我に返る。


「早く逃げるんだ!ここはいま、幼い子どもが次々にいなくなる街なんだよ!」


顔面蒼白になりながら店員が叫ぶ


これは…ついに当たりを引いたかもしれない。

神木です。


第7話をお読みいただきありがとうございます。


最近アクセスを見れることを知りました。

誰かに読んでもらえているという実感が湧きます。

すこしでも、私の妄想の世界が、誰かの暇を埋めることを信じてこれからも更新できればと。


7話にてやっと物語が進みましたが、どうぞ引き続きお付き合い下さい。

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