ep5:幼女と老人の二律背反
「子供がなんでこんなところに?」
眼の前の子供が発した言葉よりまずそれが気になった。
「むぅ・・・。子供じゃない、198歳。れっきとした大人。」
198!?
嘘でないとしたらなるほどファンタジーだ。種族が違うのだろうか。
「あー。すみません、見た目で判断しました。」
「平気、あとそんなにかしこまらなくていい。」
眼の前の幼女老人?見た目詐欺はタメ語でOKらしい。
「200歳ってことは種族が違うのか?人間以外の種族を見たことが、無いことはないが、人間とそう変わらないように見えるぞ?」
隣でニコニコとこちらを見つめるイヴェンを横目に、正体不明の淑幼女の種族を聞く。
「人間。理由あってこの見た目のときから変わってない。というか198歳、まだ200じゃない。」
そこは譲れないらしい。
話を信じると、体は幼女で精神年齢が淑女と。
「なあイヴェン、これはYESタッチYESセーフか?」
「何を言っているかは全くわかりませんが、おそらくOUTでしょう。」
まあそうだよな・・・。
古今東西さまざまなロリバ・・・淑幼女が創作で存在するが、実際に目の前に存在されると純度100%の幼女だ。
小さな手に、頭の大きさに合わないずれた魔女帽、ゆるゆるの服に短い腕と脚、小さな靴。
みるからにぷにぷにのほっぺに、紺碧色の柔らかそうなボブ・ショートが可愛らしさを演出している。
眠そうな目元が庇護欲を掻き立てる。
う~ん神秘だ。
「オクタル、程々にしてくださいね。私でも理解できない領域です。オクタルの嗜好は尊重しますが。昨今はコンプライアンスが・・・はて、コンプライアンスとは何でしょうか。」
イヴェンが次元の壁を越えかけているが、その言い草はないだろう。
それに俺は別にロリコンじゃない。
子供はすべからく守られるものだと思っているだけだ。
って違う、話を戻そう。
「まあとにかくすまなかった。俺はオクタル、家名はないよ。んでこいつがイヴェン。悪い人だからあまりかかわらないようにな。」
「ココノエ。魔法を完全に理解したと思っていた時期があった。いまは違う、一割も理解できてないと自負している。」
エンジニアみたいなこと言ってる・・・。
「魔法陣をみて話していたので気になった。しかもこの魔法陣はとても良い改良がされている。・・・邪魔した?」
ちらりとイヴェンを見やる。
にっこりとほほえみながら手でOKサインを出している。
前から思ってたけどこの魔人気さくすぎる。
「んや、大丈夫だ。そもそも俺だけだと詰まりそうだったんで助かる。ココノエ、ちょっと手伝ってくれないか?」
俺がそう言うと、表情を歓喜に染め、目をキラキラさせながら俺の横に座ってきた。
隣に座られるとわかる、マジで小さい。
「イヴェンが先生になってくれてるんだよ。」
イヴェンと目があったのかココノエはビクッと体を震わせ、俺の服の裾を掴んできた。
怖がらせたのかと思い振り返ると、そこにはニコニコと笑うイヴェンの顔があった。
・・・まあ塩顔イケメンのニコニコは圧があるかもしれない。
「とりあえずイヴェン、ココノエが言った通りの違いがあるってことでいいか?」
「ええ、このように現代の魔術は元の形から大幅に離れていると言えます。なのでオクタルにはこの原初の魔術を取得してもらうことでさらなるアドバンテージを得てもらおうというわけです。」
なるほど、殆どの魔術が廃れもしくは弱体化をしているのであれば、その魔術の構築を覚えることで絶大なアドバンテージになるだろう。
イヴェンの魔力も含めると、なおさらその差は顕著に現れる。
「この小娘が原初の魔術を覚え、同じ魔法を発現したとしても、オクタル優位は変わらないでしょうね。」
イヴェンが説明するにはこういうことだ。現代の魔術は覚えやすさを重視しており、どれも同じ基礎、規格の構築が組まれている。
原初の魔術にはそれがなく、すべて個別の構築となるため、現代魔術師がこれを覚えようとするとどうしても違和感が生じてしまう。
その違和感は、構築ミスや構築時間の遅れに繋がり、違和感なく発現できる俺の魔法とは、差が大きくなるらしい。
「燃える火は次等級魔法、私は呼吸をするように使える。でもこの魔法陣は、どうしても慣れない。今の魔法陣がちらついちゃう。」
格ゲーで覚えたコンボがアプデで変わる、似たようなキャラを使う、そのときに覚える違和感、のようなものだろうか。
FPSのマップがちょっと変わる、銃のリコイルが変わる・・・うーん表現しにくい。
つまるところ定石というものが無いのが一番大変とのこと。
「結局のところ実際に発現してみればわかりますよ。明日街はずれで燃える火を使用してみましょう。」
イヴェンの提案に乗り、ココノエも一緒に明日の予定を立てつつ、夜がふけるまで魔術を勉強した。
☆
「昨日は災難だったな?教会のやつから話は聞いてるぜ。」
翌日職場に行き、仕事終わりに店主からそう話を振られた。
仕事の斡旋もあり、教会とのつながりはあるのだろう。
「今日で仕事納めになってしまって申し訳ないです。せっかく仕事も覚えてきて、楽しくなってきたとこだったんですがね。」
「旅に出るんだって?まあなんとも急な話だが、この街の外はここほど安全じゃないから気をつけるんだぞ。」
マグノリア教が布教している地域は、落ち着いている人が多い。昨日の酒場でも、筋骨隆々の荒くれ者風の者もいたが、喧嘩は起きず、喧嘩になりそうなときは冷静に話し合いを始めてむしろ不気味だった。
「おお?なんだおめぇやんのか?」
「上等だ、後悔するんじゃねえぞ!」
「よしきた、まずはどっちが悪いかだが・・・。」
「はあ?そんなの決まってるだろ。・・・酒をかけちまった俺が悪い。」
「何いってんだこら。元はといえば俺がぶつかったのが・・・。」
こんな感じ。
まあ誰も怪我をしないならいいのだろう。
どうしても暴力に忌避感があるように感じられる。
そのため、武力を行使する聖騎士は最終手段のようなもので、聖騎士を目指しているものも少ない。
ティアが怖がられるのもその理由が含まれる。
「十分気をつけますよ。それに頼りになる騎士も付いてきてくれますしね。」
・・・それに魔人。
パーティーとしては後衛が2名なので若干バランスが悪いか。
そもそもイヴェンは争いごとの際に戦ってくれるか怪しい。
「ああフロンタイン嬢か。おまえも良い彼女を持ったな。」
「はは、だったら嬉しいんですけどね。彼女は大切な友人です。」
調理場の片付けをして、ここでの仕事が終わった。
半年という短い間だったが、それなりに思い入れ深い。
「おつかれさん。ほらこれを旅の足しにしときな。」
じゃり、と音がする袋を渡され、銀色の輝きが袋から覗いた。
そしてこの貨幣のサイズは大銀貨だろう。
大銀貨は一枚5,000円程度の価値があるので、この袋だけで25万円ほどの金額になる。
旅の足しにするには十分すぎる金額だ。
「今月分の給料も込みだから妥当だ。気にしないで行って来い。」
渡すだけ渡して後ろを向いてしまう。
大きく見える背中がやけにかっこよく感じた。
「恩に着ます。必ず戻ってきて、恩返ししますから!」
そう言って店のドアに手をかける。
また来よう。そして恩返しをしよう。
「頑張れよ、勇者。」
店主の独り言は、静かなパン屋に虚しく響くだけだった。
神木です。
第5話、お読みいただき感謝します。
書きたいことが多すぎますね…。
冗長にならないよう気をつけてます。