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ep12:秋波を送るは蠱惑の卿

「オクタル!大丈夫か!」


魔人を滅ぼし、ティアとココノエを探しに行こうとしたところ、

目的の人物から声がかかる。


ティアの胸にはココノエが抱かれており、かすかに上下する肩が彼女の無事を知らせていた。


「こっちは大丈夫、もう終わった。ココノエも無事で良かった。」


「ああ、魔人の使っていたであろう部屋のベッドに横たえられていた、息はあるが意識が戻らない。オクタル治療を頼めるだろうか。」


わかった、と了承しながらティアに解毒の魔法をかける。

薄桃色のあの魔人の魔力は霧散していき、消えていった。


ティアがココノエを揺すると、彼女のまぶたが徐々に開き、金色の瞳が覗かれた。


「…む」


目を覚ましてすぐにパニックになることはなく、当たりを一瞥するココノエ。

居心地が悪いのか、軽く身を捩りティアの腕から脱出した。


「…迷惑をかけた。ごめんなさい。助けてくれてありがとう。…もう終わった?」


「あー、一応区切りは付いた。町長が魔人だったよ。」


低位の魔人だったため、ココノエが追っている魔人ではなさそうということも付け加える。


「ん、別に問題はない。」


「でもやつが気になることを言っていてさ、ココノエ姉さんにかけられた呪いを知っているようだった。…それからその呪いをかけた魔人がここに来る可能性がある。」


「─────っ!」


そこで初めて取り乱したように顔をこわばらせる。


「…だけどイヴェンに聞くと早く逃げたほうがいいらしい。」


ちらりとイヴェンを見やる、どこから取り出したのか手にはモノクルがあり、グラス部分を布で拭いていた。

こちらの目線に気づいたのか、はたまた何かを思い出したのか、ハッとした表情を見せると


「ああ、あれですか。嘘に決まっていますよ。彼女は古い知り合いでしてね。彼女が来たところであの魔人が消されて終わりでしょう。そうなるともったいないではないですか。なのでオクタルの成長のために嘘をつかせていただきました。嘘も方便というやつですね、ははは。」


「は、おま、急いでころ、…倒さなくてもよかったならココノエの呪いだって聞き出せたかもしれないだろ。」


そんな追求も意に介さず、ひょうひょうとした顔を見せてくる。

…多くの子供達が犠牲になった

やつに救いはいらないとは思う

俺の手を汚すまでもなかった。


そんな仄暗い鬱憤がふつふつと湧き上がるが、なんとかしてこらえる。

この言い訳を口に出してしまったら、なにか大切なものが繋いである糸が切れてしまうような気がした。


「それについては彼女に聞いて見たらどうですか?おそらく彼女の呪いなのでしょうしね。ははは。」


…それもそうか。


呪いをかけた本人が来てくれるならこれ以上はないが、ココノエの気持ちもある。

彼女の内側に渦巻くものは読み取れないが、良いものではないのは確かだ。


「呼べばきますよ。蠱惑卿(プレデター)、エイドラ、どちらでも構いません。」


ニタニタと笑みを浮かべるイヴェンに不信感を覚えながらも、その名を口にする。


「…エイドラ、でてこい。ココノエの呪いについて…」


「あら野蛮な招待。レディーを呼びつけるのであればもう少しムードを作ってくれてもいいのよ?」


驚きのあまり身体が固まった。

ティアと俺の間にはじめからいたように現れたのだ。

腰まで伸びる黒くまっすぐな髪の毛は痛みなど見せず、月光を反射するほどだ。

黒い瞳をもつ目は大きく、しかし柔らかい印象を受ける流し目に目を交わすことが難しい。

目線を下にずらせば、薄く塗られた血のように赤い唇があった。

彼女はいつの間にか俺にしなだれかかるように肩に手を置き密着していた。


身体が固まったのは驚き故か、左半身に掛かる暴力的なまでの魅力故か。


なるほど蠱惑卿(プレデター)だ。


「もう知られてしまっているかもしれないけれど…エイドラ、蠱惑卿(プレデター)とも呼ばれているわ。混沌に魅入られし貴方のお名前、頂いてもいいかしら?」


俺から離れ、着ていた黒色のドレスのスカートをつまみながら自己紹介を始めていた。

魔人はどいつもこいつもマイペースだが、4人目ともなれば慣れても来る。

主導権は握らせたくない。


「そうだな…あの子につけた呪いの詳細と解呪方法をおしえてくれたら話す気になるかもな。」


「あらあら、つれないわね。呪いの詳細は教えてあげてもいいけれど…解呪はだめ。」


そう言うとエイドラはココノエを見やる


「解呪方法を教えてほしかったら、そうね、私と契約しない?」


「…詳細は。」


「…だめっ。私が魔人と契約するから。」


契約を持ちかけられるとは思わなかったが、ココノエが間に入り牽制する。

俺としてはすでに契約持ちだから一つも二つも変わらないと思うんだが…。


「ん~お嬢ちゃんはだめね。青い果実を食べるほど急いではいないわ。真っ赤に熟れたイチゴがあるのならそっちがいいじゃない。」


舌なめずりをしながらこちらを煽情的に見やる。

ココノエとティアが守るように立ちはだかってくれるのが今はありがたい。


「呪いの詳細は教えてくれるのだろう。そちらをまず聞かせてくれないか。」


ティアの言う通り、詳細を聞くことで何かを得られるかもしれない。

まずはそちらから聞くことにしよう。


「それもそうね、教えてあげる。お嬢ちゃんにかけた呪いは…祝福は、不老不死の祝福よ。」


「…な、祝福…?不老不死?」


不老不死、その名の通り死にもしなければ老いもしない。永遠の命を生き、元の世界でも多くの人物が求めてやまないもの。

人類が行き着く最終地点の一つ。

タイムマシンや永久機関に並ぶ荒唐無稽なものの一つに数えられるそれは、あまりに現実離れしている。


「あなた、イヴェンの契約者なのでしょう?私も契約者が欲しかったの。」


契約者がほしいことになんの関係があるのだろうか。

エイドラはそのまま続ける。


「ただ、私に見合う人間がいなくて…。不老不死にしたら強くなってくれるかもって思ったのよ。お嬢ちゃんの場合は魔術に適正があったから。もちろん解呪できるわよ。ただし、貴方が契約者になって私の目的を手伝ってくれたら、だけれど…。」


理屈はわかった。

ただ、一つ聞かなければならないこともある。


「…その過程でココノエの街を滅ぼす必要はあったのかよ。」


「必要なんてないわ。だって滅ぼしたの私じゃないでしょうし。私にそんな趣味はないわ。」


その言葉を聞き、敵対心が和らぐのを感じた。

契約内容について聞いてみるのもいいかもしれない。


「ココノエ姉さん、姉さんの街を滅ぼした魔人は…エイドラじゃない…。それはあってるか?」


「…違う。滅ぼした魔人の顔は覚えてる。この魔人じゃない。」


ココノエいわく魔人は男の姿をしていたとのこと。


「呪いをかけた張本人ではあるみたいだけど、どうする。仕返しするなら…手伝うけど?」


ココノエは俺の提案を聞き、少し悩んだ後決意をしたような顔でこちら見据える。


「仕返しは、いい。呪いをかけられて苦労はした。嫌なこともたくさんあった。…でも呪いがなかったら街が襲われた後、救助があるまで私は生きていられなかったと思う。…だからいい。仕返しするのは街を襲った魔人にしっかり返す。」


そもそも幼い子供が、歳を取らないことはさておき、一人で生きていけるはずもなかったのだ。

今生きているのは不老不死ゆえのもの。感謝はしていないようだが、恨んではいないらしい。


「そうだな、そのときは俺も呼んでくれよ。」


「利子も含めてしっかり返す。」


「その意気だ姉さん。」


「利率はトゴ、魔人許すまじ。」


「でっけぇなぁ…。」


返済はできていないので200年複利が積み上がっている。

無量大数を余裕で越えそうだな…。

でかいのはココノエ姉さんの器の大きさかもしれないけどな。


「…あと、不死のこと、黙っててごめんなさい。いざとなったら盾にしていい。」


「あまりにも絵面が終わってるよそれ。そんなことは絶対にさせないからな?」


良心がある善良市民に対しては最強の盾かもしれない。

…が、使用者の地位が底まで落ちる幼女シールドだ。あまりにもきつい。


「君がココノエを盾にしたら後ろから刺すとしよう。」


「うーん前門の幼女後門の聖騎士。身に余るな。」


ティアもココノエへの警戒心はなくなっているようだ。

俺からかばうようにココノエの前に立っている。


仲良くなることはいいことだと、イジられてる現実から目をそらしていると


「それで?楽しいお話の途中で申し訳ないのだけれど…考えてもらえたかしら?」


そうだ、大事な話がまだ残っている。

エイドラをどうするかだ。


「誓って人間を直接害したりなんてしてないわ。貴方の力が必要なの…。かわいそうな魔人を助けると思って…ね?」


こちらの両手を包むようにして握り、上目遣いで見つめてくる。

花のような香りが鼻腔をくすぐり、ふわふわとした気持ちにさせる。

その目はとろんとしているが、奥の黒い瞳がしっかりとこちらを見つめていた。


「…とりあえず話を聞くだけ聞くよ。契約はそれからだ。」


「おや、話を聞くつもりですか?浮気者ですねえ、私という契約者がいながら。まさか色香に惑わされるとは。…私も女性の姿がよろしかったですか?」


顔の横にある細い三つ編みを弄りながらくねくねと身体を動かす魔人は極力無視することにした。


「…ともかく要求はなんだ。」


そう話を振ると握っていた両手を彼女自身の細い首へと誘導された。

頸動脈を抑える形だ。普通の人間ならここを少し抑えるだけで殺せてしまう。


しっとりとした冷たい肌は脈を打っていなかった。


「私を、殺してほしいの」


その瞳にあるのは、狂気か、または諦観か。

口から覗く鋭い歯が怪しく光っていた。

神木です。


3日ぶりの更新となりました12話です。

12話って微妙な数字なのに切りが良い気がするのはなんででしょう。


ともかく12話です。

今回もご覧いただきありがとうございます。

上級魔人とされる3人目が早くも出ましたね、プロット通りに行かない…!

ハーレムタグをなんとはなしにつけてるので、3人目の女性でも許してくれると嬉しいです。

皆さんの印象に残る蠱惑卿にしてあげられることを祈って、次回また展開させます。


隔日、2日おきくらいでは投稿していきたいので引き続きお付き合いください。

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