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真の聖女の誓い

作者: マーブルベリー

王家の策略によって、聖女の姉を国外追放された妹が、病弱により見捨てられていた第一王子を頼って、他人の利益を享受する親も王家も国も壊す話。





今日は「なぜ?」の返答をしに来ました。






私の姉は、素晴らしい聖女でした。


寝る間を惜しんで研鑽を重ね、清貧を最もとし、民に寄り添い、国に尽くしました。


そんな姉を疎んだのが王家です。

王家は姉が私利私欲のために聖女の力を使い、教会を利用し、人々を騙していると罪に問い、抗弁の機会も与えず国外追放したのです。





その要因の一つが、私です。


我が家は元々特筆することもない貧乏貴族でしたが、姉が聖女となって国や貴族に影響力を持つようになってから、欲に溺れるようになった両親は、より大きな権力を求めるようになりました。

王家はそこに漬け込んだのです。


姉より五つ下の私にも、姉より遥かに弱いですが聖女の素質がありました。

姉が教会と強い繋がりがあったことから、王家は教会への権力集中を避けるため、私を王家の広告塔として利用しました。


大変なこと、地味なこと、危険なこと、遠い辺境の仕事は姉が、私でもできるような簡単で人々の目に入りやすい仕事は私が行い、それを王家とそれに追対するものたちが大きく喧伝しました。


姉の努力は多くの人々から認められず、私ばかり聖女として持ち上げられました。


利用しやすかったのだろうと思います。

聖女の血筋として実力が伴わないにも関らず、10才で聖女となった私の幼い姿に、人々の関心は集まりました。


当の私はというと、半年に一度逢えるか程度の多忙な姉に憧れて、ただ必死に聖女としての経験を重ねていたつもりでした。

親に褒められ、王家に褒められ、人々にこんな子供が頑張ってと尊敬を集め、それを嬉しく思う何も知らない子供でした。




しかし、そんな生活を5年も続けていると、いやでも歪さに気づきます。


でも、もう遅すぎました。

姉より利用しやすい私と第二王子との婚約が発表されると同時に、辺境や魔物と戦う兵士たちや教会から強い支持を集め王家の邪魔となっていた姉は、聖女の力を私利私欲のために使い、辺境で人を騙し国を混乱させようとしているという罪で国外追放されました。






そして私が「真の聖女」となったのです。


私は復讐を誓いました。

姉の努力と献身を享受してばかりいた者たちに罰を与えなければと思いました。


方法はいくらでもありました。


この国を破滅させてしまおうかとも思いました。

でも、姉が尽くしたこの国を私の一存で破滅させるわけにはいきません。

何より、この国には姉を慕い、姉同様国を守った兵士たちが、教会の人たちが、努力した人々がいるのです。





まず、両親を破滅させました。


私は少し愚痴をこぼしただけです。

親たちは領地に帰らずずっと王都にいるけどいいのかしら?私が聖女として離れて過ごしている時お父様やお母様は何をしてらっしゃるのかしら?と。

両親は姉の働きによって得た影響力を好き勝手使っていましたから、それをよく思っていないものは沢山いました。


王家もそうです。

親がいなくなれば、私の後見は居なくなり、私は王家から離れられなくなります。

様々な思惑によって、私の小さな愚痴や、純粋な疑問から話は大きくなり、両親は本当の罪から言われなき罪まで被せられて投獄されました。


愚かな親でしたわ。

姉どころから、私へもほぼ関らず、ただ利益に関わる時だけ「聖女の親」として出てくる。

私のことを10歳の子供のままだと思ってる愚か者。


両親は牢屋で自分達を解放するように頼んでくれと言ってきました。

私はこう答えました。

お父様とお母様は、貴族としてのお仕事をなさらず今まで何もせず王都で過ごされていたのでしょう?

そこにいらっしゃるのも変わりませんわ。今まで通り何もせずお過ごしください、と。


親は激怒して怒鳴ってきました。

今まで育ててやったのに、親に対してなんて酷いことをするんだと。


腹を抱えて笑ってしまいましたわ。

私は答えました。

今まで誰のおかげで贅沢ができたのですか?誰のおかげで大きな顔をできていたのですか?娘に対してどんな素晴らしいことをしてくださったのですか?


そこまで言うとやっと親は私の異様さに気づいたようでした。


そして、両親はまるで小さい子供に話しかけるかのようにいいました。

王家に何か吹き込まれたのかい?お前の味方は私たちだけだよ、騙されてはいけない。何でもしてあげるからまずはここから出しておくれ、と。


まだ私を懐柔できると思ったのでしょう。


これほど愚かとも生みの親、私は真実を話すことにしました。


それでは、無実の罪で国外追放されたお姉さまを返してください。そしてお姉さまの罪が冤罪だと国中に認めさせてください。

お姉さまに寄生し搾取していた愚かな家族を罰してください。

そして、お姉さまを乏しめた王家を滅ぼしてください、と。


ここまで言われてやっと気づいたのでしょう。

私の憎悪に。10歳の子供では無く大人になった私に。

両親は何か言い返そうとしましたが、ただ口があわあわと動くだけで何も言いませんでしたわ。



己の恥と罪を解する程度の理性が残っていたようでした。

その後は一度も会いに行っておりません。



しかし、慣れない牢生活で亡くなるまでの短い間とはいえ、心から悔いて姉に懺悔し暮らしていたと聞いてはおります。


まだ姉が聖女になる前、私が5歳の頃までの貧乏でも優しく尊敬できた親は、幻ではなかったのかもしれないと思いました。







話が逸れましたわね。


帰る家を失った私を、王家はより利用するようになりました。


しかし、第二王子が私に惚れ込んでいたこともあり、雑に扱われることはありませんでした。


この第二王子は、本来であれば私の姉と婚約する予定でした。

ところが、過労から痩せており貴族令嬢のように着飾ることもなく、そもそも普段魔物と戦ったり人々を癒して国を走り回っている多忙な姉と話が合わぬとわがままを言い、より御しやすそうな私と婚約しました。



第二王子こそが、姉を乏しめようと案を出したらしいのです。



国王陛下も王妃陛下も、国の重鎮たちも影響力を増していく姉に脅威を感じ、それに同意したそうです。






だから私は貴方様に助けを求めたのです。


第一王子である貴方様に。


病弱だからと城の隅に追いやられ、過ごしていられたと聞きました。

しかしながら、姉が作成した薬がいくつかありましたので、その中には貴方様に効くものもあるだろうと私は考えました。

私は姉を支持する兵士たち、教会の人々や姉を信じる人々の助けを借り、貴方様に何度も会いにいきました。


貴方様は警戒心が強く、なかなか部屋にも入れてくれず心を開いてくださいませんでしたね。


しかし、この国の正当な後継者の1人である貴方ならばわかってくれると信じていました。

利益ばかり求める王族、国民から搾取することを是とする貴族たち、兵士や教会のなど一部の者たちの努力も知らずにそれを享受し続ける国民たち。

「真の聖女」しかいないこの国は、少しずつ滅びに向かっているのです。




私はこの国を守りたかった。

姉が守ったこの国を。


だから諦めず、何度も会いにいきました。

私たちは色んな話をしましたね。

貴方様は少しずつ心を開いてくださり、教えてくださりました。


病弱な自分は国王の器ではないこと、もし元気になったとしても自分に失望した両親たちは後継者に指名しないだろうこと、さらに言えば弟である第二王子が自分を暗殺するだろうということ。


私は所詮、16の小娘でしたから、この国には正当な後継者が絶対に必要だと考えていました。

だから、教会や実際に魔物と戦う兵士たち、辺境の人々が今の国王陛下に不信感を持っていること、お姉さまという聖女を私利私欲のために追放した第二王子が王位にふさわしくないことをお話ししました。

そして、貴方様が王位を継ごうとなさるなら「真の聖女」たる私を筆頭に皆が貴方様を支持し、守ることを誓いました。


貴方様は、なかなか決断してくださいませんでしたね。


私は何度も訪ね続けました。


長年引きこもっていた貴方様、人と関らず10年以上過ごし、どれほどあの部屋から出ることが恐ろしかったでしょう。

あの部屋で過ごせば過ごすほど、貴方様の心に寄り添おうと努力し続けたある日、私はこう考えるようになりました。






この男は王族に相応しくない、と。







この男もいらない、と。







貴方様はあの部屋から出るつもりがなかった。


国に尽くし努力する人々、利用され捨てられた姉、これから困難に陥る国民たち、それらに興味がなかった。

あったとしても、己を哀れがる以上ではなかった。

貴方様の部屋からお姉さまの作った古い薬を見つけた時、悟りました。


王家がお姉さまを軽んじていた理由です。


お姉さまは真に強い聖力を持つ聖女でした。その聖力と日々の研鑽からなる知性は絶大で、あらゆる怪我や病気を癒してきました。


私は常々疑問でした。

王家はお姉さまを国外追放するより、手元に置いていた方が遥かに利用できるのに、追い出した。




その理由はなぜか。


王家はお姉さまの真の力を理解してなかったのですね。

貴方様はお姉さまから癒しをかけられ、薬を与えられ、病気が快癒していたのにも関らずそれを隠し、病弱のままでいつづけ姉の功績を汚した。



初めから違和感がありました。


貴方様に特に病気の症状が見受けられなかったからです。長年引きこもった青い肌に、筋肉も無く痩せた体、久しぶりに人と話すためか挙動不審ではありましたが、私が尋ねた時いつも起き上がって本を読んだり絵を描いたりしてすごされていましたね。


王族の責務を放棄して、ただ特権を享受して暮らす生活は楽だったことでしょう。

そこから出て立太子を目指すことは面倒で怖かったことでしょう。


そのために薬も飲まず、姉に「王家の者を癒せない聖女」の烙印を押した。






私は貴方様を利用することを決めました。


私は貴方様が健康であることを第二王子に話しました。

婚約し、王家の一族になるにあたり聖女として病弱な第一王子の様子を見に行ったところ、健康なご様子であると。

私は両親への疑問を呈した時と同じように、まるで何もわかっていないかのように話しました。

第一王子と今の国に対して様々な意見交換を行ったこと、第二王子は私に誘導されているとも気づかずに、私から色んなことを聞き出しましたわ。


そしていつも通り、秘密裏に会いに行った私を貴方様が部屋に招き入れて、話をしていたところ第二王子が現れ、貴方様を害したのです。


あなた様の言うとおりでしたね、健康な貴方は王位継承の邪魔ですもの。




第二王子の建前はこうです。


「真の聖女」が病弱な第一王子を癒しに行ったところ、病弱は嘘で第一王子は密かに王位を簒奪する計画を立てていた。

聖女に嘘がバレた第一王子は聖女を害そうとしたところ、婚約者の第二王子が助けに行った。

過去の病弱な評価を利用し、王族の責務を果しもせず、自分勝手に国王陛下と王妃陛下を弑し国を自分のものとしようとした、第一王子。

やむを得ず切り捨てた、とのことでした。


第二王子は人々にそのように説明しました。

王家の人形である私に真偽を問う者もいませんでした。


そして、病弱で引きこもっていた第一王子を庇う者もなく、貴方様の遺体は逆賊として捨てられました。




私は第二王子とその陣営の者たちがついてきていることに気づきながら、貴方様に会いに行きました。


第二王子は容赦なく貴方様を切り付け、ありもしない罪を述べました。


私は第二王子の部下たちに、貴方様の治癒をしないよう保護という名の拘束されながら、倒れる貴方様を見つめていました。




助けを求めて仰ぎ見た私の顔が笑っていたことに気づいた貴方様は、最期の力で「なぜ?」と聞きましたね。


利益を享受し責務を果たすつもりのない者など、1人も必要ないとわかったからです。


とはいえ、教会に仕えるものとして冤罪を見過ごすわけにもいかず、遺骸を確保し、こうして密やかに墓石に弔ったのです。







このような返答で、納得いただけだでしょうか?








その後のことをお話ししましょう。


第二王子が第一王子を殺害する現場を、私は教会の宝物『女神の目』を使って密かに記録していました。


ああ、『女神の目』のことはご存知かしら?


『女神の目』常に清廉であることを女神に誓う、女神の目を模した聖女が祈りの際に使うペンダントですが、聖力を流すと現実に起こったことをありのままに映像として記録することができるのです。

使うのに一定の聖力がいるため一部の聖者しか使えない女神の遺物の一つで、ここ数十年は使われなかったため知らないものも多いようでした。


そして建国記念の式典の日に、私は「真の聖女」として国にこれからも尽くすことを宣言するとともに、多くの貴族たち、他国の来賓の前で『女神の目』を再起動しました。


そこには、第二王子が多くの供を連れて第一王子の部屋に押し入り、武器を持っているわけでもない第一王子を話も聞かず一方的に切り付け殺害した様子が映っていました。



私は『女神の目』に誓い、第一王子を癒すために訪れた際に、第二王子が無理やり乱入し、殺害したと真実を述べました。


突然の私の裏切りに、驚愕した第二王子ですが、第一王子が王位簒奪の計画を立てていたためと主張しました。

しかし以前説明していた、第一王子が先に聖女を襲い、害そうとしていたのを守ったという主張と矛盾しており、第二王子が何らかの嘘をついてることが明らかになりました。


王家は必死に誤魔化そうとしましたが、これほどの大勢の前で『真実の目』が明らかになったのです。

国は大混乱に陥りした。


己のことしか考えないものばかりの国でしたから、これ幸いと皆が自分の利益を考え、実権を握ろうと他人を蹴落とそうとし、王族も貴族たちも関係なく争いました。


そして、そこを見逃すことなく、協会と兵士たち、一部の辺境貴族たちが力を合わせ、争っていた王侯貴族たちは確保されました。










あれから一年経ち、ようやく教会が要請し周辺国家から集まった諮問機関による調査・裁判が終わりました。


国王陛下と王妃陛下、第二王子ら全王族は天から与えられた王権に背いて協会を軽んじ、倫理に反し国を乱した罪で死刑。

一部貴族たちも同様に死刑。

他の者たちはその罪に応じて収監され苦役刑が命じられました。


また、貴族制が廃止され、罪に問われなかった貴族たちも、特権がなくなりました。

領地を納めていた貴族は、領民による選挙という制度により再認定され、結果によっては失脚させられました。



この国は、共和制という新しい形に生まれ変わることとなりました。



そして、皆が平等に努力し、共に支え合う国を目指すことを、代表して私が女神に誓いました。






この国を壊すきっかけを与えてくださった、貴方様に感謝申し上げます。





私は「真の聖女」として、お姉さまに変わりこの国に尽くし続けることを誓います。




聖女の姉は国外追放後、国に戻れないしかといって頑張ってる人々を見捨てるわけにも行かないしと、ここでできることをしようと国境の森で疲れた心と体を癒しながらのんびりスローライフをしながら聖女の勤めをしながら過ごしてました。


国の混乱が治って追放から三年後、偶然迷い込んだ通商人から話を聞き、国に戻り妹と再会します。

ハッピーエンドです。


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[良い点] 知略に長けた主人公でとても面白かったです。 淡々としていて、マグマのように根をはっている幼い自分を含めた姉を害した人間への憎悪。第一王子の愚かさに気がついてからの描写が視野の広さを感じさせ…
[気になる点] ハッピーエンド? 犠牲者数が膨大な人数だし、この国も解体されてしまい大混乱に陥ったけど、ハッピーエンドでいいのかなぁ?
[気になる点] お姉さんは無事なのでしょうか。 辺境の地で匿われていれば良いのですが…。
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