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16.国王の決断



 エドワードはミナに言われて本来の目的を思い出した。国王にリチャードの処遇を決めるように迫らなくてはならない。


 元老院の結論を採用して、最終的に国王の判断を言い渡す。それがこの国の政治的決断の下し方である。

 しかし、元老院の意見が割れた場合は国王の一言で全てを決めることも出来る。


 エドワードはふと、先ほどまで驚くべき発想を披露していたミナを見下ろし、その肩に再び手を置き、異常がないか軽く触った。

 先ほど感情が昂って、彼女の細い肩を握ってしまった。

 彼女は首を傾げながら黒い瞳でこちらを見上げた。痛みは無さそうで安心する。


 

 エドワードはすっかり存在感を無くしたリチャードを横目で見やった。彼はまだ呆然としている。

 やつは本当に馬鹿だとエドワードは思った。

 短所はあるものの得難い知識と膨大な力を持つ聖女を妻にしながら、ろくでもない事ばかりして、兄を蹴落として得たはずの王位も遠ざかりつつある。


「陛下。ご決断を。失礼ながら、王太子殿下には国を統べるお力がない事は、これまでの不正及び婚姻無効の騒動を見ても明らかかと」

 エドワードは顎でリチャードを指しながら言った。

 そういうエドワードも、そのような力が自分にあるかは甚だ疑問である。しかし、彼にはレナートという相談相手がいる。本来王位を継ぐべきだった男だ。


 リチャードはエドワードの言葉に表情を取り戻し、彼と彼の妻を睨みつけた。


「ふざけるな! まだお前の子は生まれていない!」

 リチャードはミナのお腹を指差す。


「だから何? あんたと結婚した時にもまだいなかったけど」

 ミナがそう言うとリチャードは悔しそうに口を閉じた。



 元老院議員は黙り込んでいる。

 半数はエドワードが王位を継ぐ事を容認する構えであり、残りの半数はリチャードが王位を継いでも自らの利益にならない可能性が高くなったため、諦めたような表情を浮かべて、ただ国王の決定を待っているように見えた。



 やがて、国王は何度か頭を振ると、王太子を廃嫡し、聖女の()()()()夫である、エドワード・ソルトナーを後継者に指名した。


 王太子が婚姻を無効にしていなければ、少なくともここまでの事態にはならなかっただろう。

 そして、こうなったのは、王太子本人以外の誰の目から見ても幸いな事であった。


 廃嫡されたリチャードには侯爵位を与えられるが、それは一代限りのものであり、彼の次の代からは爵位が下がる事が決められた。

 元王太子が得る肩書きとしては異例のものである。


 リチャードは、大公の位を賜った兄との違いに文句を言い募ったが、国王に「レナートは対魔族との戦いの英雄だ」と当然のことを言われると渋々引き下がった。

 王位を継がない王族が臣下に下る際には公爵位を賜るのが通例である。だが、それより格が下がる侯爵位すら、リチャードのこれまでしでかしてきた事を考えれば良い方だろうとエドワードは思う。


 そして、国王自身もこの騒動の責任を取って、近く退位する事を決めた。引き留める者はいなかった。


「二人の息子を廃嫡する事になるとはな……」


 ぽつりとそう言った国王が哀れではあったが、こればかりは聖女召喚の代に当たったのだから仕方がない。

 そして、その聖女が少しばかり我が強かっただけ、のはずだとエドワードは思った。


 彼こそが、その被害を今現在においては一番に受けていると言っても過言ではない。

 だがそれも悪いことばかりではない。物は考えようだ。



 さて、今後の方針は決まった。彼にはもう、この場に用はなかった。

 子を身籠っているミナを休ませてやりたいと思ったエドワードは、いつか必ずリチャードの悪行は全て公表してやろうと心に決めて、ミナと共に王宮を辞した。



つづく……


ここまでお読みくださり、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] コンパクトなのにとてもボリュームを感じる物語でした。 そして、前作と今回のお話を続けて読むと視点の切り替わりでこんなにも受ける感情が違うことが素晴らしいなと思いました。 人それぞれに正義や…
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