表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

第2話 魔法使いの卵

『超常異世界クライテリア』と銘打たれたその世界は虚無から始まった。


 極点は無限の光となり、宇宙を形造り、生命を生み出し、やがて世界に秩序が創造された。


 何故、世界が生まれたのか。


 虚無とは何なのか。


 何故、秩序が宇宙を支配するのか。


 覆い隠された神秘の奥底にこそ真実はある。


 しかしソレは理屈に落とし込むことが能わぬからこその神秘であり、ソレが纏う幻想のヴェールを剥がすことが出来たとしたら、ソレはソレではなかったというだけの話。











 (あまね)く生物は微小な粒子で構成されている。


 それらの粒子は内に微精霊(ヴィリット)という霊的基点を有し、それを中心として霊気(オーラ)が発生する。


 微精霊(ヴィリット)が分子のように結合した『霊子』はより大きな霊気(オーラ)を持ち、それ自体が霊的な性質を有する。


 原初の世界(ヌルマテリア)で自然発生した霊子は、チャクラに対して霊気(オーラ)の胎動———霊力(フォース)で指令を出し、チャクラはそれに応え万物の素となった。


「では、瞑想したままお聞きください。万物の素となる最も根源的な力『チャクラ』は何もない世界で、原初の霊核によって光に生まれ変わりました」


 シュークリスは、霊魂(オド)から(アニマ)を通して霊力(フォース)を出力し、体に浸透させる。


 細胞単位、原子単位で霊的な波動を漲らせ、内にある霊子を揺らす。


 霊子が揺れれば霊気(オーラ)も揺れる。霊魂(オド)が生み出した霊力(フォース)と全く同じ波長をトレースして増幅させる霊体が、


 シュークリスは心霊能力(サイコキネシス)による霊力(フォース)を霊体に漲らせた。


 霊力(フォース)とは霊的なエネルギーではない。例えるなら肉体の身体能力から発せられる筋力のようなもの。


 霊的に力んだ状態となったシュークリスから、圧が滲み始める。


———噂に聞いてはいたけど、ここまでとはね


 教会所属の専任秘儀司(グラフォミナ)『エイダ・ワドルド』は人知れず驚愕した。


 霊力(フォース)を漲らせて、物質が持つ存在質量(チャクラ)を増幅させる『源功(げんこう)()』は秘法(アルカナ)の最初の段階。


 始質料(プリマテリア)という宇宙の原材料と称される存在がある。それらを物質やエネルギーたらしめるのが微精霊(ヴィリット)だ。


 何の形も性質も情報も持たない無色の第一資料(プリマテリア)微精霊(ヴィリット)が設計図を書き込む。


 霊的情報信号『霊基(エイドス)』は、肉体の設計図を担う遺伝子のような役目を持ち、第一資料(プリマテリア)から存在質量(チャクラ)を引き出して素粒子を形造る。


 つまり宇宙を満たす万物はチャクラによって実体を得た霊基(エイドス)なのだ。


 そして心霊能力(サイコキネシス)とは、微精霊(ヴィリット)の結合構造体『霊素(サイオン)』の霊力(フォース)を基に万物に干渉する存在機能。


 もっと言えば、霊基(エイドス)に干渉出来る霊力(フォース)があるからこそ、霊長種は万物に障ることが能い、第一資料(プリマテリア)に干渉してチャクラを捻出出来るのだ。


 刻一刻と存在の重みが増していくシュークリスの圧は既に子供だからと気を抜けられない域に至っている。


 存在質量(チャクラ)とは、その名の通り、第一資料(プリマテリア)の存在的な重み『存在しようとする力』に他ならない。


 源功の儀を極めた秘儀司(アルカナム)は天災を捩じ伏せる程の破滅的な身体能力を手に入れる。存在質量差による優先度が他と隔絶しているからだ。


 吹き荒ぶ風よりも、筋肉の躍動の方が速い。

 落ちる隕石よりも、拳の方が破壊力にて勝る。

 降り頻る雷を浴びても髪型がアフロ化するだけで済む。


 物理的にあり得ない不条理を現実とする。それが存在質量(チャクラ)の差による存在優先度の格差。


 もしも、今エイダの手元に拳銃があったとして、引き金を引いてシュークリスに弾丸を撃ち放ったとする。


 常人が鉛玉を体に受ければ当然、肉に穴が空き、場合によっては骨を砕き、貫通するだろう。


 しかし源功の儀を経て存在としての重みを増した肉体強度は金属を遥かに凌ぐ。その場合、弾丸はけたたましい音を立てて弾かれることとなるだろう。


 戦車装甲にピストルが効かないように、凡そ尋常の物理現象で彼我の存在的な質量差を覆すことは能わない。


「良きチャクラです。では、それを練り上げてください」


 エイダの声を静かに聞き、シュークリスは息を吸って吐いた。身体中を満たす力を精密に感じ取り、心霊能力(サイコキネシス)で捏ね繰り回す。


 源功の儀の次段階。その名も『練功(れんこう)()』である。


 存在質量(チャクラ)とは、第一資料(プリマテリア)に宿った霊基(エイドス)を実体化させる力。無に属する霊的情報信号を、有に属する物質に繰り上げるのだ。


 その性質を利用して『肉体を形成する霊基(エイドス)』ではなく『霊体が発揮する霊力(フォース)』を実在化させ、新たな力を生み出すのが練功の儀。


 シュークリスの霊素(サイオン)体が魂を通じて駆動し、霊力(フォース)を発揮する。肉体を形成する存在質量(チャクラ)が畝りを上げ、実体化対象が肉体霊基(エイドス)ではなく霊力(フォース)にすり替えられる。


 第一資料(プリマテリア)から独立した存在質量(チャクラ)塊『マナ』が練り上げられた。


 霊力(フォース)存在質量(チャクラ)で実在化させる練功の儀は、その分だけ肉体を形成するチャクラを減らす。


 マナが肉体の内にある時は肉体を強化する存在質量(チャクラ)として働くが、体外へ放出した場合は体内チャクラ量が減じることとなり、脆くなる。


 秘儀司(アルカナム)を始めとした後衛職が紙装甲となる原因となるため、マナを練成する際、その練り上げる存在質量(チャクラ)は捻出する量を上回ってはいけないという不文律がある。


 しかし現実的に、秘法儀述(オルド=アクトゥス)で消費するマナ量と捻出するチャクラ量が釣り合う筈もなく。


 その為、秘儀司(アルカナム)達は予めマナを貯めて置くといった対処法を求められる。


 ———ただし、一部例外は除く。っていうのは、こういう人のためにある言葉なのね


 神童シュークリス・ゼノ=ブラッドネスにそのような小細工は必要ない。


 何故ならば彼の源功の儀で捻出するチャクラ量は莫大であり、大規模な秘法儀述(オルト=アクトゥス)であろうとも問題なく連発出来るだけのポテンシャルを秘めているからだ。


 ———この歳で聖堂騎士と稽古出来るほどの剣才、一流の秘儀司(アルカナム)とも一線を画す膨大なチャクラ量、神々から与えられた数多の加護と権能。歴戦の英勇豪傑さえ一笑に付すことが許される天子にして、神々の恩寵を一身に受けた麒麟児……!!


 エイダ・ワドルドは戦慄とも興奮とも取れる奇妙な高揚を感じていた。今は幼きこの神童が数年経つ頃には、この世界は統一され全てが正しく在れるようになると、そう漠然とした未来を予感した。


 その未来が本当に来るかはまだわからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ