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グッバイ、フロンティア! ハロー、デッドエンド!

――これは、事実に近い物語である。

『明日へ向かって撃て!』


 そこはかつて、新大陸(フロンティア)と呼ばれていた。

 整然と区分けされていなかった大地。

 数えきれないほど沢山の無法者(アウトロー)

 飛び交う弾丸と硝煙のにおい。

 崇められる精霊(カチナ)ココペッリの笛の音は、耳を澄まさずとも聞こえてくる。

 新大陸(フロンティア)

 そこは純粋な自由が満ち溢れていた世界。

 ビリー・ザ・キッドや【ジェシー・ジェイムズ一味】のように威勢溢れる無法者(アウトロー)たちが、当たり前のように生きて生きて生きて生きて生きて……そして、死んでいく。

 俺たちが駆け抜けていくのは、そんな世界。

【ワイルドバンチ強盗団】が駆け抜けていくのは、そんな世界。

 明日なき今日という刹那の瞬間続きで構成されているであろう世界を、【ワイルドバンチ強盗団(おれたち)】は駆け抜けていく。

 生きることの不安、死ぬことの恐怖、そんなの全部後回し。

 ひたすらに。

 がむしゃらに。

 ただただ真っ直ぐに。

 ずっと、ずっと――






 ぐるんっ、と視界が回転したと思ったら、受け身をとる間もなく床に叩きつけられていた。

 我が身のことながら、他人事のように思う。こりゃあ死んだな、今度こそ本当に、と。

 不揃いの石を泥で固めて作っただけの土壁を突破した弾丸は、猟犬の牙となって俺の身体を容赦なく喰い破った。

 衝撃が重さを伴って突き抜け、一瞬、呼吸が止まる。気付けば、床に倒れ伏していた。

 穿たれた銃創からは血が、指先からは力が、止まることなく溢れ出ていく――立ち上がろうとする、気力すら。

 痛みが灼熱となって身体中を駆け巡るも、喉から苦鳴が迸ることはなかった。吐き出されたのは、血反吐だった。


「ここまで、か」


 どうやら、俺はここで終わりらしい。だが、それは俺だけに限られた話ではない。

 越えればなんとかなっていたはずの州は力を合わせ始めたし、協力者(シンパ)であったはずの牧場主たちは分け前にあずかるより平穏な稼ぎを望むようになった。

 そしてなにより、あの忌々しい【ピンカートン探偵社】がのさばっているとくる。


「斜陽だな」


 ああ、そうだ。

 そういえば、ここ最近仕事(シゴト)がやりづらかったな。苦い笑みが、自然と浮かんでしまう。

 それはともかく、斜陽か。ちなみにそれは、時代か? それとも、【ワイルドバンチ強盗団(おれたち)】か?

 でも、そんなの今更じゃないかってんだ。なぁ、そうだって思わねぇか?


「それじゃあ、そろそろくとするか……」


 目を閉じて、引き金を引く。

 さようなら、二〇世紀。さようなら、我らが愛する新大陸(フロンティア)

 そして――さようなら、ブッチ・キャシディ。

 時のうつろいに抗えなかった俺は、明日ではなく今日の残り香を抱いて、ここではないどこか遠くへ――

 そして轟いた銃声は、これからの旅立ちを祝福する鐘の音。

 確かめずとも、弾はちゃんと()()残っていた。






 一九〇八年十一月。ボリビアの山村、サン・ヴィセンテ。


 史実が語るところによれば、ブッチ・キャシディ――新大陸(フロンティア)を縦横無尽に駆け回り、バイタリティ溢れる戦力と巧妙な作戦を用いて数々の事件を起こした悪名名高き無法者(アウトロー)集団【ワイルドバンチ強盗団】を率いた男は、(ここ)(つい)えたという。

 記録が語るところによれば、その最期は決して劇的なものではなかったとされる。


 籠城していた小屋を騎兵隊に包囲され、追い詰められた末の自殺。残されたのは、惨めな死に様を晒した物言わぬ躯だけ。

 所詮、無法者(アウトロー)の最期にありがちだという派手な銃撃戦など、大衆が望む物語でしかありえないということか。


 だが、虚構(じじつ)が語るところによれば――

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