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第3話 闇の組織の侵入者

ーーーとある地下室ーーー


 暗がりの広い空間の中。

 複数の蝋燭の小さな灯りだけが周囲を仄かに照らしていた。

 そこには黒づくめのフード付きコートに身を包んだ怪しげな人物達が数人集まっていた。

 大きなテーブルを囲み各々が椅子に座っている。


『王国に聖女が誕生したというのは本当なのか?。』

『おや。話が遅いな。それは1年も前の出来事ですよ?。』

『仕方がないだろう?。我等が教主様となられる聖女を探すには世界は広すぎるのだ。我等のように影で暗躍するしかない者にとっては特にな。』

『ついに、我等の悲願である聖女様が顕現されたのだ。光属性の力を持つお方が現れたのは実に50年ぶりだ。』

『聖女の力は国はおろか世界すらも動かす力があると言われている。その力を手にすることが出来れば我等の時代だ。』

『言葉が過ぎるぞ。聖女様には 自らの意思 で世界を動かして頂くのだ。我等は聖女様の意思のままに従うのみ。』

『ふふ。物は言いようね。洗脳し傀儡となった聖女様を使う。正直にそう言いなさいな。』

『ふん。それは我々が知っていれば良い事実だ。世間では聖女様が中心となり、この魔法の世界を支配…導くことになる。何も間違ってはいない。』

『あらあら。結果は同じなのに言葉を変えれば良く聞こえるモノね。』

『それで?。聖女様をお招きする準備はどうなっている?。』

『50人の精鋭を既に屋敷の周囲に配置済みよ。合図一つで潜入を開始するわ。』

『屋敷の見取図と警備は?。』

『調査済み。予定では本日。深夜。屋敷の人間の殆どが寝静まった時が決行よ。速やかに聖女様を連れ去ることでしょう。』

『屋敷には厄介な人物達がいるが?。』

『其方にも。部隊を複数に分けて名のある魔法使いも排除する手筈よ。』

『ふむ。ぬるいな。ならば。命令を変更しろ。』

『ん?。どの様に?。』

『屋敷の者は皆殺しだ。』

『へぇ。なかなか過激ね。』

『どうせ。後々始末するのだ。早いか遅いかだ。全員に通達せよ。僅かな痕跡すらも残さず屋敷の全てを殲滅せよ。静かに…速やかにな。』

『了解。』

『ああ。もう少しだ。聖女レティア。世界を我々の色に染める 光の姫 が誕生する。』


ーーー


ーーー深夜2時ーーー

ーーーシルシャイン邸ーーー


 屋敷の周囲には複数の影が音もなく動いていた。その数は50。複数の部隊に分かれた彼等は屋敷の四方へと散った。

 ハンドシグナルのみで意思を疎通。無駄のない動きからも全員が暗殺に特化した達人であることが理解できる。

 そのリーダー格の男。

 数々の任務、主に暗殺をこなしてきた男。

 失敗=死という裏の世界を生き抜き、勝ち抜いてきた実力は組織からの信頼も厚かった。

 そんな彼に昨日。裏の世界を牛耳る組織からの命令が下った。

 その内容は。

 屋敷の者が寝静まった時刻。シルシャイン邸へ潜入し屋敷に住む1人を除いた全ての者を殲滅。そして、光属性に目覚めた少女。【レティア・シル・フィーナ・シルシャイン】を拐えよ。

 というものだった。

 もちろん、男は少女の存在を知っている。

 世間でも噂で持ち切りの少女だ。外見の良さも然ることながら性格も周囲の人々を魅了する。まさに聖女と呼ばれるに相応しい少女だと聞く。

 組織の考えは理解している。

 その少女の目覚めた力。光属性の力を使い陰に潜む組織を表舞台に浮上させようとしているのだろう。

 そこに彼女の意思は関係ない。組織の幹部には闇属性の使い手がおり、洗脳系統の能力を持つお方がいるのだから。

 そうなってしまえば、彼女は組織の操り人形だ。その一生を組織の為に使い、最後はゴミのように捨てられる。そのような人生が待っているのだ。

 そして、その引き金を引くのが自分なのだと改めて自覚し男は溜め息をつく。

 しかし、組織に属している以上。自分に逃げ場はない。任務に失敗すればどのみち死ぬのだ。組織からは逃げられない。

 善と悪でいえば自身は悪だろうことは理解している。だが、男は生きたい。これまでの人生をそうしてきたように…これからも。だからこそ、自分の身を守るために罪もない少女の一生を捧げようとしている。


 そう。誰かが自分を止めるまで。男は動き続ける。


ーーー


ーーーレティア寝室ーーー


ーーーレティアーーー


 僅かな…ほんの小さな物音?。空気の流れ?。ちょっとした部屋の空気の違和感に目を覚ました。


『あれ?。』


 うっすらと目を開ける。

 寝ている私に覆い被さるように動く影。

 メルティかな?。たまに一人で寝るのが寂しいって言って私の部屋に来るんだよね。

 へへ。私もメルティと一緒に寝るのが好きだから大歓迎だけど。

 

『メルテ…。』

『っ!?。』


 私は影に向かって声を掛けた。

 その時だった。


『えっ!?。むぐっ!?。』


 突然、影から腕が伸びで私の口を塞いだんだ。

 メルティじゃない!?。

 頭から真っ黒な布を被った知らない人。布から出た腕は明らかに男の人の鍛えられた太い腕だった。


『うぐっ!?。』


 口だけじゃなく。腕や身体まで押さえ付けられた。大人と子供。鍛えられた男性と少女の私じゃ力だけで押さえられてしまう。

 こ、こんなのゲームじゃ語られてなかった。


『んっ!。』


 ま、魔法を使わないと。

 そうだよ。何の為に魔法の特訓を日々続けてきたの。自分の身を守るため。弱い人達を守るため。そして…あの人の横に並ぶためでしょ!。


『ぐっ!。』


 私は魔法を発動させる。

 腕に光の魔力が集まっていく。


『っ!?。ふっ!。』

『うぐっ!。あぐっ!?』


 男が私の首を締めた。

 集中力が切れて集まっていた魔力が霧散してしまう。


『ひっ!?。』


 そして、布の隙間から僅かに見えた男の眼光に私は怯んでしまう。

 前世ですら感じたことのない本当の殺気。人が人を殺す。強者によって弱者が抵抗空しく殺される。強者が定めたその対象…弱者が自分であることを否応なしに理解させられた。

 抵抗など無意味だ。弱い立場。弱い存在。

 そう理解させられた弱者に許されるのは身体を震わせて泣くことだけだった。


『………。』


 抵抗する気を失くしてしまった私を見て男が手を離す。逃げられるチャンスと思う人もいるかもしれない。だけど、圧倒的な実力の差がある相手を前に動ける程強い私じゃなかった。

 男の手に魔力が宿る。あの手に触れられれば即座に意識を失うんだ。魔力の流れでそう理解出来てしまう。


 私…どうなっちゃうのかな?。


 いつも枕元に置いてある宝物のハンカチを無意識に握りしめながら私はただ声を上げることなく泣き続け、迫る手が私の意識を刈り取るのを待った。


『あのさ。ちょっと良いかい?。』


 絶望の中で聞き覚えの声が私の心を照らした。

 深夜の私室には私の言葉にならないくぐもった悲鳴だけ響いていた。その私の声を優しく包み込むように聞こえた声に安心感を感じたの。


『っ!?。』

『おっと!?。いきなり的確に首を狙うとは…。躊躇もなく、殺気も一瞬と。なかなかの手練れだ。それだけ 本気 だったってことかい?。』


 振り向き様に何処からか取り出したナイフを振り抜いた男。けれど、ナイフはピタリと空中で静止した。いや、違う。彼に止められたんだ。眼帯で片眼を隠している彼に指先2本で…ナイフが挟まれている。


『ぜ、ゼルド…。』


 私のお世話をしてくれている執事。

 男が動揺したのか拘束が緩くなったことで声を発することが出来た。小さな震える声で呟いた私の声にゼルドが応えてくれた。


『ふふ。レティア様。遅くなり申し訳ありません。私が来たからにはもう大丈夫ですよ。ご安心ください。』


 小さく無駄のない動きで男のナイフを弾いたゼルド。同時に男に拳打を浴びせる。

 しかし、ゼルドの攻撃を確実に男は捌いてしまう。


『へぇ。本当に強いな。けどな。』

『っ!?。』


 拳打に見せかけた拳を解き防御に回した男の腕を取ったゼルド。その瞬間、男の身体が回転し軽々と空中へと持ち上がった。


『俺の方が強い。』

『ぐあっ!?。』


 フードの中から無口だった男の声が漏れる。

 バランスを崩した男をゼルドの回し蹴りが直撃し男の身体が壁まで飛ばされたんだ。

 ゼルド…こんなに強かったの?。

 追撃をせず、私に歩み寄るゼルド。乱れた服を直し整えてくれてお姫様抱っこで部屋に備えてある机の椅子に座らせてくれた。


『ここで休んでいて下さい。直ぐに終わらせますので。』


 いつものゼルドの笑顔。


『ぐっ…。その娘を渡していただく。』

『それは聞けない相談だ。』


 ゼルドが私と男の間に立つ。

 いつも見慣れた背中なのに凄く大きく見える。


『そうか…はっ!。』

『ふんっ!。』


 激しくぶつかり合うゼルドと男。

 再び取り出したナイフで斬り掛かるもゼルドが紙一重で躱していく。

 男は決して弱くない。ゼルドに護身術を教えられているとはいえ、戦闘に関して初心者の私ですら一目で分かるくらいの実力者だ。


 だけど…。


『遅い。』

『うぐっ!?。』

『お前じゃ俺に勝てない。それだけの実力があるなら分かるだろう?。』

『ぐっ…。』


 私には分からなかった一瞬の隙があったのか、素早い動きの男にゼルドの拳がめり込んだ。


『ぐはっ!?。ば、馬鹿な…。これ程の実力者が屋敷にいるなど…そんな情報は無かった筈…。』

『はは。実力者か。俺なんて、まだまださ。けど、まぁ。悪い気はしないなぁ。』

『はぁ…はぁ…。だが、しかし。この屋敷には我が部隊が既に侵入している。』


 えっ!?。私のお家に…この人は何を言っているの?。


『ああ。知っているさ。この部屋の前にも2匹の見張りが居たからな。えー。確か、潜入した者の人数は…君を入れて50ってとこだったか?。』

『っ!?。何故…正確な人数を…。』

『簡単な話さ。おっと。ちょうど良いところに。』


 ゼルドの視線を追って私と男の視線が部屋の入り口へと向けられる。

 静かに開くドア。そして、メルティが入ってきた。


『メ、メル…ティ?。』

『お嬢様。っ!。』


 メルティの両手には黒ずくめの男が2人。小柄なメルティが軽々と引き摺っている。

 私を見たメルティは一瞬安堵した表情を見せるも私の顔、多分泣いて赤くなった目を見たことで怒りの表情で男を睨み付ける。同時に両手に持っていた黒ずくめの男達を床に捨てて。


『お前が…お嬢様を泣かせたのか?。』

『っ!?。』


 怒れるメルティに直ぐ様戦闘態勢へ入る男。


『そうか…よくもお嬢様を泣かせたな。殺す…殺す…殺してやる!。』


 メルティが短刀を握り男に迫った。


『はい。ストップ。』

『っ!?。ゼルド様。』

『この男には色々聞きたいことがあるからさ。私怨で殺すのは勘弁な。お前が来たんだ。他は終わったんだろ?。』

『はい。こちらの被害はゼロです。』

『そうか。だとよ。侵入者さん?。この意味お分かり?。』

『………そんな…馬鹿な。ありえん。精鋭50人の部隊だぞ…。』

『まぁ。お前の気持ちも理解できるけどな。ウチが特殊だっただけさ。お前さん運が無かったな。』

『くそっ…。』


 男から戦意が失うのが分かった。


『ああ。それと。メルティ。』

『はい。』

『さっきは止めて悪かったな。だがな、感情に任せて先行すれば良い結果にならないってことは理解できるな。』

『…はい。申し訳ありません。』

『いや、良いさ。はは。怖いおじさんに怒られなくて済んだな。』

『っ!。はい。そうですね。』


 ゼルドがメルティの頭を撫でる。

 メルティは小さく微笑むと一礼して私に駆け寄ってきた。


『お嬢様!。申し訳ありません!。駆け付けるのが遅れてしまい!。怖い思いをさせてしまいました!。』


 抱きつくメルティ。

 未だに状況は理解できないけどメルティもゼルドも私を本当に心配してくれているのが伝わってきて私は…。


『う、う…。メルティ…。私…。う、うわぁぁぁぁぁあああああん!。怖かったよぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』


 私は泣いた。

 メルティに抱きしめられながら。


『さて、さっきお前さんの気持ちは理解できるって言ったけどさ。』


 ゼルドが再び男と向き合った。

 既に現状を理解し膝から崩れている男に。


『俺の大切なお嬢様に手を出したんだ。』

『っ!?。』

『地獄を見せてやるよ。』


 泣いていた私は気が付かなかったけど。

 部屋内が震えるようなゼルドの殺気に男は気を失った。


ーーー


 数10分前。

 屋敷に潜入した50名は数人の部隊に分かれて潜入していた。

 その内の1つでは、今まさに戦いが繰り広げられている。数人の黒ずくめに取り囲まれる中。その中の1人の頭を大きな手で握り潰す男。


『へっ!。弱ぇな!。奇襲するならもっと上手くやりやがれ!。』


 黒ずくめ達は驚愕していた。ナイフや短剣などでいくら斬り付けても男の筋肉質で屈強な肉体には傷1つ付けられない。


 料理長。ガドウ。

 

 そして、一度捕まれれば最期。その太く長い腕と大きな手のひらに握り潰され、肉や骨ごと引き千切られるのだ。


『そう言えば聞いたぜ?。お前等は俺の大事なお嬢を拐いに来たんだってな?。』


 ガドウから放たれる殺気。

 その迫力に震え足の止まった黒ずくめ達。


『生きて帰れると思うなよ?。』


 象とアリ。いや、恐竜とミジンコか。

 戦いにすらならない蹂躙が始まっている。


ーーー


『これで。最後だ。』


 中庭には多くの黒ずくめの死体が転がっていた。その全てが鋭い刃物でバラバラにされている。


『はぁ…。俺の女神に。手を出そうとする。奴等など。木々の肥料になるのが。相応しい。』


 両手に握る刀から滴る血液が地面に落ちる。

 

『はぁ…今夜は。満月か。』


 夜空を彩る星々とそれらを照らす丸い月を見ながら庭師 リオウは不敵に笑った。


『俺の。女神の方が。美しい。』


ーーー


 屋敷内に潜入した黒ずくめの者達。数にして25人は不可解な感覚に襲われていた。

 まるで酒にでも酔ったように足元が覚束無いのだ。軽い目眩や急激な眠気を感じていた。


『ふふ。どう?。クラクラするでしょう?。私特製のお薬なの。真面に立っていられなくなって来たでしょう?。』


 女医。ファルナが面妖な笑みで侵入者達を階段の上から見下ろしていた。


『私の可愛いレティア様にちょっかいを掛けようなんてね。ふふ。はぁ…駄目ね。冷静になろうとすればする程怒りが込み上げてくるわ。』


 次々に倒れる侵入者達。

 昏睡し意識を失う者もいるが、しかし、その殆どが意識を保ち戦闘態勢を維持していた。


『あらあら。頑張るわね。生憎、私は腕っぷしはからっきしなのよ。な。の。で。アリシア。後はお願いね。連中、動けないから。』

『畏まりました。(腹立たしい!。一人残らず殺してやるぅ!。)』


 薄暗かった屋敷に一斉に明かりが灯る。

 意識が残っていた動けない黒ずくめの侵入者達は周囲の状況に絶望することになる。

 エントランス中央にある階段に立つメイド長 アリシア。

 その後ろには屋敷で働く戦闘訓練を受けているメイド達全員が武装して侵入者を睨んでいるのだ。


『さぁ。皆さん。私共の天使。レティア様を苦しめようとする愚かな存在を粛清なさい!。(私の天使を!。絶対に許さないわ!。)』

『『『『『はっ!。』』』』』


 数分後。

 行動不能に陥った侵入者は1人残らず屍に変わった。メイド達にとっては戦闘などではなく、ただ命を奪うだけの作業でしかなかった。

 全ては愛しく大切な家族であるレティアを守るための。


ーーー


『失礼致します。』


 メイドによって開けられた扉。

 王室へと一歩踏み出し深々と一礼するシルヴァ。

 そのまま歩み、自身の仕える主の前に跪く。


『屋敷に侵入したゴミ…失礼。侵入者、50人。隊長格らしき人物を除き防衛に成功。49人全ての排除が完了しました。』

『ご苦労だった。で?。レティアは無事か?。』

『はい。多少、心に傷を負ったようですが無事に保護することが出来ました。侵入者に気付くのが遅れてしまい申し訳ありません。罰は私の首で…。』

『いやいや。そこまでしなくて良い。レティアが無事だったんだ。私はそれだけで満足だよ。』


 余程心配していたのか椅子の上で脱力する男。

 屋敷の主にしてレティアの父。ロノス・ヘイル・フォル・シルシャイン。


『はぁ…今すぐにでもレティアのところに向かいたい。』

『貴方。レティアにはメルティが向かいました。心のケアはあの娘に任せましょう。今は、今回の件のことを話す場ですよ。』


 ロノスの後ろに控えていた女性。レティアの母。アーリナ・シル・フィーナ・シルシャイン。ゆっくりとロノスの横に移動し肩に手を添えた。


『だが…。レティアは今、父親を求め…。』

『あ、な、た?。』

『はい。すみません。』


 こほんっ。と軽く咳払いをするロノス。


『それで?。侵入者から情報は引き出せたか?。』

『現在、ゼルドとファルナが尋問を続けています。口を割らすには時間が掛かるでしょう。ですが、恐らく今回の件。コートに描かれた紋章から裏で蠢く組織。【エルドリオン】が関係していることは間違いないかと。』

『………そうか。やはりな。』

『あらあら。思ったより早かったわね。』

『はい。お嬢様が光属性の魔法に目覚めてから、かの組織が動くと警戒し対策してきましたが…我々の予想より2年程早く動きました。』

『はぁ…。光属性の者を拐い、教祖に仕立てる組織。魔法が開発されて以降、自分達が世界の中心となり支配することを目論む団体だったな。表向きは真っ当な魔法研究機関をうたっているが…。』

『黒い噂ばっかりよね~。』

『はい。今後も警戒を強め、レティア様の護衛、周辺警備を強化させますので。』

『頼む。』

『現時点での報告は以上になります。ゴミ…捕らえた者から情報を引き出し次第、ご報告致します。』


 立ち上がり一礼したシルヴァが扉に向かう。


『ああ。シルヴァ?。』

『………はい。アーリナ様。』


 シルヴァを呼び止めるアーリナ。


『ゴミから情報を搾り取ったのなら呼んでちょうだい。私のレティアちゃんに手を出した愚か者の最期を見たいわ。』

『アーリナ。私 達 のレティアだ…。』

『あん?。』

『すみません。』

『……………心得ました。奥様。』


 退室するシルヴァを見送る2人。


『ふぅ。良かった…本当に。レティアが無事で~。』

『ええ。私達がしっかりレティアちゃんを守らないとね。』

『はぁ…。兄さんにも知らせないとね。』

『ええ。忙しくなるわ。』


ーーー


ーーーレティア自室ーーー


ーーーレティアーーー


 夢を見た。

 見知らぬ男性に押し倒され組伏せられる。

 身動きを封じられた私が薄目で見た男性の視線。私を見下ろす鋭い眼光。全身を突き刺すような殺気。そして…私に伸ばされる黒い手が…。


『きゃぁぁぁぁぁあああああ!!!。』


 起き上がった私。

 

『はぁ…はぁ…。夢…。』


 見渡す部屋の中は自分の自室だ。

 少しずつ記憶が甦る。そうだ…。私…。知らない男の人に襲われて…。


『わ、たし…。』


 涙が溢れてきた。

 私…何の為に努力してたのかな…。

 【あの人】の隣に立てる…並んで歩いても恥ずかしくない立派な女性になるために頑張って来たのに…。弱い人を守れるような強い女性を目指してたのに…。


『何も…出来なかったよぉ…。うぅ…うぅ…。うぐぅ…。』


 悔しさか。安堵か。無力感か。恐怖心か。

 様々な感情が心の中で渦巻いていた。

 友達から貰ったハンカチを握り締めながら私は。その夜、ずっと泣いていた。


ーーー


 静かにベッドの上で泣いているレティア。

 彼女が悪夢によって悲鳴を上げたことに駆け付けたメルティだったがドアの前で立ち止まる。開いたドアの隙間からレティアの悲痛な泣き声が聞こえたからだ。。

 彼女の悲観そうな様子に下唇を噛みしめ、拳を強く握ったメルティは静かにドアを閉めた。

 

ーーー


ーーー屋敷地下牢獄ーーー


 薄暗い地下牢獄に磔にされた侵入者の男。

 身体を薬に蝕まれ意識は混濁。様々な拷問によって全身が傷だらけになっていた。


『さぁ。情報は搾り取った。後は。』

『……………。』


 シルヴァに背中を押された少年が前に出る。


『はぁ…はぁ…。』


 呼吸の荒い少年。

 その小さな手には短刀が握られている。その手は小刻みに震え、一歩一歩と少しずつ男へと近付いていく。


『さぁ。殺りなさい。』

『はぁ…はぁ…はぁ…。』


 短刀の届く距離まで近付いた少年にシルヴァが諭す。


『君が求めたのですよ?。力が欲しいと。』

『っ!。』

『この世界で生き抜き。大切なモノを守りたいのでしょう?。これは、その為の第一歩です。』


 少年の様子はロノス、アーリナ。

 そして、シルヴァ、ゼルド、リオウ、ガドウ、アリシア、ファルナが静かに見守っている。


『はぁ…はぁ…ぐっ!。』


 シルヴァの言葉に少年の目付きが変わる。

 覚悟を決めた者の瞳に。


『わぁぁぁぁぁあああああ!!!。』


 少年の手にした短刀が男の心臓に深々と突き刺さる。大量に噴き出した返り血が少年を含め地面や壁に広がっていった。

投稿は不定期です。

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