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第2話 レティアのお弁当①

 早朝5時から起きて厨房で料理を作る。


 私がこの世界に転生したことに気付いてから早いもので1年が経過した。


 現在、7歳の私。レティア。

 あれから、色んなことを学んだ。

 料理は勿論のこと、礼儀作法や勉強。護身術も、魔法も植物に関することも、医学も。

 けど、まだまだ。 運命の彼 に釣り合う女性には程遠い。


 学ぶことで壁にぶつかることもある。


 前世で女子高生だった私。

 そんな私でも17年という歳月の中で培われた僅かな知識を利用し応用することで壁を乗り越えることもある。

 その度に先生達から褒められることもあった。

 特に料理なんかはお菓子作りが趣味だっだ前世の記憶をフル稼働。料理長のガドウさんですら驚愕し頭を下げるくらいのお菓子を作ることが出来た。

 うん、この世界の食べ物が前世のモノと似ていて良かったわ。


『そう言えばお嬢。そろそろ聞きてぇんだが?。』

『なぁに?。ガドウさん?。』


 隣で朝食の料理をしているガドウさんに声を掛けられる。

 珍しい。普段は料理の最中に口を開くことのない人なのに?。ああ。成程。ある程度、完成してるんだ。

 ガドウさんの調理台の上を確認すると色とりどりの料理が並んでいた。

 いつ見ても美味しそう。


『いや、今日は随分と大量に作ってんだなって思ってな。それ弁当だろ?。1つはお嬢のだよな?。それ以外は誰にやるんだ?。』

『そうだよ!。私の手、小さいから…大きなおむすびが作れないの。だから、これは3つ。これは2つ。これも3つ。』

『へぇ。綺麗に作ったな。大きい弁当箱と小さめの弁当箱。握り飯を主食に卵焼き、ウインナー、小せぇハンバーグか?。唐揚げに…漬け物…。おお、春巻きまであるじゃねぇか。お嬢。すげぇ旨そうに出来たな。握り飯の具は何だ?。』

『えへへ。ありがとっ。中身は~。ひ、み、つ。だよ。食べてからのお楽しみなんだ~。ということで、はい。ガドウさん。』


 お弁当箱に蓋をしてナプキンで包む。

 それを1つガドウさんに渡す。


『は?。もしかして俺に?。俺の為に作ってくれたのか?。』

『そうだよ!。いつも料理について教えてくれてありがとう。ときどき恐い時もあるけど、ガドウさんが料理に真剣なのが分かるから私も頑張れるの。だから、感謝の気持ちだよ。お昼に一緒に食べよっ。…えへへ。改めて、お礼を言うのはちょっと恥ずかしいね。』


 ガドウさんはその場に固まったまま動かない。


『あれ?。ガドウさん?。』


 やがて、プルプルと震えだして。


『うぉぉぉぉぉおおおおお!!!。お嬢ぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』

『わっ!?。』


 大泣きした。


『が、ガドウさん。くすぐったいよぉ~。』


 ガドウさんの太くて大きな腕に抱き付かれる。力強い腕だけど凄く大事にされているのが伝わってきて、とても嬉しかった。


『お嬢~。俺の方こそ、いつもありがとなぁぁぁぁぁあああああ!!!。お嬢の笑顔があるから俺は頑張れるんだぁぁぁぁぁあああああ!!!。』

『うん!。私もガドウさんが居るから毎日が楽しいよ!。お弁当!。いっぱい食べてね。』

『うぉぉぉおおおおお!!!。早く昼になりやがれぇぇぇぇぇえええええ!!!。』

『まだ、朝御飯も食べてないよぉ~。』


 一通り泣き終えたガドウさん。

 昔から感極まると泣いちゃうんだよね。

 凄く恐そうな見た目なのに、子供みたいに涙脆いんだ。


『す、すまねぇ。お嬢。つい…抱きしめちまった。こんなゴツい男に飛び付かれたら嫌だったよな?。』

『ううん。そんなことないよ。ガドウさんは家族だもん。嫌だなんて思ったこと一度も無いよ。それより嬉しい気持ちの方がずっと大きいもん!。』

『お、お嬢…止めろよ。俺を泣かせても腕によりを掛けたデザートしか出ねぇぜ。畜生。目が霞んで来やがったぜ。うぉぉぉぉぉおおおおおお!。』

『嬉しいな!。ガドウさんのデザートも大好きだよ!。』

『畜生!。トドメを刺しに来やがった!。うぉぉぉぉぉおおおおおお!。』


 ガドウさんが喜んでくれて良かったなぁ。

 頑張って作ったんだもん。美味しいって言って貰いたいしね。


『次は~。メルティね。』


 厨房を出たその足でメルティの部屋に向かう。

 時刻は朝の6時。

 メイドさん達は交代制でお仕事をしている。

 この時間。メルティはいつも私を起こしに来てくれているんだけど、今日はお弁当を渡したいからメルティの部屋で待っていて貰ってるんだ。

 ししし。お弁当を渡すのは秘密なの。驚いてくれるかなぁ。


『メルティの部屋にとーちゃくー。』


 メルティは居るかな~。

 …って、あれ?。

 ノックしようと手を上げた時、違和感に気付く。

 ドアが開いてる?。開けっぱなしだ。完璧主義のメルティにしては珍しいね。


『メルティ?。』


 ドアの隙間から部屋を覗き込む。

 もしかしたら留守かな?。

 部屋の中は綺麗に片付けられている。メルティはあまり私物を置かないし欲しがらないから殆ど備え付けの家具しか無いんだけど。


『あ、いた。何してるのかな?。』


 部屋の中にメルティはいた。

 部屋の隅で壁に向かって何かをしてる?。

 何かを抱きしめてるみたいに見えるけど?。何だろう?。


『お嬢様………すぅ…はぁ…好き…。すぅ…はぁ…。』


 ん?。私?。好きって言ってくれたの?。

 メルティ…。普段のメルティはあんまり感情を表に出してくれないから…けど、私のこと好きって言ってくれた。凄く。凄く。嬉しいなぁ。


『メルティ~。私もメルティが大好きだよぉ~。』

『えっ!?。お嬢様!?。どうしてここに…きゃっ!?。』


 感情の赴くまま勢い良く駆け出してメルティに抱き付いた。

 ボフッと音を立てて2人でベッドにダイブした。


『えへへ。メルティ~。』

『え!?。え!?。あ、あの…お嬢様!?。何で…ここに…。』


 メルティに覆い被さる形になった。

 メルティの顔…凄く綺麗…。目も大きくて吸い込まれそう。睫毛長い。唇もプルプル。鼻の形もバランスが良くて…。


『え?。もう!。忘れちゃったの?。待っててって言っておいたのに。』

『あ…勿論、覚えています。いえ、そうではなく。私…ドアに鍵を…。』

『ドア。開いてたよ?。』

『え…。』


 チラリとドアを見るメルティ。

 その顔がどんどん赤くなっていく。


『あ、あの。お嬢様…何処から聞いてましたか?。』

『お嬢様大好きのところ。』

『はぅ!?。』

『メルティ~。私も大好き~。』

『わっ!?。お、お嬢様っ!?。』


 その時、メルティの手に握られている ある

モノに気が付いた。


『それ…ぬいぐるみ?。私に似てるね!。』

『っ!?。………はぃ…お嬢様と…ずっと一緒に居たくて…作りました。………ぅぅ。恥ずかしい…。』

『凄い。上手だね。』

『………夜、寝れない時など…これを抱きしめて寝るとお嬢様が側に居るような感じがして眠れるんです。気持ち悪いですよね…。すみません…。』

『そんなことないよ!。』

『お嬢様?。』

『えへへ。ちょっと待っててね。』


 急いで部屋に戻って あるモノ を取ってくる。


『じゃーん。これ見て。』

『…私…です…。』

『そうだよ!。私も実は作ってたんだ。メルティ人形。』

『え?。ですが、お部屋を掃除したときは何処にも…。』

『ふふふ。隠し場所があるんだよ!。私もメルティと一緒に居たいもん。そうだ。メルティ。』

『は、はい。』

『これから夜に寝られない時は一緒に寝よう。』

『えっ!?。』

『私が寝られない時はメルティを呼ぶね。メルティも寝られない時は遠慮しないで私の部屋に来てっ!。』

『………良いのですか?。』

『問題ないよ!。』

『………嬉しい………。』

『あっ。そうだ。ここに来た目的。忘れるとこだったよ!。はい。これ。』


 メルティに持ってきたお弁当を渡す。


『これは?。』

『お弁当。お昼に食べよっ!。』

『お嬢様が?。』

『うん!。頑張って早起きして作ったんだ。メルティの口に合ってくれると良いけど…。』

『お、お嬢様が作ったモノで食べられないものなどありません!。有り得ません!。』

『そ、そう?。』

『はいっ!。』

『け、けど。苦手なモノとかは言ってね。メルティも大事な家族だから好き嫌いとか色々知っておきたいから。』

『お嬢様が関わったモノならば苦手などという概念はそもそも存在いたしません。メイド、及び従者とはそういうものなのです!。』

『そ、そうなんだ。メイドさんって凄いんだね。』

『はい。』

『あっ。それでね。メルティ耳貸して。』

『はぅ。お、お嬢様のお顔がぁぁぁ…。』


 ヒソヒソ。ヒソヒソ。


『良い?。』

『はぃ…畏まりました。お嬢様…。』

『やった!。宜しくね。』

『はい。お嬢様。大好きです。』

『えへへ。私もだよ!。』


 メルティにお弁当を渡せた。

 さて、次は~。


 コンコン。

 しーーーーーん。

 コンコン。

 しーーーーーん。


『あれ?。』


 コンコン。

 しーーーーーん。

 コンコン。

 しーーーーーん。


 反応なし。

 けど、これくらい想定内だよ。


『おじゃましま~す。』


 静かにドアお開けて中に潜入。

 真っ白い部屋の中には幾つもの医療器具。

 床には色々なファイルや紙が散乱中。

 長くて大きいソファーをベッド替わりにして眠っているファルナ。


 掛け布団がはだけて…下着姿が露になってる…。凄い…エッチなレースの下着…。流石ファルナね。スタイルも ボンッ、キュッ、ボンッ! だし、寝ていてもエッチ過ぎるよ。

 しかもこの下着…殆ど透け透けなんですよ?。わかります?。レース以外の布の部分なんか極僅か、最小限しか無いの!。

 私なら恥ずかしくてつけれないよ…。


『ファルナ。ねぇ。起きて。』

『すぅ…すぅ…すぅ…。』


 起きない。

 揺すっても、頬っぺたペチペチしても。


『んーーーーー。レティア様ぁ~。』

『え?。わっ!?。』


 寝ているファルナに布団の中に引きずり込まれた。一瞬でファルナの腕の中。私、抱き枕にされちゃった。凄くいい匂いがするし、何?。このお饅頭?。水羊羹?。プリン?。そんなモノを連想させてしまう大きな…大きくて柔らかいクッションのようなおっぱいが私の顔に押し付けられて…く、苦しいぃよ…。


『ふぁ、ふぁぅあ。うぉいて。』(ファ、ファルナ。起きて。)

『んーーーーー。レティア様~。好きですよ~。』

『ふぁふぁひお~。ふひ~。』(私も~。好き~。)

『ん?。あれ?。レティア様?。』

『ふぁ、ふぁぅあ。おふぁおう。』(ファ、ファルナ。おはよう。)

『はい。おはようございます。ですが、何故、レティア様は私の抱き枕になっていらっしゃるのですか?。』

『わわんあい。』(分かんない。)

『ふふ。でも、レティア様は柔らかくて小さくて抱き心地が良いですね。ずっとこうしていたい。』

『あわああいおあ、ふぁぅああお。』(柔らかいのは、ファルナだよ。)

『ふふ。レティア様~。いい匂い。』

『ほえお、ふぁぅああお。う、うういぃ…。』(それも、ファルナだよ。う、苦しい…。)

『あらあら。ごめんなさい。』


 ファルナの胸から解放された。

 ちょっと名残惜しいけど。苦しいからまた今度お願いしよう。


『それより、どうなされました?。お体の具合は…良さそうですが?。』

『うん!。元気だよ!。今日はね。ファルナに渡すものがあって来たんだぁ。』

『あら?。何かしら?。』

『えへへ。これだよ。じゃーん。お弁当~。』

『あらあら。それをレティア様が?。私に?。』

『そうだよ。早起きしてね。日頃からお世話になってる人達に作ったの。お昼に食べよ。』

『ああ。嬉しいです。ありがとうございます。最近、お料理の上達が目まぐるしく向上しているとガドウも褒めていましたよ。』

『うん。頑張って練習してるんだ。ガドウさんも優しくて色んなことを教えてくれるの。』

『ふふ。そうですか。では、お昼にご一緒しましょう。』

『うん!。いっぱい食べてね。』

『は~い。ああ。もう!。可愛すぎですよ。えい。』

『わっ!?。』


 再び。ファルナに手を引かれて大きなお胸に顔からダイブ。むにゅ~~~ぅぅぅうううって感触が顔全体に伝わってきた。


『レティア様は本当に良い子ですね。』

『そ、そうかな?。』

『そうですよ。だから、守ってあげたくなっちゃうんです。きっと、運命の人もレティア様の優しいところに惹かれてくれますよ。』

『えへへ。ありがと。嬉しい。私、もっと頑張るね!。』


 ファルナの部屋を飛び出して次に向かったのは、お庭。広い…。見つけるのも大変かな?。けど、この時間ならいつもあの辺のいる筈~。…あ、居た居た。


『リ~オ~ウ~。』

『え?。天使?。』

『え?。何処に?。いるの?。』

『あ。いえ。気のせい。お嬢様。おはようございます。』

『ほ。そうなんだ。びっくりした~。おはよう。リオウ。今日も早いね。』

『ええ。植物。様子見ないと。いけない。から。』

『リオウは偉いね。』

『いえ。仕事です。から。それより。この時間に。どうしました?。』

『うん。リオウにね。渡したいモノがあって来たんだ。』

『俺に?。お嬢様が?。』


 取り出したるはお弁当。

 男の人には、おにぎり3つだよ。


『お弁当。これ。お嬢様が?。』

『うん。お世話になってる人達皆に作ったんだ。お昼に食べよ。』

『………。お嬢様の。手作り。』

『そうだよ。早起きして頑張ったんだ。苦手なモノとかあったら言ってね。食べてあげるから。』

『っ!?。それは…つまり。お昼に。』

『うん。一緒に食べよ。』

『二人き『皆で。』。………はぃ。』


 じーーーーーっと。

 お弁当の箱を見つめているリオウ。

 

『ど、どうしたの?。何か…あった?。』

『いえ。お嬢様が。俺の為に。作ってくれた。お弁当。食べるのが。勿体無く。思い。どうすれば。保存出来るか。考えて。いました。』

『ええー。食べてよー。』

『はい。食べます。…。いえ。家宝にします。末代まで。』

『腐っちゃうよ!?。』

『ですが。あまりにも。俺には…。』

『また、作ってあげるからお昼に一緒に食べよっ!。』

『はい。分かりました。』


 ふふ。リオウも喜んでくれたよ。

 今のところ順調、順調。

 次は~。ああ~。いたいた。あっ…でも、忙しそう…。

 メイド長のアリシアが他のメイドさん達に指示を出してる。次々に、あちこちに動き回るメイドさん達に的確に指示を出してる姿は凄く格好いい。

 邪魔しちゃ悪いよね…でも、アリシアとも一緒にお弁当食べたいし…。

 そうだ。


『貴女!。背筋が曲がっています!。旦那様の前でもその様な姿勢をするつもりですか!。』

『貴女は無駄な動作が多すぎます!。もっと周囲を見て状況を確認しなさい!。』

『終わりましたか?。では、次は………。』


 アリシアの透き通るような声が響いてる。

 うう。タイミングが難しいなぁ。


『アリシア~。』


 物陰からこっそり呼ぶ。

 聞こえるかな?。


『ん?。レティア様?。』

『皆さん。暫く持ち場を離れます。私が居ないからといってサボらないように。』


 メイドさん達にそう言ったアリシアが私の近付いてくる。

 良かった。ちゃんと聞こえてた。


『レティア様。おはようございます。このような早朝に、このような場所で如何なされました?。』

『おはようございます。アリシア。忙しいところにお邪魔してごめんなさい。』

『いいえ。私は貴女様に仕える従者です。貴女様の呼び出しに即座に赴くのは当然のことです。(はぁ~。こんな朝早くからレティア様を見られるなんて。今日は素晴らしい1日になるわ。)』

『えへへ。いつもありがと。』

『いいえ。当然のことですので。(はぁ~。天使だわ~。)』


 アリシアの鋭い目が私を見てる。

 けど、その中に優しさも含まれているから全然恐くないよ。ちょっと緊張はするけど…。


『あのね。アリシア。』


 んーーー。何故か凄くドキドキする。日頃の感謝を伝えたいだけなのに…。


『はい?。何でしょう?。(もじもじしてるレティア…楚々るわぁ~。本当に、このまま自室に連れ帰って思いっきり甘やかしたいわぁ。)』

『あのぉ…こ、これ。受け取って欲しいの!。』


 ええい。勢い任せだ。

 何か告白するみたいに緊張したけど。


『あら?。これは…お弁当…ですね?。』

『う、うん!。いつも、私に色んなことを教えてくれているアリシアに作ったの!。お昼に一緒に食べようと思って!。』

『……………。(ズキューーーーーン!!!。)』

『あ、アリシア?。あの…いらないなら…。』


 無言のアリシアの凄味に圧されて、差し出したお弁当を引っ込めようとした。


『要ります!。』

『っ!?。そ、そう。』


 物凄い速さで私の手の中からお弁当が消える。


『ご一緒するのもご承知致しました。つまりは我々従者と共に昼食を食べたい。ということでしょうか?。』

『う、うん。中庭でね。一緒に食べたいなぁって。』

『分かりました。手配いたします。(楽しみすぎるわぁ。)』

『あ、ありがとう!。一緒に食べようねっ!。』

『はい!。勿論です!。レティア様。最高の紅茶を用意してお持ちいたします。(くっ!。お昼まで、まだ5時間以上ある。何という長い午前中でしょうか…。)』

『うんっ!。楽しみにしてるねっ!。』


 アリシアに抱きついて精一杯喜びを表現する。


『はうっ!。(このまま、お持ち帰りしたい…。)』


 アリシアにも渡せたし、次は…。

 

 部屋の前に着くと、また自動でドアが開いた。


『お待ちしておりました。レティア様。お出迎え出来ず、申し訳御座いません。』

『え?。良いよ。私が勝手に来たんだもん。ゼルドが謝ることなんてないんだよ。』

『それは、それは。レティア様の寛大なお心、私の胸に刻んでおきましょう。』

『むぅ。そうじゃないのにぃ…。』


 もっと親しくなりたいのにね。

 いっつも、こんな感じ。


『でね。ここに来たのは…。』

『存じております。』

『え?。』

『中へどうぞ。執事長がお待ちしておりますので。』

『私がここに来た理由…知ってるの?。』

『はい。お弁当を届けに来ていただけたのですよね?。レティア様の手作りの。』

『え!?。どうして分かったの!?。』


 背中に隠していたお弁当を2つ。

 その1つをゼルドに渡す。

 

『執事長が仰っていましたので。お迎えにあがれなかったのも、レティア様なら直接渡しに来たいとお考えになると思い。僭越ながら部屋の扉の前で待機させて頂きました。』

『うん。びっくりさせたかったから…。けど、知ってたんだね。残念。』

『いいえ。執事長含め私も、レティア様のお考えを聞いた時は大変驚きましたよ。あの、か弱かったレティア様が、朝、早起きして我々の為にお弁当を用意して頂けるまで元気になられた。当時を知っている我々使用人にとってこれ程嬉しく喜ばしいことはありません。レティア様の優しさが詰め込まれたお弁当。このゼルド、このお弁当を末代までの家宝とさせて頂きます。』

『ええ!。ゼルドもっ!?。』

『おや?。この崇高なる考えに至った同種が以前にもいたのですか?。』

『うん。リオウが…。』

『ほぉ。彼ですか。確かに彼ならばやりかねない。ですが。レティア様。私こそがレティア様の…『ゼルド。いい加減にしないか。』…おっと失礼しました。執事長がお持ちでしたね。レティア様。どうぞ此方に。』


 何を言おうとしたのかな?。

 ちょっと恐くて聞けないよ…。


『レティア様。おはようございます。』

『おはよう。シルヴァ。』


 部屋に入ると入り口で待っていたシルヴァが頭を下げてきた。

 つられて私も頭を下げる。


『もう知られちゃってるみたいだから。これ渡すね。はい。シルヴァのお弁当。』

『これは、これは。ありがとうございます。レティア様のお心遣いに感謝致します。』

『お心遣いじゃないよっ!。私からの感謝の気持ちなのっ!。』

『これは失礼致しました。このシルヴァ。反省致します。』


 深々と頭を下げるシルヴァ。

 むぅ。シルヴァは嬉しそうにしてくれない。

 迷惑だったのかな?。


『それでね。ちょっとお願いがあるの。』

『畏まりました。手配致します。』

『え?。まだ、何も言ってないよ?。』

『主である貴女様の従者ですので。当然です。貴女様の従者全員を集め昼食を中庭で行いたい。そうで御座いましょう?。』

『う、うん。当たってる。』

『では、場所と設営を準備致します。』

『あ…うん。宜しくね。』

『はい。ゼルド。お嬢様をお送りしなさい。』

『はい。執事長。』

『シルヴァも来てね。』

『畏まりました。』


 シルヴァに見送られ、廊下をゼルドと一緒に歩く。

 私は胸の中でも渦巻いている悩みを打ち明けた。


『ねぇ。ゼルド。』

『はい?。何でしょう?。』

『シルヴァ…お弁当、嬉しくなかったのかな?。』

『はは。そんな顔しないで下さい。大丈夫ですよ。』


 ゼルドは立ち止まって、しゃがむと私に視線を合わせてきた。


『執事長。ああ見えて凄く。嬉しそうでしたよ?。従者ですので表には出しませんが。』

『そう…なの?。』

『はい。ご安心下さい。』

『そっか…喜んでくれたんなら…うん。良かった。』

『ええ。我々従者の為にレティア様がしてくれたのです。皆、嬉しい気持ちでいっぱいですよ。』

『うん!。私も嬉しい!。』


 あと、残ったお弁当は3つ。

 次に渡す人は離れの別塔に住んで貰っている人。


『ゼルド。』

『畏まりました。既にお話は通してあります。お部屋でお待ちですよ。』

『えぇ…もしかして、またシルヴァ?。』

『はい。その通りです。』


 敵わないよ…。

 私のすること全部分かってるんだもん。


『では、私はここでお待ちしています。』

『ごゆるりとお過ごしください。』

『うん。大丈夫だよ。すぐに戻るね。』


 塔の前に着くとゼルドが入り口で止まった。

 ここは、魔法の研究に携わる人間でないと立ち入り禁止なの。


 と言うのも。離れにある別塔は、主にお父様方が魔法の研究を行っている場所。

 この国の王様から直々に命令を受けて、国全体の援助のもと魔法の研究、魔道具の開発を行っている。

 私のお父様は、ここの最高責任者であり、数多くいる【魔法使い】の中で最高位の【火】の属性を操る【魔法騎士】の称号を王様から与えられています。


 そんなお父様の指揮下にある【魔法塔】。

 私はそこで【光】魔法の特訓を日頃から頑張っています。


 コンコン。

 とある部屋の扉をノックする。

 すると静かに扉が開き中からメイドさんが現れた。

 私の顔を見ると微笑んで中に通してくれた。


『やあ。おはよう。レティア。珍しいね。こんな時間に私の所を訪ねるなんて。』


 金髪のイケメンが私を見て微笑んだ。


 色々な人に会ったけど、まだ朝の7時前。

 流石に早いよね。けど、皆が起きているのが凄いよ。前世の記憶でもこんなに朝早くから家族が全員起きているなんて無かったし。


『おはようございます。アリティオお兄様。』


 スカートの裾を持ち上げ頭を下げる。


 この人の名前は。


【アリティオ・アクア・クォール・エンパルメラ】


 この国の第一王子であり、近々、【水】の属性の【魔法騎士】の称号を与えられることが決まっている次期国王。私の1つ年上の従兄弟にあたる人です。

 年齢的な問題で称号を得られるのが学生の高等部になってからという決まりがあり、それまでは保留という形になっています。

 若くして、この国で五指に入る程の魔法の才覚を持ち、その腕をお父様に見込まれ臨時で私の魔法の先生になって頂いています。


『あの…実は、お兄様にお渡ししたいモノがあります。』

『私に?。』

『はい。日頃から魔方について教えて頂いているお礼です。良かったら、お昼にどうぞ。』

『これは…お弁当だね。レティアが作ったのかい?。』

『はい。日頃からお世話になっている方々に…。』

『そうか。嬉しいよ。ありがとう。』


 そう言ってお弁当を受け取ってくれたアリティオお兄様は私の頭を優しく撫でてくれました。1つしか年齢の変わらないのに、その手は大きくて優しい感じがします。


 ゲームでのアリティオお兄様は、レティアが主人公と結ばれなかった後日談を描いたレティアが主人公の乙女ゲームでの攻略対象でした。

 本編にもちょくちょく出てくるのですが、あまりレティアとは仲良くなかったのか…いつも素っ気ない態度で接していました。


『レティア。』

『はい?。』

『頑張るのは良いことだけど。頑張り過ぎるのはダメだよ?。レティアが倒れたら皆が心配するんだ。勿論、私も。』

『はい。お兄様。けど…運命の人に釣り合う女性への道は長く険しいのです。だから、努力は惜しみません。けど、はい。皆さんに心配させたくないので、気を付けます。』

『うん。運命の人か…。その方は幸せ者だね。レティアがこんなにも頑張ってくれているのだから。』

『えへへ。はい!。いつか会える日が楽しみなんです!。』

『ふふ。応援しているよ。』

『ありがとうございます。』


 頭を撫でてくれていた手が離れ、そのまま私の頬を撫でる。

 アリティオお兄様は凄く優しい表情で私を見ていた。


『本当に…幸せ者だね…。羨ましいよ…。』

『お兄様?。』


 お兄様は小さな声でそう言った。


『あの。お兄様?。お昼をご一緒出来ませんか?。』

『すまない。今日はこの後、王城に戻らないと行けないんだ。』

『あ。そうなんですね。ごめんなさい。忙しいのに時間を取らせてしまって…。』

『気にしないでくれ。レティアに会えるのが私の楽しみでもあるんだ。…お弁当、ありがとう。お昼に頂くよ。』

『っ!。はいっ!。えへへ。沢山食べて下さい!。』


 最後にもう一度頭を撫でられて、アリティオお兄様とはお別れです。


 これで後、お弁当は2つ。お父様とお母様の分です。

 そろそろ朝食の時間。私がゼルドに連れられ食堂へと向かった。


 テーブルの上に並べられたガドウさんの料理の数々。

 私の向かえの席にお父様とお母様。

 後ろには使用人の方々が、並んで立っています。

 暫く食事を進め、そろそろ食べ終わる頃。


『メルティ。』

『はい。』


 私はメルティを呼びます。

 予め、打ち合わせしていたので準備もバッチリです。


『お父様。お母様。お二人に渡したいモノがあります。』

『ん?。何かな?。改まって。』

『あらあら?。何かしら?。』


 メルティはお父様とお母様に一礼し、私の作ったお弁当を手渡していく。


『あら?。これは?。』

『お弁当かな?。』

『はい!。私の手作りです。』

『っ!?。レティアの!?。』

『あらあら。レティアちゃんの?。嬉しいわ。』

『えへへ。』


 やっぱり両親に喜んで貰えると嬉しいね。


『それで…あの…良かったら…なんですけど…。』


 うぅ…緊張するなぁ。

 特にお父様は忙しいから…無理言ってしまうよね…。でも、せっかく準備したし…。


『皆で一緒にお昼をお庭で食べたいなぁ…と、思ったの…。』

『あら!。皆で一緒に?。』

『はい。日頃からお世話になっている方々には既に了承を頂いてまして…。お弁当…私が作ったの皆で食べたいなぁって…。けど…お父様もお母様も忙しいから…無理させちゃうから…。』


 あれ?。何か…涙が…。


『安心しなさい。レティア。』

『そうよ。私達のことを考えてくれて、ありがとう。』


 気付くとお父様とお母様が目の前に立っていた。


『お父様?。お母様?。』

『大丈夫だ。誰が何と言おうと私達にとって最も優先することはレティア。お前のことだよ。他の奴がどんなことを言ってこようと私達は自分が一番大切に思うことを後回しにはしない。それがレティアのお願いなら尚更さ。』

『ええ。レティアちゃんが頑張って準備をしてくれたのだもの。それを断るなんて有り得ないわ。だから。』

『一緒にお昼を過ごそう。』

『っ!?。うん。お父様。お母様。』


 両親に抱きしめられる。

 はぁ…レティアは本当に幸せ者だわ。

 皆に大切にされて。


 こうして、本日の昼食は私の用意したお弁当をお庭で皆で食べることとなった。

 えへへ。ちょっとしたピクニック気分。

 ゲームのレティアも…きっとこんな感じで幸せだったのかな?。

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