第1話 転生してから
ゲーム【エンパシス・ガーデン】。
転生する前の私が日本という国に住んでいた時にプレイしていたゲームの名前。そして、信じられないけど転生した今の私がいる世界でもある。
年齢指定ゲーム、俗に言うエロゲ。
私は弟の部屋にこっそりと忍び込んで、ちょろっとソフトを拝借。PCにインストールして静かに元の場所に戻したゲーム。
悪いことしてる?。ええ。自覚はあるわ。
けど、遊びたかったんだもん。
家族には黙ってたけど前世の私は…まぁ…その、アダルトゲームが好きで良くプレイしていたわ。趣味だったんだもん。
しかも、あのゲームは 超 が付く程の人気作。
発売当初から予約が殺到、予約に失敗し買えなかった私はネットでの購入を試みるも価格が凄いことになっていて手がつけられなかったの。
表情や態度には出していなかったけど弟が手に入れたことを知った時は羨ましすぎて発狂しそうになったわ。
何度もベッドの上で転げ回り床に落ちたか分からないし。
膨大なボリューム。
恋愛シュミレーションゲームでありながら、RPG要素があり、やり込み要素が凄いのだ。
RPGが苦手な人用にストーリーだけを楽しめる設定もありユーザーに合わせた遊び方が出来るところも評価を高めた。
設定良し、世界観良し、シナリオ良し、CG良し、キャラクター良し、サウンド良し、歌良しと人気声優によるキャラクターの兼ね合いやギャグ要素も多く、人気アニメやゲーム、漫画のオマージュも多数盛り込まれプレイヤーを飽きさせない内容で星5を勝ち取ったゲームだった。
舞台は、科学と魔法の両方が発展した世界。巨大な大陸【エンパシア】で繰り広げられる。
エンパシアで最も強大な力を持つ国家【エンパルメラ】では魔法の研究が盛んに行われていた。
魔法という技術が発見され200年あまり、今では生活の一部となっている魔法技術の更なる発展が人々に望まれ、国も総力を上げ魔法開発に奮闘している…そんな世界。
よって、貴族主義という古い考えは鳴りを潜め如何に魔法の開発で成果を上げたかで立場が決まる。一般人でも才能があれば魔法開発に携われ、逆に成果を出せなければ立場のある者でも一般人へ成り下がる。
他国も魔法開発に尽力している以上、より魔法で成果を出せた国家が実権を握る…そんな設定だったような?。
まぁ、恋愛ゲームだからそんな殺伐とした設定はストーリー内には、あんまり出てこなかったけどね。
私が転生してしまったキャラクター【レティア・シル・フィーナ・シルシャイン】は、【エンパシス・ガーデン】を代表とするメインヒロインで、ゲームのパッケージでセンターを飾る代表的なキャラクター。可憐で美しく可愛らしいデザイン、性格の良さ、声の良さ、レティアルートにおけるヒロイン力の影響で瞬く間に人気ランキング1位を独占した。
【エンパシス・ガーデン】を知らない人達でもレティアのキャラだけは見たことあると言われる程世間で知れ渡っていたキャラクターなのだ。
そのあまりの人気っぷりは、レティアを主人公に据えた乙女ゲームが開発、発売される程。
はぁ…イベントは勿論素晴らしいの一言だったし、イケメン達のスチルは最高だったわ~。
続編での人気投票も不動の1位を記録。
全年齢版では、まるまる1つのストーリーが追加されるなど運営にも気に入られていたキャラクターだったのだ。
さて、今姿見の前で私の思った通りに動きを合わせてポーズを取ったりくるくる回ったりしている幼い天使…レティア。
『はぁ~。本当に幼いレティアだ~。可愛いすぎる~。』
本当にあのゲームのレティアに転生したことを実感する。
前世の記憶を取り戻した今の私には、もちろんレティアの今までの記憶、生まれてから6歳までの記憶がある。そして、前世の記憶を思い出したことでこの世界がゲームだったことを思い出した。
思い返せば…お父様も、お母様も、メイド見習いのメルティーも、執事長のシルヴァもゲームで登場していたキャラクターだった。
じゃあ、【あの人】も…いるかもしれない。
そんな想いが、ふと…よぎる。
数多くのキャラクターが登場した【エンパシス・ガーデン】。
主人公であるキャラクターに始まり、続編に継ぐ続編により最終的にヒロインは20人もいる。サブキャラクターまで含めると100人を優に越えるだろう。サブキャラクター1人にしても人気声優、ベテランの声優を起用する本気っぷりも人気になった要因だろう。
その中でも私が特に推していたキャラクター。主人公視点で終始物語の進む内容であっても私はヒロインよりも、そのキャラクターが大好きだった。
それは…主人公の【友人】キャラクター。
普段は主人公とふざけ合い、ヒロイン達には下ネタなどの発言で嫌われていたよくある【喋らなければそこそこ格好いい。】【いつまでも いい人 止まり】な友人枠のサブキャラクター。
主人公にヒロインの好感度などの情報や休日の居場所などストーカーもビックリする程の個人情報を所有し主人公とヒロインが結ばれるよう陰ながら手助けをしているキャラクターだった。
主人公とは唯一無二の親友同士。
設定では苛められていた彼を主人公が救ったことが切っ掛けで親友になったと語られていた。
前世の私はそんな陰ながら主人公を助ける彼の方が格好良く見えたんだ。そんな彼は、主人公がヒロインと結ばれた後も天涯孤独という設定だった。
続編に当たるレティアが主人公となる乙女ゲーですら、彼は攻略対象のキャラクターではなかった。私はそれが凄く悔しかった。
主人公とレティアのハッピーエンドの1つは、皆に祝福され教会での結婚式で幕を閉じる。その披露宴にも彼は出席していた。主人公との会話では笑顔で祝福の言葉を伝えていた彼だったがレティアとの会話で一瞬ではあるものの立ち絵が暗い表情のモノに変化していた。運営側の意図的なものなのか偶然のバグなのか。結局最後まで修正されることもなかった。
もしかしたら、彼はレティアのことが好きだったのではないか。私はそう思った。
『…ちょっと待って…。この世界で彼がいるなら…もし、この世界の彼もゲームのようにレティアのことが好きなら…。もしかして…両想いになれるんじゃない?。』
私は彼が好き。
もし、この世界が本当にエンパシス・ガーデンの世界で…彼がレティアを…私を好きになってくれるのなら…。
『私…彼と…結ばれたい。ううん。絶っ対!。結ばれるんだっ!。』
誰のルートだったか?。
エンディングの1つに彼が【魔法騎士】の称号を与えられたと語られていた筈…。
そうだ。彼は大出世するんだ。誰もが認める国の最高戦力。富も名声も力も全てを手に入れる凄い人…。
なら、私はそんな彼の隣に並べる…いえ…幸せな未来を共に歩めるくらいの立派な淑女にならなくてはいけない。
巡り巡った思考の末に私は決心を固めた。
目指すは、彼の横に並んでも見劣りしない淑女。
『こうしちゃいられないわ!。早速、色々なことを学ばなくちゃっ!。』
私は部屋を飛び出してお父様の部屋へ向かった。
ーーー
コンコン。小さなノックをする。
6歳の小さな手じゃあまり音が響かないわね。けど、聞こえてはいたみたいでメイドさんが扉を開けてくれた。
『これはレティア様。旦那様にご用事ですか?。』
『はい。お父様はいますか?。』
『はい。少々お待ちください。』
メイドさんが部屋の中へと戻っていくと暫くして『どうぞ。お入り下さい。』と中へ入れてくれた。仕事中でしたか?。
『おお。おはよう。レティア。良く来たな。』
『おはようございます。お父様。』
スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀。
お父様。
名前は【ロノス・ヘイル・フォル・シルシャイン】。
世界に5人しかいない【魔法騎士】に任命された1人で国を代表する【魔法研究】の最高責任者。
『して、こんな朝早くにどうしたんだい?。朝食はさっき食べていたようだが…体調はもう良いのかな?。』
『ええ。最近調子が良いの。』
『そうか、それは良かった。』
元々、身体の弱かったレティア。
けど、前世の記憶を思い出した私は今までの不調が嘘のように健康体そのものになっていた。
『あの…ね。本日は、お父様にお願いがあって来ました。』
『ほぉ。お願いか…。レティアにしては珍しい。良いぞ。何でも言ってみなさい。』
やったっ!。普段から良い子で身体の弱かったレティアはあまり自分の主張をする子ではなかった。
きっとお父様はもっと我儘を言って欲しかったのかもしれないわね。
『はいっ!。私、これから 運命の男性 と出会うので、それまでに色々なことを身に付けたいのですっ!。』
『そうか。そうか。運命の男性か…それは素晴らしい考え…はぁっ!?。』
ひっくり返り驚くお父様。
今…頭からいったわね…。大丈夫かな?。
メイドさん達も口を押えて驚いてるし…私…変なこと言ったかな?。
『その…運命の…男性というのは…誰のこと…か…聞いて良いかな?。』
『えっ!?。それは…その…恥ずかしいのですが…私がずっと以前より恋い焦がれている男性に…これから出会うのです。なので、その方に会う前に作法や料理などを身に付けておきたいのですっ!。』
『………その者の名前を聞いても良いか?。』
『実は、お名前まではまだ確信が持てなく分からないのです。』
『そうか…。なぁ、レティア。お前はその者と…その…将来、添い遂げたいと考えているのか?。ああ。添い遂げるというのは…。』
『ご心配なく。意味は分かります。つまり、結婚したいかということですよね?。勿論です。私は彼と結ばれる為にこの世に生まれたのですっ!。彼になら全てを捧げても良いと考えていますわっ!。』
『そ、そうか…。なぁ、レティア。やはり、まだ身体の調子が良くないのではないか?。』
『?。問題ありませんが?。』
『そ、そうか…まぁ、花嫁修業は良いことだな。うん。将来の為に様々なことを身に付けるのも良いことだ。うん。けどな。お前はまだ6歳だぞ?。少し早くないか?。結婚などという話は…。』
『何を言うのですかっ!。遅いくらいです!。こうしている間にも彼は素晴らしい男性に成長しているのですよっ!。そんな彼と共に歩めるような淑女を目指すのに早すぎるなんてことはありませんっ!。』
『あ…はい…すみません。』
『良いではないですか。貴方。』
『ん。ああ。アーリナ。しかしな。』
『お母様。』
【アーリナ・シル・フィーナ・シルシャイン】。私のお母様です。
『レティア。』
『はい。』
『その方…のことを愛しているのですか?。』
『はいっ!。心から。』
『ふふ。私達は貴女が選んだ選択を否定したり反対したりはしません。』
『お母様…。』
『ですが、後悔のないよう進みなさい。貴女の望む未来を手にする為に。』
『分かりましたっ!。全力で頑張りますっ!。』
お母様は優しい笑顔で私の頭を撫でてくれました。
『アーリナが言うのであれば…うぅ…仕方がない。【魔法】を教えることに関しては、お前に適任がいる。もっと先の話だと思っていたのだが…準備をしていたのが仇になったようだ…くっ…『貴方?。』はい…都合が付き次第会わせよう。』
『っ!。ありがとうございますっ!。』
『料理や作法等に関してはレティアの専属達に通達しておく、彼等に教えて貰いなさい。』
『はいっ!。お父様っ!。色々とありがとうございますっ!。私、頑張りますっ!。』
私は走って扉まで向かう。
やった!。これで彼に相応しい淑女への道へ一歩近付けたわ。
『どうした?。レティア?。』
一度足を止めた私に不思議そうな顔をするお父様。
改めてお礼を言わないと、この嬉しい気持ちをそのまま伝えないと。
『本当にありがとっ!。パパっ!。大好きっ!。』
『ぐはっ!?。パパ呼びの破壊力よっ!?。』
『あらあら~。』
私は扉を開け廊下に出た。
ーー
『なぁ…アーリナ。』
『はい。貴方。』
『私の…レティアは大丈夫だろうか!?。突然、婚約者の話とか!。悪い夢でも見たのだろうか?。』
『私 達 のレティアですよ。貴方。』
『おっと、失敬。しかし、どうして急にあんなことを言い出したんだ?。思えば儀式を行った次の日くらいから様子がおかしかった気がするんだが…。』
『そうね…。もしかしたら【光】の系統に目覚めたことで【未来予知】のような魔法が身に付いたとか?。ほら、うちの地下書庫に納められている魔法のことが記載されている本があったじゃない?。あの本によると【光】の系統の魔法は護り、治癒が得意と書かれていたけど。【未来】を見るような力を発言させら方もいると書かれていたわ。』
『レティアがその力に目覚め。自分の未来の伴侶の姿を見た…ということか…。』
『ええ。しかも、凄く好みの方だったんじゃないかしら?。あんなに…はしゃいでいたレティアは初めて見たもの…本当に元気になってくれて良かったわ…。』
潤む瞳を拭うアーリナ。
『仮にそれが真実だとして…はぁ…。流石に早いんじゃないかなぁ?。6歳の1人娘に…未来の伴侶に会った時のことを話されるとは考えてもいなかったよ。ああ…心の準備がぁ…。』
『よしよし。もう、いつまでも子離れ出来ないとレティアに嫌われちゃうわよ?。』
『それは…嫌だな…いや、そんなことになったら死ぬぞ。』
『それに決めたじゃない。あの娘が選んだ人がなら反対せずに受け入れましょうって。』
『確かに決めたが早すぎるんだよぉ~。まだ学園にも通ってないのに…。はぁ…いったいどんな奴なんだ。レティアの心を射止めたのは…。』
『そうねぇ~。私も興味があるわ~。どんな殿方なのかしら。あの娘を夢中にさせる男性かぁ…。』
『考えるだけで頭がおかしくなりそうだ。メルティ。』
後ろの陰に潜んでいたメルティが姿を現す。
『【レティア大好きクラブ】及び【レティアを陰から護り隊】の面々に伝令を頼む。これからのレティアの行動、発言は全て詳細に記録せよ。特にレティアの【想い人】に関係する情報は一語一句漏らすなと。全員へ伝えろ。』
『はっ!。【想い人】に関しては我々も入手したい最重要情報です。全員死ぬ気で取りかかることでしょう。』
『頼もしい限りだ。本日、深夜。レティア会議を執り行う。全員出席せよ。』
『はっ!。』
忍者のように姿を消すメルティ。
『ふふ。楽しみねぇ。』
『私は胃が痛いよ。』
ーーー
『ガドウさん!。』
厨房に立ち寄った私は料理長である【ガドウ】さんに話し掛けた。
筋肉隆々、スキンヘッド、長身、髭面、強面と料理人には見えない風貌だけどとっても優しい人。
見た目に判してガトウさんが作る飴細工は、太くて大きな指先からは考えられないくらい繊細な動きで芸術的に作られる。
得意な料理はお菓子という可愛らしい方なのだ。
『おうっ!。お嬢っ!。何か食べたいものでもあるか?。お嬢の為なら何でも作ってやるぜ?。』
『えへへ。ありがとっ!。ガトウさん。』
ガドウさんが調理台に置いてある完成したばかりのショコラケーキの上に綺麗な飴細工の蝶々が乗せられた。
『やっぱり、いつ見てもガドウさんのお菓子は見た目が綺麗ねっ!。味も美味しいし、私、大好きよっ!。』
『へっ。お嬢にそう言って貰えるように頑張ってんだ。その…なんだ…ありがとな。これからもお嬢の為に旨いもん沢山作ってやるぜ!。』
『うん。嬉しいわっ!。』
ガドウさんの周りをくるくると跳び跳ねる私の頭をガドウさんが優しく撫でてくれた。ガトウさんから甘い香りがするわ。
『身体の弱かったお嬢が、こんなに元気になってくれて俺は嬉しい。前は儚くて消えちまいそうで…気が気でなかったが…本当に元気になって良かったなっ!。』
寝たきり、部屋に籠りっぱなしだった私にいつも健康に良い食事を作ってくれていたガドウさん。私の身体を誰よりも気遣ってくれていたんだと改めて実感する。
『ガドウさん…。うん。ありがとっ!。それと…いつも美味しい料理を作ってくれて、どうもありがとうございますっ!。』
『おいおい…お嬢。何なんだぁ?。今日は…俺を泣かせる日か何かか?。』
『あっ!。そうだっ!。ガドウさんにお願いがあって来たの?。』
『ん?。お願いだぁ?。晩飯のリクエストか?。その前に昼食が先だろう?。』
『えへへ。違うわ。そうね…改めて説明するのは恥ずかしいのだけど…。』
何て切り出そうかなぁ?。
あっ!。そうだ。
『あのね。私にね【運命の人】がいるの。その人が喜んでくれるような美味しい料理を作ってあげたいの。だから、ガドウさんに料理の作り方を教えて欲しいの。』
『はっ!?。お嬢に運命の人だぁ!?。ソイツは何処の馬の骨だぁ!?。俺のお嬢を誑かせたクソ野郎は何処のどいつだ!。』
『えへへ。まだ…直接会ってないの。いつか、もう少し大人になったら必ず会えるんだぁ。だから、それまでに色んなことを学んで彼が好きになってくれる女性になりたいの!。』
『がぁっ!?。がぁぁぁあああああ!?。聞きたくねぇ!。聞きたくねぇ!。はっ!?。そう言えば…メルティが言ってたことって…このことか?。』
『もう、駄目だよ。ガトウさん。フライパンに穴開けちゃ。』
『なぁ。お嬢?。』
『なぁに?。』
『そのクソ野…その運命の人って奴のこと詳しく教えて貰って良いか?。どんな奴なのか?。どんな生活をしてるのかとか?。』
『えっ!?。う~ん。聞きたい?。』
『いや。聞きたく………聞きたい。教えてくれ。』
『えへへ。良いよ。ええっとね。』
ーーー
やった。ガトウさんに料理を教えて貰えることになったわ!。
彼の好きな料理は熟知してる。少ない会話を紐解き彼の情報を余すことなく網羅した私に不可能はないわ!。
と、いう訳で次は…。
コンコン。
『は~い。どうぞ~。』
『お邪魔しま~す。』
『あら?。レティア様。お一人で珍しいですね。どこか身体の調子が悪いのですか?。』
医療器具が並ぶ白い部屋にいる白衣の女性。
私の身体を診察してくれるお医者さん。
名前はファルナさん。とってもスタイルの良い大人の女性。
『いいえ。体調は凄く良いです。』
『そう。良かったわ。顔色も良いし、うん。美人なレティア様がますます可愛いわね。』
『えへへ。ありがとうございますっ!。』
『それで?。今日はどうしたのかしら?。』
『その…ファルナさんにお願いがあってきたの。』
『お願い?。』
『う~ん。お願いって言うより教えて欲しいことあるの。』
『あら?。良いわ。私に分かることなら、どんなことでも教えてあげます。』
『本当っ!。やった!。』
皆、優しいな。
レティアというキャラクターが、あんなに良い娘に育った理由が何となく分かるわ~。
『それで?。レティア様は何が知りたいのですか?。』
『あのね。男の人が喜ぶこと。教えて欲しいなぁ。』
『はえ?。』
ーーー
えへへ。色々聞けちゃった。
やっぱりファルナさんは凄いな。男性経験豊富ってゲームで言ってたもんね。でも、もう許して下さいって最後の方泣いてたけど…どうしちゃったのかな?。
『ん?。お嬢様?。』
廊下で出会った青年。
庭師のリオウだ。植物のエキスパートで何でも知ってる凄い人なの。
『あっ!。リオウっ!。何処か行くの?。』
『庭の。草木の。手入れ。です。』
『そうなんだ。ちょうど良いわ。リオウ。お願いがあるの。』
『お願い?。お嬢様が?。僕に?。』
『ええ。私にね。男性が喜びそうなお花のことを教えて欲しいの!。』
私の言葉を聞いた途端、ピキンッ。と一瞬空気が凍った気がした。
『お嬢様。誰かに。プレゼント。するのか?。』
『今すぐって訳じゃないの。あのね。私ね。【運命の人】がいるの。その人に喜んで欲しくて、お花なら部屋に飾れると思って…駄目?。』
『ぐっあっ!。』
上目遣いでお願いしたら胸を押えて倒れるリオウ。
『ど、どうしたの!?。』
『いえ…。天使が。いて。』
『え?。何処に?。』
『いえ。何でも。ありません。その。俺で。良ければ。教えます。花のこと。』
『本当っ!。やった!。』
『代わりに。その。暗殺対しょ………運命の人。のこと。教えて欲しい。花の。好みとか。色の。好みのとか。』
『ええ。良いわ。どうもありがとうっ!。リオウ!。大好きよ!。』
『がはっ!。』
『ど、どうしたの!?。急に倒れて?。』
『め。女神が。いた…。』
ーーー
コンコン。
『はい。』
部屋のドアをノックすると中から綺麗な女性が出てきた。凄く若い見た目なのに凄みのある眼光。きっとこの人の前じゃ嘘なんかすぐバレちゃうんだろうなぁと思わされるくらいの風格のある方。
年齢不詳のメイド長。アリシア。
『こんにちは。アリシア。』
『あらあら。レティア様。如何なされましたか?。』
『あのね。少し長くなりそうなんだけど。今、時間貰っても大丈夫?。』
アリシアと話す時って緊張するんだよね…。
『構いませんよ。私は貴女様の従者です。貴女様が望めば何時間でも話を聞くことも出来ます。』
『えへへ。ありがとっ!。』
『いいえ。当然のことです。(…可愛い…)。』
『ん?。何か言った?。』
『いいえ。何も。(…抱きしめたいわぁ…)。』
『そう?。』
『それで?。私にどのようなご用事ですか?。』
『あのね。私にね。【運命の人】がいるの。』
『あらあら。初耳ですね。どんな方なのですか?。』
『あの…ちょっと恥ずかしいのだけど…。』
私は知っている限りの 彼 のことを教えた。
『成程。本当に好きなのですね。その方のことが…。』
『うん。大好きっ!。』
『うっ…。(…天使…)。』
『それでね。アリシアにお願いなの。私にね。もっと淑女としての振る舞いを教えて欲しいのっ!。彼が私を好きでいてくれるような。立派な淑女にっ!。』
『畏まりました。ですが、既に立ち振舞いのお稽古はしている筈ですが?。』
『もっと本格的なのを教えてっ!。』
『そうですか。ですが、本格的なモノになりますと今まで以上に覚えることも練習量も多くなります。辛いことも沢山あることでしょう。それでも宜しいのですか?。』
『うんっ!。彼と並んでも恥ずかしくない人間になりたいからっ!。』
『………。分かりました。貴女様の覚悟ある瞳。感銘を受けました。このアリシア…全身全霊を持って貴女様に指導いたします。』
『ありがとっ!。』
私はアリシアに抱き付いた。
柔らかい女性らしさと凄く良い匂いがした。
『はぁ~。(幸せですわ~)。』
『アリシア?。』
『いえ。何でもありません。』
ーーー
私が次の目的の人物がいる部屋の前まで行くとノックする前にドアが独りでに開いた。
『こんにちは。レティア様。お待ちしていましたよ。』
眼帯で左目を隠した執事【ゼルド】が笑顔で向けてくれた。
『え?。何で私が来ることが分かったの?。』
『ああ。執事長がそろそろ来る頃だと仰ったので。』
『シルヴァ?。』
ゼルドの横から部屋の中を覗き込むと執事長のシルヴァが私のところに歩いてきていた。
『お待ちしておりました。レティア様。』
『え?。あ…うん?。何かあった?。』
『何かがあったのは貴女様で御座いましょう?。私達使用人は主の考えを先読みし常に主を支えるのが仕事ですので。』
『そ…そうなんだ。凄いね…使用人さん達って…でも、いつも、ありがとっ!。』
『いえ。礼は不要です。貴女様の願いを叶えるのが私共の役目です。ですが、貴女様の優しさ。しかとこの身、この心に刻みました。』
『うんっ!。それでね。私ね。』
『説明は不要です。』
『え?。何で?。』
『執事ですので。貴女様が私共の部屋を訪れた理由。護身術を学びたいでお間違いありませんか?。』
『えっ!?。凄い…当たってる。』
『当然です。ゼルド。』
『はい。レティア様。私が貴女様に指導致します。詳しいことは後程お伝えしますので。』
『あ、はい。ありがと?。』
何か淡々と進んでいってる。
『部屋までお送りします。まだ、ご用事がおありでしたらお付き合い致しますが?。』
『ううん。大丈夫。ここで最後だったから。』
『そうですか。では、お部屋まで参りましょうか。』
私はシルヴァにバイバイと手を振ると深く頭を下げてお出迎えをしてくれた。
皆、了承してくれた。
よ~し。明日から本格的に頑張るぞぉ~。
ーーー
深夜。
ちょうど日付が変わった頃。
その部屋には複数の人の気配がしていた。
円卓に置かれた椅子。その前に置かれたランタンに灯が灯る。
『皆、良く集まってくれた。それでは各々集めた情報を提示してくれ。』
『ふふふ。素直に自分の考えを皆に伝えるなんて…レティアちゃんは本当に良い娘だわ~。』
【レティア大好きクラブ】及び【レティアを陰から護り隊】の会長と副会長であるレティアの両親が集まったメンバーに問う。
『じゃあ。まず俺からだな。お嬢は…くっ…運命の人に…夢中だ。大切な人に手料理を振る舞いたいだと…言っていた。くそっ!。何処のどいつなんだ?。その幸せな野郎はっ!。ぶっ殺してやりたいぜっ!。』
『私怨は止めたまえよ。料理長。して、何か情報は得られたのかね?。』
『ああ。どうやら、【彼】とやらはパスタが好きらしい。しかも唐辛子ソースで辛みを付けたのが好みらしい。あとは、甘いものもいけるらしいな。お菓子の作り方を教える約束をした。お嬢のあの小さな手で作られるお菓子か…食ってみてぇ~。』
『成程な。貴重な情報だ。礼を言う。では、次だ。』
『はいは~い。次は私ね。レティア様にはビックリよ。今までのレティア様じゃないみたいなの。』
『どういうことだ?。』
『レティア様はまだ6歳でしょ?。レティア様から私にしてきた質問の数々。とても6歳の女の子がする質問じゃなかったのよ。』
『ふむ。どんな質問だったのだ?。』
『普通の子供なら 子供ってどうやって出来るの? とか、ちょっと返答に困るような質問がたま~にされる程度なのよ。けどね。レティア様の質問は 男性が女性にされると喜ぶことを教えて欲しい だったのよ?。』
『あらあら。大胆ね~。』
『レティア…大人になってしまったんだね…。』
『その後も…ちょっと口では言えないような…エッチな質問を沢山されたの…地獄だったわ…。』
『お疲れ様。それで?。他には何か【彼】に関しての話をしていたのか?。』
『そうね…彼の性癖が分からないけど。どんなことをすれば喜ぶかなぁ?。…って天使のような笑顔で尋ねてきたわ…。』
『…レティアぁぁぁあああああ!!!。』
その後も、庭師は運命の人を暗殺しようと計画書を提出するも拒否され、メイド長はレティアの成長に実の娘のように喜びの声を上げた。執事、執事長から1日のレティアの行動、発言が報告され情報が共有されていく。
結局のところ、レティアはまだ【彼】には出会っていないということが分かる。
【彼】が誰なのか、何処にいるのかは謎のままだった。
しかし、困った人を放っておけないという優しい性格だということだけはレティアとの会話の中で見えてきた人物像である。
『今後も些細なことでも良い。何か情報を掴んだらメルティに報告してくれ。情報が集まり次第再び会議を執り行う。』
『『『『『『はっ!。』』』』』』
会議はこれにて解散となった。
ーーー
一方、その頃のレティアは夢の中にいた。
『んーーー。むにゃむにゃ。◼️◼️◼️~。早く会いたいよぉ~。むにゃむにゃ。大好き~。』
…と幸せそうな寝顔で寝言を言っていた。