第7話 レティアのクリスマス②
『さて、皆、昨夜は良く寝れたかな?。私はぐっすりだったよ。何せ、夜中に私の可愛い天使…こほん。もとい、妖精さんが訪ねて来てくれたんだ。しかも、見ろ。このネクタイ。日頃の感謝と大好きという言葉も添えられたプレゼントをくれたんだ。私はもう幸せの中で眠りにつくことが出来たよ。ああ、すまない。決してこれは自慢ではないんだ。ただ幸せを分かち合おうと思ってね。』
【レティア大好きクラブ】又の名を【レティアを陰から守り隊】。
レティアの有志を募った家族ぐるみのストーカー集団である。
毎日、毎週、毎月。レティアに対する情報の共有を主な題材とするその集まりは、既に朝方だというのに一致団結して今日も集合していた。
主催であるレティアの父、ロノス・ヘイル・フォル・シルシャインは先程レティアにプレゼントして貰ったネクタイを寝間着の上から着け大切そうに撫でていた。
『ふふ。浮かれているところ申し訳ありませんが…貴方。妖精さんが訪ねて来たのは貴方だけではないのですよ?。』
『なん…だと…?。』
その喜びを遮るように言葉を発したのはレティアの母、アーリナ・シル・フィーナ・シルシャイン。
腕に着けている ある物 をうっとりとした表情で見つめている。
『これを見て下さい。綺麗なブレスレットでしょう?。私と貴方、そして 私の天使の 誕生石が埋め込まれているの。ずっと一緒だよって、ああ、健気ね。私の大切な宝物よ。』
『馬鹿な。私の所だけではなかったのか…まさか、君たちの所にも?。』
ロイスの視線がこの場にいる全員に流れる。
『はい。旦那様。このゼルドにも妖精さんは舞い降りて下さいました。見て下さい。この腕時計を。此程までの品をレティア様は私目の為に用意して下さいました。改めて私目はあの御方に忠義を尽くさなければと心に刻んでいたところに御座います。』
『ぐっ…。まさか、私以外にもいたとは…。』
『俺っちの所にもなっ!。可愛らしい妖精さんが来やがったぜ!。見ろよこれ。お嬢が何年も掛けて書いてくれたお菓子のレシピのノートだ。一文字一文字にお嬢の優しさが詰まっていてよ!。涙で最後まで読めねぇんだよ!。チクショウめ!。』
『ぐおっ!?。手作り100%だと!?。』
『俺のはマフラーだ。女神の手編み。最近は寒いからな。これを着ければ女神の温もりを感じられるんだ。』
『私も感じるよ。このネクタイからね。ふむ…ということは、シルヴァも?。』
『ぅ…お嬢様…立派になられて…。』
主人であるロイスの後方に立つシルヴァは静かに泣いていた。
彼の首から下げているロケットペンダントが二つになっていた。
一つはシルヴァの亡くなってしまった家族写真が、もう一つにはレティアとシルヴァで撮った写真が納められている。
「私もシルヴァの家族だからね。これで寂しくないよね?。私は来年には学園に行っちゃうけど。これで、ずっと一緒だよ。」
と、レティアはシルヴァの首に掛けてくれた。
その瞬間から今に至るまでシルヴァの手には常に少し湿ったハンカチが握られていた。
『くっ…あのシルヴァまでも虜にしてしまうとは、私の妖精さんはとことん罪づくりなのだな。』
『私 たち のね。』
『あ…はい。すみません。けど…君もさっき私のって…。』
『何か?。』
『あ…何でもありません。』
その場の全員がレティアからのプレゼントを大切に持っていた。
『ふぅ。まぁ、しかしだ。そろそろ本題に入ろう。こほん。皆に問いたい。我々も貰ってばかりではいられない。そうは思わないか?。』
『確かにそうね。レティアちゃんは事あるごとに色んなプレゼントを用意してくれるから。おこづかい…あまり自分の為に使っているのを見たことないのよね。』
『日頃の感謝だと言ってくれるが。俺たちの方が女神に感謝している。』
『おうよ!。お嬢がいるから毎日が充実してんだ!。』
『ふむ。そこでだ。我々から日頃の感謝を込めてプレゼントを贈りたい。しかし、私たちはレティアの好きなモノ…つまり、求めているモノが分からない。』
『必要なモノは言ってくれるし。レティア様、欲しいものは自分で用意出来ちゃうものね。』
『皆は知らないか?。レティアが欲しがっているモノを?。』
その場の全員が首を横に動かす。
『そうか…しかし、私たちの勝手な判断で用意したプレゼントがレティアのお気に召さなかったら…ショックで私は寝込むぞ。』
『まぁ、レティアちゃんなら何でも喜んでくれそうだけどね。』
『けど。やっぱり贈るなら喜んで欲しいじゃない?。』
『仕方ないわね。貴方。サプライズではなくなってしまうけれど、レティアちゃんに直接聞いた方が早いと思うわ。』
『うむ…そうだな。皆もそれで良いか?。』
今度は全員が頷いた。
『決まりだな。メルティ。どんな手段を使っても構わん。レティアが望むモノを聞き出してくるのだ。勿論、金の心配はない。上限もない。レティアが求めれば国だって兄さんから奪ってみせる!。』
『それはレティア様が喜ばないかと。』
『当たり前だ。ゼルド。ただの冗談だからな!。それくらいの覚悟と想いがあるということだ!。』
『成程。』
『頼んだぞ。メルティ。』
『了解しました。』
全員の前から姿を消すメルティ。
『さて、メルティがいない間に『戻りました。』え?。』
一分にも満たない時間で戻ってくるメルティ。
その異様な速さに全員の目がメルティに集中する。
『メルティ?。もう聞けたのかい?。』
『はい。レティア様は自室にいましたので、ちょちょいと質問して戻って参りました。』
『お、おう…そうか。ちょちょいと…か…こほん。それで?。レティアは何を欲しいと言っていたんだ?。』
『それは…。』
『それは?。』
ーーーーー
12月25日!。クリスマス!。
雪の積もった屋敷のお庭に集まった私の家族。
朝、メルティが私の部屋に突然やって来て、プレゼントのお礼がしたいので何か欲しいモノは無いかと聞いてきました。
そんなの別に良いよぉ~と断ったんだけど、家族皆の総意なんだって。
だから、私は一番のお願いをしたのでした。
『お母様。凄く似合ってます!。』
『そ、そうかしら?。うぅ…この歳でこんな短いスカートを履くなんて思ってなかったわ。それに胸もこんなに開いて…。恥ずかしい…。』
『自信を持って下さい。奥様。まだまだお若いじゃありませんか。ほら、レティア様と並べば親子というより姉妹にも見えますよ!。ふふ。奥様。なかなかエッチな下着ですね。』
『きゃっ!?。ちょっとファルナ!?。』
『奥様…可愛いです…はっ、失礼しました。私が奥様の盾になります。』
『アイシアも似合っているわ。普段からメイド服姿しか見ていなかったから新鮮ね。それに屈むとアイシアの下着が丸見えよ?。』
『構いません。私の下着など大した価値はありませんので。』
『けど、お尻は綺麗な形よ~。』
『きゃん!?。ファルナ!。急に触らないで下さい!。』
『えへへ。うん!。お母様もアイシアも可愛い!。えへへ。頑張って作って良かった~。』
『レティア様。私は?。私は?。』
『ファルナは…いつもの方が露出が多いから…んん…似合ってるけど…んん~。うん!。可愛い!。』
『何ですか!?。その微妙な感想は!?。』
『レティア様!。準備完了です!。』
『……………うん。メルティも可愛いね…トナカイの着ぐるみ…。』
メルティにも用意したのに…。
何故かそっちを選ぶんだもんなぁ…。
露出が顔以外ゼロのトナカイメルティ可愛いよ?。可愛いけど…何か求めてたのと違うよぉ!?。
そんな訳で女性陣(メルティを除く)には私と同じミニスカサンタのコスプレ衣装を着て貰いました!。
皆、普段とは違う服装でとっても新鮮だよ!。
『成程。これが本当のサンタクロース?。という方の衣装なんだね。』
『暖かいな。』
『それにしてもこの付け髭は必要なのでしょうか?。執事長に至っては髭の上に髭を着けておいでですが…。』
『そうだよ!。白髭のおじいさん!。それがサンタクロースなの!。皆!。似合ってるよ!。』
男性陣にはサンタクロースのコスプレ衣装を用意しました!。
『俺のサイズまでピッタリかよ!。お嬢!。マジですげぇな!。』
『えへへ。当然だよ!。家族だもん!。』
『女神…陽の下で見るその麗しきお姿…うっ…鼻血が…。』
『もう!。リオウまで鼻血出すの止めてね。朝からメルティが真っ赤に染まった床で倒れて大変だったんだから!。』
『メルティに先を越されるとは…。』
『しかし、レティア。こんなことで良いのかい?。もっと我儘を言ってくれて良いんだよ?。』
『え?。凄い我儘を言ったつもりだったのですが?。皆の時間をお借りしちゃったし、私の服にも着替えて貰っちゃったし…。』
『んん…レティアが満足なら良いんだけどね?。』
『はい!。満足です!。』
『そうか。その笑顔が見れただけでも良いかな?。』
『えへへ。私今とっても嬉しいですよ!。』
『そうか…ならこれ以上は言わないよ。さて、皆、そろそろ並ぼうか。』
私を中心に両隣にお父様とお母様。
その後ろを囲うように皆が並ぶ。
『それでは、皆様。宜しいでしょうか?。』
『オッケーだよ!。』
メイドさんの一人がカメラを構える。
そう。私のお願い。欲しいものは家族皆で取る記念写真。
『では行きますね。3、2、1。ハイ!。』
『えへへ。んん~。えいっ!。』
『おっと!。レティア!?。』
『きゃっ!。レティアちゃん!?。』
メイドさんがシャッターを押すタイミングに合わせてパパとママの腕に抱きつく。
笑顔の私と私の行動に驚く皆の姿が一枚の写真に納められていた。
私の家族との思い出の写真。
大切な宝物がまた一つ増えた瞬間でした。
えへへ。皆と過ごす最高のクリスマスでしたぁ。
投稿は不定期です。




