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Case1「運命の出会い」-6

 呼び止められたのもあってあまり離れすぎないよう駆け足気味にブラッディ・メアリーの背を追い、カジノに入れば昨日同様豪奢な装飾と賑やかな音に囲まれる。平時なら気分が浮かれそうになるがそんなことはしていられない現状、遊びにはあまり目が向かない。


「肩の力は抜いた方がいいわよ。そう警戒しっぱなしじゃ疲れるでしょう」


 くすりと私の様子を見てブラッディ・メアリーはそう言うが不安そうな表情が拭えなかったのか、眉を下げた。


「まあ、無理もないわね。今回は話を聞きに行く相手が相手だから私しか話さないし、無理に何かをする必要や貴女が交渉する必要は無いから隣で話を聞いていてくれれば大丈夫よ」


 そう言いつつ、壮年のディーラーのいるテーブルに着く。ディーラーはちらりと私とブラッディ・メアリーを見ると表情を和らげた。


「おや、貴女でしたか。本日はどのゲームを致しますか?」


「じゃあルーレットで。当たったらチップの代わりに聞きたいことがあるんだけどいいかしら」


「私に答えられることでしたら。チップはちゃんとお受け取りください。そちらのお客様も遊んで行かれますか?」


 賭博師というだけあってディーラーとは知り合いなのだろう、気さくな会話をしているのを見ていたが急に話を振られ首を慌てて横に振る。


「勿論答えられないことは答えなくていいわ。こっちの子は見学だから、私の分だけね」


 ブラッディ・メアリーのフォローもありディーラーの目は私から離れた。一瞬だけ人を品定めするように見た気がしたのは気の所為だろう。


「了解致しました。では……どこに賭けますか?」


「折角ならストレートアップにしましょうか。見学者もいる事だし」


 軽やかな手つきでベッティングエリアの7の位置にオレンジのチップが十数枚積まれる。確かオレンジのチップは1枚で25000ドルだが、そんなことは気にも止めていないかのような仕草に目眩を覚えそうになる。


「分かりました。では他の参加者もいませんので賭けを締め切りボールを回しますね」


 ディーラーの手から零れ落ちた玉がホイールに乗り、カラカラと音を立てて回る。

 賭けられた金額が金額だけに息を飲んで見守っていると、まるで示し合わせたかのように7の位置に玉は止まった。


「す、すごい……」


「おめでとうございます。流石ですね」


 思わずブラッディ・メアリーを見るとニコリと微笑まれた。


「これくらいはね……と、言いたいけど毎回ってわけじゃないから運が良かったってことで。

 約束通り、質問しても?」


 毎回じゃなくても口調やディーラーの反応からすれば相当当たるのだろう。運も実力もあるというのは伊達ではないようだ。

 しかし今回の目的は別にある為感心しつつもまずはディーラーに向き直り、話を聞く姿勢に戻る。


「ええ。何をお聞きになりたいのですか?」


「このカジノにやたら顔のいい金髪青目の20代くらいのディーラーの新人って最近入った?もしいるなら名前を教えて貰えるといいんだけど」


 彼はその質問に一瞬動揺したように見えたがすぐに平静を取り繕い、答えてくれた。


「ホテルの従業員はともかく、ディーラーは新人を暫く雇っていませんよ。貴女の知っている者しかいないでしょう」

「ただ、最近顔のいいディーラーに関する噂はホテルスタッフ内全員に密やかに広がっています。

 スタッフは誰一人見たことがないのに、お客様のアンケートや話で聞いている程度ですが……」


「ホテル側はそれに対して何か対処してないの?」


「それがどのお客様も記憶が曖昧であったり、明確な内容が書いてあるという訳でもなく『顔のいいディーラーにいいおもてなしをしてもらった』『詳しいことは忘れたもののいい思いをしたことは覚えている』など……。今のところ悪印象を与えている訳では無い分上層部も静観しか出来ないのが現状ですね」


 いい噂しかないから下手に取り締まることも難しいし、そもそもスタッフが確認できてない時点で扱いあぐねているようにも感じる。

 気になるのはスタッフが確認できないという点だ。このホテルはそこまで人員不足であるようには見えないし、誰か一人くらいは見ていてもおかしくないのに誰も見ていないという不気味さに軽い恐怖を覚える。


「気味が悪いわね。それ調べようとした人とかいないの?」


「いるにはいます、若者はそういうことが好きですからね。ですが誰も彼もが調べることを途中からぱったり辞めてしまってますよ。何でも存在しない部屋があったとか言って、あまりに怯えて仕事を辞めてしまった者もいます」

「もし、今でも残っている者の証言が聞きたいならスロットの近くに控えているダンというディーラーに聞いてみてください」


「分かったわ、ありがとう」


 ディーラーに礼を言ってから少し離れると、ブラッディ・メアリーにそっと耳打ちをされた。


「さっきの話には嘘が混じってるから鵜呑みにはしないで。彼は何かを知っている側の人間よ」


 思わず声を上げそうになり慌てて口を塞ぐ。声を潜めて周りに注意しながら聞き返した。


「ど、どういうことですか?」


「どうもこうも、彼はディーラー達の取りまとめ役みたいなポジションだからホテル側の味方なわけ。ホテルに不利益なことはできる限り言わないわ。

 ただ、その一方で大金を落としてくれる客も大事だから全ては言わずともヒントは与えてくれたわね」


 大金を落としてくれる賭博師は確かにカジノのスタッフ視点では太客だから無碍にできないということか。兎にも角にも、何も情報がないよりはマシだろう。

 一人で納得しているとブラッディ・メアリーが唐突にこう切り出した。


「ダンの所に話を聞きに行く前にエージェントのサービスに関してオーナーが言っていなかったことがあるんだけど、聞きたい?」

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