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Case1「運命の出会い」-3

「まず、BAR Cock Tailそのものに関してだけれど、基本店が空いているのは夕方の6時から夜中の4時まで。

 それ以外の時間は普通のお客さんは入れないよ。

 君のように、合言葉を知っている人やエージェント達なら別だけどね」

「それから、昨日は他のお客さんが居なかったからカウンター越しに話をしても問題なかったけれど、依頼内容によっては人に聞かせられないようなこともあるから大抵は今いるこの部屋で話を聞くことになっている」


  改めてこの部屋の内装を見ると、そこまで広い訳では無いが使われているものを見れば値の張りそうなものばかりだ。私では到底手が届かないような値段の家具だと今更気付く。

  どんな厄介事でも引き受けるという辺り、人に言えない内容だからこそセレブとかも来るのだろうか。応接間としては最低でもこれくらい揃えておかなければならないのかもしれない。


「で、もう1つのサービスの方だけど。

 ざっくり言えば人材斡旋業?みたいなものかな。

 猫探しやレンタル彼氏から、時には犯罪まがいの行為、それとあと理屈を超えるようなことを起こしたり……そういうことができる人間を紹介してるっていうのが1番近いだろうね。

 彼らはこのサービスの仕事中はエージェント名か、あるいは偽名を名乗る。プライベートがそれぞれにあるし名前を知られたら困るような者もいるし、まあ事情が様々だから皆統一しちゃった方がいいよねということでそういう決まりを敷いてる」

「ちなみに紹介料は貰ってないよ。これは私の趣味で行っている慈善事業だから私自身に何か依頼しない限りは対価は発生しない。

 ただ、エージェント達には対価が必要だ。だから彼ら自身と相談してどう支払うかを決めてもらう形になってる。

 これは金に限らず、物だったり何かの権利だったり、あるいはその依頼人の笑顔だとか色々あるよ。

 まあ、職業的に副業禁止の人とか金に価値を見出してない人相手には金銭のやり取りはできないし、依頼人側も支払い能力がない場合もあるから上手くその辺りは擦り合わせてね、といった感じだね。

 ここまでで何か質問はあるかな?」


  対価云々は私も今お金が無いので助かりはするし、犯罪まがい……に関しては私は何も聞かなかった振りをした。ただでさえ昨日のことがあるのに聞いてこれ以上何かに巻き込まれるのは勘弁だ。

  それよりも理屈を超えるだとか、あのディーラーも言っていた奇跡とかそちらの方が気になる。

 人間離れしたことができる人間なんて確かにテレビで紹介されてたり、動画アプリやSNSで自分から披露したりしてるような人はいるとしても、身近でパッと思い当たるようなものでもない。そもそもそういう人と知り合いで力を借りることが出来る仲というのもなかなかないものだろう。


「……あの、理屈を超えるようなことを起こすってどういう事ですか?確かに奇跡がどうこうとも私も聞きましたが」


「ああ、それね。実際に見ないと信じ難いかもしれないけど手品でもなんでもなくそういうことができる人がいるのは確かだよ。

 ただ、彼らは人との接触を避けてる人も多いから必要な時にしか来てくれないし、今回はお目にかかれないかもしれないな」


「なるほど……?」


 少し引っかかるがよほど運のいい人とか、あるいはエクソシストとかよく当たる占い師とかそういうのだろうか。確かに今回は必要とはしていない。色々ありすぎて何かに取り憑かれてると言われたらそれはそれでありそうではあるが、非現実的だ。


「あと、初めての人には基本的に『XYZに雄鶏の尾羽(コックス・テール)を添えて』って合言葉しか教えられてないと思うけど、特定のエージェントに頼み事をしたい場合はXYZの部分にそのエージェントのコードネームを入れれば直ぐにこちらが連絡を取ることになっているよ」

「XYZと言う時は私に頼み事がある時か、あるいはどのエージェントに頼めばいいか分からない時だと覚えてくれていればいい。頼み事によって頼るべき人は変わるものだから気軽に使ってくれてもいい」

「他にも、文言を付け足せば自分の置かれてる状況を伝えることで的確な対応を取らせて貰うことになっている。

『ミントも添えて』なら追われているので匿うのも兼ねて欲しいとか、『ソーダ割りで』なら急ぎの用だとかそういうのもあるけどこの辺りの一覧は後でまとめてある紙を渡すね。多いからすぐには覚えられないだろうし」

 

 なんだか秘密組織の暗号みたいだ。流石に子どもっぽいと思われたくないから口にはしないけれど少しわくわくする。


「最後に、この合言葉はうちの店以外にも知り合い……まあ彼らもエージェントなんだけどその人たちの店でも使うことが出来る。アメリカだけじゃなく、イギリスと日本、それから中国にドイツ……結構色々といるから使える店も先程言っていた紙に載せているよ。ちなみに紙は助けをを必要とする人以外には見えないから安心していい。

 これで軽い説明は終わったけど、大丈夫かな?」


 これで軽い説明なのはともかく、聞いてる限り一介のバーのオーナーがやっていいことじゃないというか何者なのだろうと思ってしまう。国を跨いで活動するようなことが……いやまああるのかもしれない。いろんな依頼人がいるんだろうし。


「私はただのオーナーに過ぎないよ。ちょっと知り合いが多いだけさ」


 考えを見透かすように笑いながら彼は言うが、ふと見ると説明の間控えていた2人も笑うのを堪えていた。


「声に出ていたよ。笑っちゃってごめんね、そう言われるのは慣れてるけど本当に普通のなんでもない人間なんだ」


「それだけの伝手があるだけなんでもない人間ではないと思いますけどね」


 オーナーの言葉にナイトキャップがすかさずツッコミを入れた。本当にその通りだ。普通の人間がそんなに顔が広いわけが無い。


「まあまあ、それは置いといて。ここまで聞いた上で改めて、君は依頼をする?今ならまだしない選択もできるよ」


 正直怪しむ部分はある。しかし美味しい話には食いついておきたい。


「依頼、したいです。昨晩は確かに酔っていたけどケイティ……友人のことはともかく、解雇のことに関してはよく分からないことが多すぎて私1人ではどうにもならないし真剣に考えているの。

 それに襲われたことも思い当たることがないから本当は頼みたいのけれど……あまりにも頼みすぎな気がするからやめておくわ。こちらには旅行で来ているから、一週間の間に友人の方が解決しない方が困ってしまうもの」


 頼みたいのはやまやまだが完全に信用ができる訳じゃない。護衛を頼んで裏切られでもしたらと思うと、また恐ろしい目に逢うのは勘弁だ。

 何となく意図を理解したのか、オーナーはふむ、と呟いてからこう提案してきた。


「なら、お試しということで三日ほどで襲撃者とご友人さんのことを調べてそれが信用に値するものなら君が解雇された件を請け負う……というのは?

 お試しの間はお金を取るようなことをしないエージェントに調査を任せればいい。今なら丁度いい人材が目の前にいるしね」


「おっと、俺のことを言ってます?確かに俺はこの件に関しては『丁度いい』ですけどね」


 アイ・オープナーが肩を竦めてそう言う。何か含みがある言い方だ。ただ、確かに私を助けてくれたらしい彼なら他の人より安心して任せられる。


「本当ならしっかり護衛のできる者を呼んだ方がいいんだろうけど今の君はそこまで私達のことを信用していないだろう?

 だから調査を軸に置いた上で、彼に君の行くところに同行してもらう。あくまで同行であって、君が望めば彼は距離を取るしこの件に関してアイ・オープナーが裏切るということは極めてないに等しいからね」


 実質的な護衛だが危害を加えない姿勢を見せる分、信用に値することを示したいということか。ケイティのことに関しても私が話したり、案内したりする必要があるし効率も悪い訳では無い。


「その条件で私は構いません。ええと、お代は……本当にいいんですか?」


「俺は普段からここの仕事ではお金は貰わないようにしてるんだ。その代わり依頼達成時に依頼人の昔話を聞かせてもらうことを対価にしてる」


 それはそれでなかなか変わった対価な気がするがここでは普通なんだろうか。気にするだけ無駄かもしれない。


「貴方がそれでいいなら私も問題はないし、ええと……契約成立ですかね」


「うん。じゃあこっちの書類にサインしてもらって……内容はしっかり読んでね。不当な条件とかはないけど一応、騙すようなことはしたくないから」


 オーナーに差し出された契約書にさっと目を通す。確かに詐欺や騙して金を取るということは無さそうだ。サインを書いて差し出すとアイ・オープナーも署名し、オーナーが備え付けてあった鍵付きの棚に仕舞い込んだ。それを確認してアイ・オープナーが手を差し出してきた。


「先程ナイトキャップにも紹介されたけど、改めまして。俺のコードネームはアイ・オープナーだ。堅苦しいのは苦手だから敬語は要らないし、好きに呼んでくれればいい。

 宜しく、ジョディさん」


「さんは要らないし、私も敬語は要らないわ。宜しく、アイ・オープナー」


 差し出された手を握り返すと、何故か一瞬彼は泣きそうな顔をしたが直ぐに笑顔を取り繕って話を切り替えた。

 悪い人ではないというより善人だとは思うが、思ったより変な人なのかもしれない。判断を間違えただろうか……。

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