プロローグ
「ラスベガスの路地裏には、小洒落たバーがある」
「そのバーでは、合言葉さえ言えばどんな厄介事でもカクテルの名を持つエージェント達が引き受けてくれるらしい。それが奇跡に等しいことだとしても」
「無論、それ相応の対価も発生するらしいがな。ああ、金とも限らないよ。客とエージェント次第でその辺りの融通は効く」
「BARの名前はコックス・テール……カクテルの語源たる雄鶏の尾羽を名乗るそこが、君の助けになることを願うよ」
「ああ、でも合言葉を教えるのは次の勝負に勝ってからだ。まだ始まったばかりだろ?もう少し付き合ってくれよ、お嬢さん」
目の前にいるこのディーラーの男はやけに耳に残る声をしている。そのくせ顔はちっとも覚えられない。私が空気に酔っているからか、或いは────────。
いや、そんなことより今は勝敗をつけるのが先だろう。ここはラスベガスのカジノ、人の欲と金が蠢く場所なのだから。
「神も悪魔も魔法すらも、誠に存在する世界で君がどのような物語を紡ぐのか楽しみだよ。
ジョディ、どうか良き再会を」
勝敗の決まった後、男は私が去る間際何かを呟いたようだったが私の耳にそれが届くことは無かった。