Case1「運命の出会い」-8
ホテルのロビーにあるソファーに座り、周りに人がいないことを確認した後ブラッディ・メアリーはアイ・オープナーに一連の出来事を話した。アイ・オープナーは「なるほど」と小さく呟いてから長期滞在している客からの話をしてくれた。
「4階に滞在している訳では無いけれど、噂のことを知って調べようとしたことがあるらしい。ただその過程で老齢のスタッフに止められたんだとか」
「老齢のスタッフ? ここのホテルの人達だと数はかなり絞られると思うけど。どんな風に止められたの?」
「『そのようなスタッフはいないしここには幽霊もいない、4階そのものに特に何かある訳でもない』と断言されて、それでも調べ回るなら他のスタッフの業務に支障が出るから長期滞在の客でも追い出すと言わんばかりの剣幕で追い返されたって言ってたよ」
それは逆に明らかに何かある態度なのではないだろうか。ブラッディ・メアリーもそう思っているようで「そのスタッフの顔か、名前は分かる?」と続けた。
「立ち去る時に他のスタッフにキャンベルと呼ばれていたらしい。そのまま普通に仕事に戻っていったものの、ここのスタッフにキャンベルというスタッフはいないことを話を聞いた客の方が後々確認済だ。ただ……」
「ただ?」
「そのスタッフはディーラーの服を着ていたらしい。カジノの方で普通に仕事してるのも見たことあるって」
「ディーラーの中で老齢に該当しそうなのは一人だけね。ほら、さっき話してた彼よ。でもキャンベルなんて名前じゃなくて、カーターって人だけど」
さっきの壮年のディーラーのことだろう。でも何故違う名前なのに呼ばれて反応したのだろうか。渾名にしても奇妙というか、なんというか……。
「それと、4階の方に実際行ってフロアマップと部屋の位置を色々確認してきた。420号室があるべき場所には空間はないけど、他に歪な空間があるのは確認できたよ。ちょうど一室分の空間がね」
「本来あるべき位置との距離はどれくらい?」
「そう遠くはない。せいぜい50m程度だろうね」
「ふぅん。じゃあ他の人を呼ぶ必要もなさそうね」
会話の意図が読めずに二人の顔をきょろきょろと見ていれば、今は聞くなと言わんばかりにアイ・オープナーに微笑まれた。ここでは話せないことなのかもしれない。
「まあ何にせよ、彼が怪しいことには違いない。張ってみる?」
「いや、彼は尻尾を出さないでしょうね。私ならダンを張るわ。彼は間違いなく向こうの一員でしょうから」
「なるほど。君の目を信じよう」
「それから、もう分かってはいると思うけどこのホテルに入った時から目をつけられているわ。私が横にいるからジョディに手を出さなかっただけで4階の方に行ってたら彼女、間違いなく捕まってたわよ」
「え」
そうなの?と二人を見ると嘘を言っているようには見えなかった。本当らしい。
「もしかしてここに来る道中にそういう話もしなかったの?
はぁ……いやまあ悪いとは言わないけど更に伝えておくなら、昨日貴女を襲った奴と、ここに潜んでる奴、つまりお友達を連れていった奴も仲間だと思うわ。
ま、お友達は貴女をおびき出す為の囮になってると思うけどね」
「え!?」
ブラッディ・メアリーはあの男はケイティを狙っていたのではなく、相手の狙いは最初から私だったと考えているらしい。いやそんなことあってたまるものか。そもそもなんで狙われているのかも本当にさっぱりだ。
「メアリー、その話はまだするべきじゃないだろう」
「あら、今話しとかないとここからついていけなくなるでしょう? それともアイ・オープナー、貴方はこの子が発狂してもいいと思ってるわけ?」
「それは……そんなこと思ってないが」
顔を顰め、唸るようにアイ・オープナーは答えたが今発狂と聞こえたのは間違いであって欲しい。そんな人の気が狂うようなことがそもそも起きてるのが怖い。
「もし信じられないなら貴女の泊まる予定だった部屋を見てみればいいわ。お呼び出しの手紙が置いてあるはずよ」
幸いにも私達の泊まる予定だった部屋は4階ではない。アイ・オープナーの顔はまだ顰め面だが「俺達はそっちに行くからダンの方を任せた」と告げ、立ち上がったので私も状況を飲み込めないままとりあえず彼について行くことにした。
立ち去り際にブラッディ・メアリーがぼそりといった言葉がやけに耳に残った。
「何を怖がってるのかしらね、あの男は」




