9.籠のお嬢様
授業が終わった放課後、わたしは約束していた通りに、Annetteとの待ち合わせ場所へ向かった。
……とは言っても今日会うのはAnnetteであってAnnetteではない。
「あ、永遠!お待たせ!」
「藍梨!待ってたよ!」
セーラー服を着た黒髪ストレートの美人が、わたしに笑顔を向けてくれた。彼女こそが、Annetteの普段の姿であり、永遠という女子高生だ。
「お待たせ、先生に捕まりそうになって走ってきた。」
「例の佐倉先生?」
「そう。今日の小テストでマイナス1点のところあって……追及されると遅れるから逃げてきたの。」
「まあ、明日が大変になるんじゃない?」
「いいの。寝たら忘れるでしょ。」
「……まったく。」
カフェに入ると、個室に案内された。その個室には永遠と同じ制服の……これまた可愛い女の子がいて、手招きをしてくれた。ブロンド寄りの茶色髪がふんわりと揺れるミディアムヘアの子だった。
「茉姫、お待たせ。」
「永遠ちゃん!」
「……ええっと?」
「紹介します。こちらが私の同級生で、ユニットを組みたいアイドルの茉姫。」
「はじめまして、茉姫です。ええっと…Riaちゃん?」
「そうです!今は藍梨だけど。」
「藍梨ちゃん!よろしくね!」
永遠の同級生で、わたしたちとは同期の茉姫さん。彼女と話し始めると、すぐに仲良くできた。
「……それで?永遠から、アイドル活動ができないって聞いたけれど。」
「……はい。お父様にダメと……」
いろいろ話を聞く中で、茉姫さんの父親についてわかってきた。どうやら、アイドル活動と勉強の両立、ファンやアイドルとの交流に不安があるのだとか。
「永遠がいるから大丈夫って言ってもなかなか……」
「……あれ?応募は良かったの?」
「応募して、合格してから事後報告したの。」
「……意外とチャレンジャー?」
「茉姫はこう見えて、諸突猛進???な感じなのよ……」
「箱の中でずっと守られている人形なんて嫌だわ。大切にされることは嬉しいけれど、あたしはね、あたしのやりたいことを全力でやりたいのです。」
「強い……!」
「茉姫のお父様はきっと、茉姫がこんなに行動力で溢れているなんて知らないでしょうね。」
行動力を知らない……どんな人なんだろうか?
過保護なあまり、思い込みがあるとか?それなら、先にその思い込みをなくしてもらわないとだ。
「あのさ、茉姫さんの……」
「さんはいらないわよ?」
「……じゃあ、茉姫。」
「はい!」
「改めて……茉姫のお父さん、できないって決めつけてるんじゃないかな。」
「う……そうですね。」
「だから、直談判……というか、1回ぶつかってみたらどう?」
「ぶつかって……?」
「そう。全力でやりたいなら、全力でやりたいって強気で。」
思い付きで言ってみたものの、それは違うと言われたら気まずい……でもわたしは、直談判してみることを提案してみた。
ほんの少しだけ後悔しながら、反応を待っていると……返事は明るいものだった。
「そうよね!直談判!周りに説得してもらうように考えていましたけど……やっぱり、自分でぶつかってみなくては!」
「うんうん。藍梨、ナイスアイディア!直談判、私も一緒に行きます!」
「え……行くの??」
「「もちろん!!」」
……なんだか波乱が起こりそうな??
心配なので、わたしもついて行くことにしました。
「よっしゃー!行くわよ茉姫!」
「永遠さーん、言葉遣い。」
「あ、うふふ。ごめんあそばせ。」
……不安だ。