5.念願の瞬間
―・―・―
「……社長。今年の最優秀賞の情報です。」
「……あら。やっぱり、あたしの見込み通りだわ。」
「見込みですか。」
「ええ。Ria、彼女はあたしを超えてくれる。」
「その情熱、別の所で活かしてほしいものだけど……」
「ん?何か言った?」
「いいえ。それより、そろそろ会議の時間です。」
「わかったわ。」
社長室でにやりと笑みを見せる。
その手には、Riaの活動目録が握られていた。
―・―・―
「ふわぁ……」
「あら、眠そう。」
「昨日課題が多くて……しかも今日、土曜日なのに授業なんだもの……」
「私も今日は授業でしたよ。」
「授業なのはいいの。問題は、鬼のように課題を出される数学の授業なんだ。」
「でも、こなしてしまうんでしょう?」
「こなさないと、そこら辺にあるハンガーで机叩き出すんだもん。」
「それは……問題では?」
「いや、煽られて遊ばれてるだけだし、それは良いんだけど……」
話しながらバーチャルシステムを起動する。起動時の浮遊感にも慣れてきた。
「他の生徒にはキャーキャー言われて浮かれてるのに、わたしの時はほぼ喧嘩なのよ。ほんと、むかつく。」
「あはは……」
「あら、やっと会えた。」
「「……え?」」
声のする方を見ると、そこにはUsagiさんがいた。
「あ!Usagiさん!」
「なんか、大変そうね。学生さんなの?」
「ええ、まあ。」
「私は社会人。だから勤務終わりと有給が取れた時、それから普通に休みの日は来るの。」
「そうなんですか?!」
「時間も合わないから会うのが大変だったわ。」
ふふふと笑うUsagiさんに少し見惚れていると、思い出したかのようにUsagiさんは言った。
「そうそう約束したよね。あなたさえよければ、一緒に歌いましょ。」
「え、いいんですか?」
「あなたのパフォーマンス、すごくよかった。あなたみたいなアイドルなら、ユニット組んでみたいって思えたわ。あなたがまだ私と歌いたいって思っていてくれるなら、どう?」
「……!はいっ!」
「じゃあ、こっち。」
手を引かれて向かった先には、一人の女性がいた。
「マネージャー!連れてきたよ!」
「あ、この前の子?」
「……えっ?マネージャーいるんですか?!」
「うん。もう既に何回かお仕事やってるから。」
「歌唱力トップってすごい……」
「そんなことない。あなたにも来るわよ。だって、あなたが最優秀賞とったオーディション、あれは登竜門だもの。」
話がどんどん進み、追い付けていないけれど……念願だったUsagiさんとのパフォーマンスができる。……まさか、突然Usagiさんから誘われるなんて!
でも、迷惑はかけないように……
「あ、迷惑はかけないように……とか要らないからね。あなたの本気でパフォーマンスして。」
「え?はいっ!」
ステージの上でも、わたしはドキドキしていた。
「みんな!私の歌、聴いてくれる?」
マイクパフォーマンスで歓声が上がる。
まるでプロだ。わたしなんて足元にも及ばない。
……でも、Usagiさんと歌いたい!
「今日はRiaが一緒に歌ってくれるの!私の魅力も、Riaの魅力も、みんなに届くように歌うから、聴いてて!」
これは、念願の瞬間であり……それと同時に、わたしの人生を変えるくらい、大きなことが始まった瞬間だった。