3.新しい出会い
わたしは、ふわふわした感覚を味わっていた。
あれはいったい何だったのだろうか……
水の中にいるような浮遊感、水面が広がるように吸い込まれる感覚……
そして、気づいたらステージの上に立っていた……
「夢みたい……」
ステージに立ってすぐ、わたしは歌った。
でも、ドキドキしてたせいで記憶がほとんどない。
「楽しかったな……」
夢なのかもしれない。目が覚めればきっと普通の高校生活が待っていて、いつも通り勉強して…
そんな風に考えてみるが、手に持っている書類が正解なのだと思い出した。
《所属契約書》
……そう、わたしは合格したのだった。
アイドルとして、事務所Floriaに正式所属が決定したのだった。
アイドルとして活動を始めるまでにいくつかのイベントがあった。
バーチャルシステムの利用方法、注意事項の説明、登録……同期のアイドルとの懇親会もあった。
バーチャルシステムでは、基本個人情報を出さないため、ニックネームのような……活動名を決める必要があった。わたしの登録した名前は『Ria』。何も思いつかなかったので、藍梨を逆から読んでRiaにした。
「私はAnnette。よろしくね。」
「Riaです。」
懇親会には同じタイミングで合格したアイドルがたくさんいた。女性だけでなく男性もいて、みんなキラキラしていた。
……そんな中で、一人だけオーラの違うアイドルがいた。ウェーブヘアはふわふわと揺れ、大人っぽい。誰かと一緒にいるわけではなく、自ら一人でいることを選んでいるようだった。
「……?あれ、誰だろう?」
「……どの方?」
「ん?誰か気になる人でもいるのかい?」
「あの……ウェーブヘアの。」
「ああ、あれは『Usagi』さんだ。歌唱は満点。先輩たちからもユニット組んでほしいって言われている人だよ。で、ちょっと怖いよね。」
「確かに、強そうですね。んー……ちょっと怖いかも?」
「怖い?」
わたしには怖いという感情よりも、気になる、話してみたいという感情の方が強かった。丁度いいタイミングで声をかけてみることにした。
「あの。」
「……あら?」
「初めまして、Riaというものです。」
「こんにちは。何かご用?」
「特に重要なことではないのですが……あなたと歌ってみたくて。」
「……そう。でも、ごめんなさいね。私は誰ともユニットを組む気はないの。」
「……そうでしたか。」
どんな歌声なのか、自分の実力も兼ねて知りたかったな……
ちょっと落ち込みながらその場を去ろうとした時、Usagiが口を開いた。
「ねえ、あなたの歌声聞かせてよ。」
「……え?」
「私に声をかけてきたってことは、あなた歌に自信があるんでしょう?……なら。」
「なら?」
「私たちが初めに応募できる、新人オーディション、知っているわよね?」
「はい。」
「それで、優勝してみてよ。」
「……え?」
優勝……?
「優勝できたら、あなたと歌いたいかも。」
「……。」
「あら、できない?」
「えっ?あ……できます!」
わたしは、勢いで変なことを言ってしまった。……気づいてからでは遅かった。