19.あなたがいいから
面談室がすぐに使えるようになり、わたしたちは向き合うように席に座った。
佐倉先生はどんな結果でも受け入れると決めているからなのか、普段より優しい顔をしていた。
「……さて、じゃあ聞かせてもらおうかな。」
「その前に、先生。」
「ん?」
「一つだけお願いがあります。」
わたしは先生だってUsagiだって関係ない。そう伝えるつもりでいた。
……でも、まずはこれだけは確認したかった。
「……ワンフレーズだけ、歌ってくれませんか?Usagiの声で。」
「……は?」
「伝える前にこれだけ気になったんです。Usagiの歌声は、キー調整をしていない気がしました。」
「……よく気づいたね。河内の言う通り、何も調整したり、頼ったらしてないよ。俺は、俺の低い声が嫌い。だから、高い声も出せるようにしたんだ。」
「……嫌いなんですか?」
「自分の嫌いな部分って誰だってあるだろう?」
困った顔をしながら、先生は笑った。
そして、「ワンフレーズだけだからな。」と言ってから、深呼吸をした後に歌ってくれた。
「ー♪」
それは、わたしが大好きなUsagiの声だった。
「……本当にUsagiなんだ。」
「ははっ、ずっとそう言ってるじゃん。嫌だった?」
「……い、嫌なわけないです。だって、わたしは……Usagiの歌が大好きで……だから……ずっとUsagiと……普段の姿で、会いたかった……」
「うん。」
「全く知らない誰かよりも……先生で安心したんです。だから、わたしは先生と……Usagiとこれからも歌いたい。」
はっきりとは言えなかった。……でも、今のわたしの気持ちはちゃんと伝えられた。
先生は驚いた顔をしていたが、少しだけ涙ぐみながら話してくれた。
「……俺も、これからもRiaと歌いたいって思ってた。河内の気持ちがすごい嬉しい。こんな俺がUsagiの正体だけど、これからも『Wonder☆Land』を続けてくれるか?」
「……!はい!わたしのパートナーはUsagiがいいです!」
1ヶ月後……
「「みんな、ただいま!」」
わたしたちはもう一度、ステージに立てた。観客席にはわたしたちの色のペンライトが光り、「おかえり!」という声も歓声から聞こえた。
「……この景色、好きだなぁ。」
「いいよね、この景色。……また見れてよかった。」
初めてステージに立った時よりも息ぴったりなパフォーマンスで、この日のステージでは過去最高と言っていいくらいの拍手と歓声が聞こえた。
気持ちを伝えたことで、お互いの遠慮もなくなった気がする。……そう思えるくらい、楽しいステージだった。
「実はさ、マネージャー以外の誰か1人に男ってバレたら、アイドル辞めるつもりだったんだ。」
「え、もったいない!!」
「もったいない?」
「だって先生もUsagiも綺麗な歌声だから、もったいないなって。」
「ありがとう。……なんか、Riaと話してから昔からあったモヤモヤが取れた気がする。ていうか、Riaが河内って知ってから素が出せて、いつも以上にいいパフォーマンスができる気がする。……ありがと。」
「これからも、何かあったら一緒に乗り越えようね。わたしは大学受験とか就活とかもあるし……」
「なんとかなるよ、1人じゃないんだから。」
ステージの脇で話していると、観客席からアンコールの声が聞こえ始めた。
「さて、アンコールが聞こえてくるけど……どうする?」
「行く!」
「それじゃあ、行こう!」