17.伝えたいのに……
現実の姿……河内藍梨に戻って、Usagiが通ったであろう道の方を向いた。
「改めまして、わたしがRia……」
「はじめまして、僕がUsagiの……」
姿を見た瞬間、目が合った瞬間、わたしたちは固まってしまった。
「か……河内?」
「せ……先生?」
わたしの目の前にいるはずのUsagi。いや、現実の姿なのでUsagiの普段の姿なのだが……その正体を見た瞬間、わたしたちは驚きを隠さなかった。
Usagi、その正体は佐倉先生だった。
「……あれ?知り合い??」
固まって声が出ないわたしたちの空気を変えてくれたのは、マネージャーだった。
「知り合い……っていうか、教え子です。」
「知り合い……っていうか、先生です。」
そもそも佐倉先生とは……わたしの数学の担当教師で、あの女子からキャーキャー言われている、佐倉卯月のことだ。
ファンサービスするほどのノリの良さで、人気の教師のはずだ。……なのに、さっきUsagiの姿では「普段の姿は、あまり好きじゃない」って言っていた。
……だめだ、混乱している。
「Ria、大丈夫?」
「混乱するよな……」
でもバーチャルシステムでは、声の高さは変えられても歌唱力を矯正する事ができない。
……つまり、わたしの好きな歌声は先生の実力が高いから出せる。
「ごめん。……失望したよね?」
「してないです!!ただ、いつもの佐倉先生は、自信がないように見えないから。」
「確かに。」
「あの……」
「……大丈夫だよ。」
「え?」
「Riaが……いや、河内が俺とユニット組むのは無理だって思ったら、ちゃんと解消するから。ゆっくり考えて。」
失望なんてしない。……するわけがない。
だって、わたしはUsagiのファンだから、一緒に歌いたいって思えた。これからもそれは変わらないのに。
「……わかりました。」
「今日は遅いし、送るよ。」
「……ありがとうございます。」
解消しません。
答えは決まっているはずなのに……ハッキリと伝えることができなかった。
翌日。
モヤモヤが収まらず、授業も集中できなかった。先生たちも「調子悪い?どうしたの?」と聞いてくるので、誤魔化しておいた。
……そして、それを言うのはあの人も同じだった。
「河内、調子悪い?」
「え、ええっと……」
「まあ、原因は俺だよな。」
佐倉先生は申し訳なさそうな顔をしていた。
「河内、正直に言ってくれてもいいんだからな。」
正直に……とはなんだ。
わたしは、パートナー解消したいわけじゃない。
だってわたしはUsagiともっと歌いたいんだから。