13.籠を飛び出したいお姫様
「本気で言っているのか?茉姫。」
「はい、本気です。」
ついに茉姫が父親と話し合いをする日が来た。
茉姫こと、花井茉姫……彼女の父親は社長をしている。
そのため、父親であっても忙しく、話がしたいときには事前にアポイントメントを取らなくては、話す時間もないのだった。
「おひいさま……いくら旦那様がおられるからとはいえ、直談判……それも突撃なんて……」
「止めないで爺や。あたしは決めたの。」
「爺やは知っているでしょう?あたしがどれだけアイドルになりたいのか……それを止めなくてはいけない理由も。」
「はい……」
「あたしはもう高校生なの。成人だって近い。箱の中の人形なんて、もう御免なの!」
爺やは花井家の執事として茉姫のことを見守り、応援してくれる、茉姫の見方でいてくれる人だ。
……しかし、応援してくれる一方で、雇用主である茉姫の父親には逆らえず、事務所へ行くことを許してくれなかった。
「行ってくる。」
「……はい。爺やは止めません。爺やも実は見てみたいのですよ、おひいさまのアイドル姿。」
「……!そうなの?」
「はい、おひいさまの今までの努力、合格した時の喜びを知っておりますから。」
「うん。」
「それに、旦那様もきっとお許しをしてくださると思うのです。」
爺やの付き添いで、父親の書斎へと来た茉姫。
部屋へ招き入れられ、そこには驚いた顔をした父親がいた。
「お父様、お話が合ってきました。」
「……アポを取らないでくるなんて珍しいな。急用か?」
「はい。」
「何だね?」
「アイドル活動への許可をいただきに来ました。」
「……本気で言っているのか?茉姫。」
「はい、本気です。」
数秒間、沈黙が続いた後に口を開いたのは父親だった。
「……なぜそこまでアイドルにこだわる。」
「最初はアイドルになることが夢でした。……でも、夢で終わらせたくない。」
「歌なら聖歌隊でも歌っているのではないか?」
「聖歌隊に入ったのは、アイドルになりたいからです。」
「……。」
「お父様、あたしを守ってくれているのは感謝します。……でも、やりすぎです。少しでも怪我をしないと、埃まみれになってみないと……あたしは何も知らないまま大人になってしまいます。冒険、してみたいんです。」
「……。」
「バーチャルシステムは、普段のあたしとは違う姿なんです。本名も隠し続けられる。……迷惑なんて掛からないしあたしはあたしらしくいられるの!」
夢を現実にしたい、強く訴え続けた結果……茉姫の父親は諦めたような、しかし嬉しそうに笑った。
「茉姫、成長したな。」
「え?」
「そうだよな……少し守りすぎか……」
「……わかってくれたなら。」
「可愛い子には旅をさせよと言うもんな。」
「……可愛くなくてもさせるべきだと思います。」
「茉姫は可愛いから……離したくなかったんだ。」
「そう、ですか。」
「わかった。でも、何かあればすぐに禁止するからな。」
「……!はい。」
「学業、続けるのであれば聖歌隊も、疎かにするな。完璧にやれとは言わないが、疎かにしたらその時は活動を認めない。」
「はい。」
書斎から出ると、爺やが待っていてくれた。
「おひいさま……」
「爺や!お許し、もらえました!」
「……!やりましたね!」
「うん!」
「あ、そうそう。お客様がお見えですよ。」
「お客様?」
「茉姫!許してもらえたの?!」
「永遠ちゃん!!」
「おひいさま、永遠様。祝杯に、紅茶でもいかがでしょう?」
「「はい!!」」
また一人、新たなアイドルの物語が幕を開ける……