10.心配事はわたしにも……?
「さて、河内さん。昨日の、テストについてお聞きしようと思うのですが……」
「うっ……」
朝、学校に登校して……昇降口で、ばったりと佐倉先生に出くわしてしまった。スルーしようとすれば、さわやかな笑顔で「おはようございます。河内さん。」と声をかけられ、その目は笑っていない。
「な、何のことでしょうか?」
「昨日行った数学の小テスト、50点満点中49点でしたね。」
「ご……合格点でしたけど?」
「あなたは合格点で満足でしょうか?」
「え?はい。」
「……へぇ。」
なにこれ?!怖い怖いっ!!
「たかが1点と思ってるだろ?」
「あ……」
「いいか河内、たかが1点。……されど1点だ。」
「……あぁ。」
「たったの1点だとしても、その1点の分、理解ができていないということ。つまり、その理解ができていない範囲は今後増えていくと考えれば……」
「はぁ……」
登校してきて早々……まさか説教されるなんて。
「つまり、合格したからといって……」
「あははっ、藍梨が佐倉先生と話してる。」
「あ、先生だー。おはようございまーす。」
「おう、おはよう。」
「先生、今日も質問に行っていいですかぁ?」
気づいたら、周囲には佐倉先生と話したい学生が、うじゃうじゃと来ていた。
……逃げるなら今かな。
「では、失礼します。」
「あ、ちょっと!」
先生には悪いけど、わたしは今暇じゃない。茉姫のために、わたしができることを考えないとなのだから。
それだけじゃない。わたしはアイドルになったんだ。Usagiに幻滅されないように、もっとわたしが輝けるようにならないと……そのために、わたしと向き合って、勉強もレッスンも頑張るって決めたんだ。
「……河内?」
「先生ってば!」
「あぁ、はいはい。」
……放課後。
今日はレッスンがないので、学校の図書館で課題をすることにした。永遠と茉姫とは、レッスンがない日は作戦会議をすると話していたが、今日は茉姫が所属している聖歌隊の活動がある日らしい。
課題もあっさりと終わってしまい、早めに提出でもしようかな……なんて考えていた。
「……早く帰りたいし、提出しに行こう。」
朝みたいに説教されるのは面倒だから、先生が不在だといいなと考えながら職員室に向かった。
「……失礼します。」
「はい、どうぞ。」
「佐倉先生からの課題を提出に来ました。」
「あ……佐倉先生は今、会議中なんだけど。」
「大丈夫です。置きメモ用意するので、それと一緒に置いていただけますか?」
「分かりました、いいですよ。」
そういえば、すっかり忘れていたけど。朝、会議があるって言っていたな。
まあ、そっちの方がいいけど……
「はぁー、会議終わった……」
「あら、佐倉先生。御用の生徒さんが来てますよ。」
「え?僕に用ですか?」
「はい、そちらの……」
……なんという、タイミングの悪さ。とりあえず、逃げるか。
「あ、河内か。なんか分からない問題でもあった?」
「いえ、課題の提出に。……では、失礼します。」
「待て待て、ちょっと話がある。」
「な、なんですか?」
「河内さ、最近何かあった?」
「……え?」
これは、何か嫌な予感がする……