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パートナーは誰ですか??  作者: 海歌月
迷い込んだのはアイドルの世界
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1.はじまりときっかけ

「もう、周りに合わせるの……やめようかな。」

 

 周りに気付かれないように、溜息をつく。

 わたしは、河内藍梨。どこにでもいる高校生一年生だ。成績は怒られない程度に良い評価をもらっていることが多い。クラスの中では、流行も取り入れる今時女子……という感じだ。


 ……なぜ、周りに合わせるのをやめたいのか。それは、精神的に疲れたからである。


 クラスメイトの彼ら彼女らに合わせた話題を探すとなると、流行を知ることが手っ取り早い。仲間外れになったらそれはそれで面倒くさいため、合わせていることが多いのだ。


 人間関係ってこんなにも大変なものだっけ……?

 流行が拒絶するくらい嫌いというわけではないし、我慢すれば仲良くしてくれる知り合いも増えるだろうからと、普段は流行に興味があるように接する。

 でも、それは本当に好きなものとは違うし、最近は楽しくないな。


 友人と話していると、始業のチャイムが鳴る。話を続けていると、後ろから誰かが話しかけてきた。


「授業始めるぞ。それ、しまって。」

「……佐倉先生。」


 机を囲んでいた友人たちは話しかけてきた教師を見ると、返事をしながら自分の席へ戻っていった。


 佐倉先生とは、わたしたちのクラスの数学の授業を担当している教師である。本名は『佐倉卯月』。国立大学に現役で合格・卒業し、今年から教師として高校に務めている超新人で、まあまあかっこいいエリート教師である。ツンデレ要素のある人で、その魅力(?)で教師になってすぐにファンクラブが作られるほど人気がある……らしい。知らんけど。

 そんな教師は、わたしが物をしまう様子を不思議そうに見ていた。


「へー……。河内って、頭いいから真面目かと思ったけど、流行とか気にするんだ。」

「……勉強はします。あとから後悔するのは嫌なので。」

「真面目じゃん。」


 話し終わると、佐倉先生は教卓に教科書やらを置いて、紙の束を持った。


「……今日はテストを返すぞー。わからなかった問題は解説するから、全部ノートに解きなおして明日提出すること。」

「えー。」

「えーじゃない。やりたくないなら、最初から100点取ればいいんだから。それじゃあ、返すぞー。」


 ふと、さっき言われた言葉を思い出す。


「流行とか気にするんだ、か……」


 流行なんて今はどうでもいい。

 元々は流行りのものが好きだったのに。なんだか追わなくちゃと焦っていたら疲れてしまったので、今はそこまでじゃない。


「もう、周りに合わせるの……やめようかな。」


 誰にも聞こえない声でつぶやいた。周りに気付かれないように、溜息をつく。その時、机にしまったはずの雑誌が音を立てて足に落ちてきた。


「……?」


 雑誌にはチラシが挟まっていたらしく、落ちた勢いで宙を舞ったチラシが一回転して、わたしの机の上に乗った。


「…ん?」


 チラシを仕舞おうとした時、1つの宣伝に興味を持った。


「バーチャルアイドルオーディション……?」


 バーチャルということは、顔を隠して活動できるということか?誰にもわたしが、わたしだと知られずに……


「……次、河内。」


 なんて魅力的なのだろう。顔を出したりしないからこそ、自分の好きな姿になれる。普段は流行を追う普通の女子高生で、中身は大好きなものを楽しむアイドル……ありかもしれない。


「……河内?」


 そしたら、やることは一つ。このオーディションを調べるために……


「河内!」

「はいっ! ……あれ?」

「……テスト、取りに来いって。」

「あ……」


 すっかり夢中になっていた。クラスメイトたちは、くすくすと笑う。……悪気はないんだろうけど、こういうのは苦手だ。


「……すいません。」

「まったく……はい。」


 テストを受け取り、半目で点数を見ると、そこには92点と赤ペンで書かれていた。


「……そんな半目で見なくても大丈夫。悪くない点数だろ?」

「低かったら嫌です。」

「まあな。……それにしても、お前すごいな。最高点だよ。」


 クラスがざわめく。最高点……ちょっと嬉しい。

 ……ていうか、この先生〝お前〟呼びするんだ。


 自分の机に戻り、テストを見直すと、最後の方の問題をいくつか計算ミスしていただけだった。


「……悔しい。あと一歩だったのに。」


 テストの点数を確認し、少し安堵すると、再びバーチャルアイドルについて気になった。……帰ってからでも遅くはない。バーチャルアイドルの件は、夜にでも考えよう。


 自室に入るとすぐにオーディションについて調べた。

 まずは事務所について。その事務所は、『Floria』といういくつもの伝説を作り上げたバーチャルアイドルが設立した事務所だった。Floriaなら、わたしも知っている。……確か、ユニットで活躍していたけれど、現在はソロ活動をしている。もう一人は活動を休止して、それ以来ステージ上に現れないとか……


「実績もある……事務所としては良いのかも。」


 オーディションについてもっと調べる。性別、年齢は問わない。最初の書類審査の後、第二審査では面接が行われ、最後は歌とダンス、演技をそれぞれ審査するらしい。


「歌……」


 応募したいと思った。歌は好きだし、アイドルにもバーチャルの空間にも興味がある。結果にこだわらず、挑戦したい。頑張ってみたいって思った。


「やってみよう。」


 きっと、これに応募しなかったら後悔する。それに、せっかくの自分が変われるチャンスなのだ。挑戦するという選択肢を選ぶしかないと、自分の中で決意した。


 数日後……


「……ちゃんと届きますように!」


 事務所に書類が届いて、自分のことを審査してくれますようにと、封筒とポストに念を送った。

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