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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

屋根裏の君

作者: 夏月七葉

 天井から物音がする。

 初めは鼠か何かだろうと気にも留めていなかったが、流石に連日も続くと五月蠅いし、不気味な想像も浮かんできてしまう。僕は意を決して、天井裏を覗いてみることにした。

 押し入れの天井部分を開け、恐る恐る頭を突っ込んでみる。

 ぽっかりとした真っ暗な空間は、空気が少し湿って埃の臭いがする。懐中電灯に照らされた円い光の中に、断熱材と木の梁が浮かび上がる。

 僕は端から順にぐるりと光で照らしていった。どの方向も変わり映えはなく、特に何がいるわけでもなさそうだ。

 安堵しつつ一周を終えようとしたその時、丁度西の方角に小さな黒い影があるのが見えた。梁の上から少し飛び出たそれが動くのを見て、僕の心臓が跳ね上がる。

 一体何なのかよく理解できずに恐怖で固まる僕の目の前で、黒い影はあろうことか梁の上にぴょんと飛び乗った。

 悲鳴が喉元まで出かかった僕が目にしたものは、恐ろしい怨霊の類――ではなく、一匹の仔猫だった。

 拍子抜けて悲鳴を飲み込む僕に、仔猫は「にゃーん」と一声鳴いて、迷いもせずに近寄ってきた。そして、甘えるように腕に頭を擦りつけてきたのである。

 仔猫の毛足は長く、泥や埃で大分汚れていた。元の模様も判らないような有様なのに、その宝石のような黄色い瞳を丸くさせて、可愛らしく僕の顔を見上げてくる。

 僕は半ば当然のように、仔猫を抱き抱えてそのまま風呂場まで連れていった。シャワーで汚れを流してシャンプーで洗ってやると、絨毯のように艶やかな三毛の模様が露わになった。

 仔猫は人懐っこかった。何処かの飼い猫がうちの屋根裏に迷い込んでしまったのだろうか。そう思った僕は暫く飼い主を探してみたのだが、それらしい人物は見つからなかった。

 しかし数日も一緒にいると、情が移って可愛くなるものだ。僕はその仔猫を家族に迎えることにした。

 しかし共に生活を始めると、少し不思議なことが起こるようになった。

 部屋に出た蜘蛛を仔猫が追い回してじゃれつき、動かなくなった蜘蛛を処理しようと近づくと、仔猫の足許でぴょんと起き上がって逃げていった。

 夜中は決まって仔猫の姿が見えず、戸締りはしっかりしているから何処かの隙間にでもいるのだろうが、それにしても気配がない。

 不可解な現象は度々あるが、仔猫との暮らしは癒しと楽しさに満ちていた。


 ――そのフサフサの毛に覆われた尻尾が二又に分かれていることに僕が気がつくのは、もう少し先のお話である。

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